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第53話 解放された男

――寒獄島


 寒獄島――そこはアメリア王国の北地域ノーザーブロックの最北端にある最大の監獄。

 いずれも終身刑以上のもの凶悪犯罪者のみが幽閉される最低最悪の地獄。

 入獄者の入場のときしか開かない鉄の巨大な門の扉がゆっくりと開き、赤色の髪を長く伸ばした長身の髭面の男が出てきた。


「んーーー!」


 赤髪に長身の髭面の男は、大きく背伸びをすると、


「久々の俗世の空気、中々感慨深いものだな」


 そう独り言ちる。そして、門の前で胸に右手を当てて佇む二人の男女へと視線を向けた。


「殿下、ご機嫌麗しゅうございます」


 筋肉質で目つきの悪い短髪の男が、髭面の男に右手に持った紅のローブを着せる。


「殿下、これを」


 メイド姿に眼鏡をした黒髪の女性が、恭しく黒色のナイフを渡す。


「ご苦労さん」


 赤髪の髭面の男は眼鏡のメイドから黒色のナイフを受け取ると、伸びに伸びた髭を剃り始める。

 髭を剃っていく度に、美しい青年の顔が露になっていく。


『クヌート』


 黒色のローブに仮面の男が、赤髪の青年クヌートの背後に忽然と出現していた。


「カリブディスか」


 赤髪の美青年は仮面の男を一瞥すると笑みを浮かべる。


『出るまで随分、長かったなぁ』

「まあねぇ。一応、ここってアメリア王国最大の監獄だしな」

『この我以上の力を持つ化け物がどの口がいう? お前ならこんな人間の作った箱庭など瞬きをする間に破壊しつくせるだろうに』

「まあ、それは否定しないがね」


 筋肉質で目つきの悪い男から、クヌートは長剣を受け取ると柄に手を触れて寒獄島の監獄に向き直る。

 そして、鞘から刀身を抜き放つ。そして、軽くおもむろに一振りしてクヌートは要塞に背中を向ける。

 次の瞬間、ズルッと巨大な要塞は真っ二つに割れていき、次いでいくつもの破片に分解されてしまった。

 

『バケモノめ! 我が召喚されたときよりも、存在強度が桁外れに増しておるか……』


 黒ローブの男、カリブディスどこか苦々しい言葉に、


「さて、兄上にでも会いに行くか」


 長剣を鞘に納めて、クヌートは寒獄島唯一の港へ向けて歩き出す。


『おい、この施設壊してよかったのか?』

「ここには重罪を犯した屑と私腹を肥やしている豚しかいない。私が納める世界では不要な存在だ」

『ならなぜ今の今まで黙って投獄されていたんだ?』


 半場呆れたように肩を竦めるとカリブディスに、


「私にかけたヨハネスの結界術は相当強力だ。私でもそう簡単には破れないさ」


 クヌートは両手を上にあげて肩を竦める。


『はっ! 出鱈目もいいところだな。あれの術が常軌を逸しているのは認める。だが、お前なら破ることはできぬまでも、脱出くらいはできたはずだ』

「それは買いかぶりだな」

『いんや、極めてまっとうな判断だよ。大方、真の理由は、お前の今のその力だな?

悪感情を食らって成長するというギフトだったか。確かに、ここなら悪感情にはことかかないだろうが。おまえ、我の召喚当初からすでに我すら超えていただろう? それ以上、強くなってどうする?』

「強さを求める理由か。カリブディスぅ、そんなの決まってるだろ?」


 クヌートの屈託のない笑顔を目にし、


『まったく、お前はどの悪神以上に悪らしい。お前のような怪物を弟に持ったこの国の国王には心底同情する』


 カリブディスは首を左右に振ると、クヌートのあとについて歩き出す。クヌートの臣下の二人もそれに続き、王位承継戦は新たな局面を迎える。



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[良い点] かませ一丁、入りましたー。 [気になる点] 悪意を吸ってパワーアッブ?残年ながらカイと図鑑の愉快な仲間たちは「善意と崇敬の念で動いてるからパワーアッブ出来ませんね(棒)」 [一言] >『ま…
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