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第51話 だから、今のお前は救えないんだ

 微睡をさまよっていた意識は、突如全身に生じた冷たさに急速に浮上し、上半身を勢いよく起こす。

 そこは周囲が緑色の海で囲まれた密林だった。

 そして、ギルバートの傍には見知った顔が数人佇んでいる。


「父上……宰相……ッ‼?」


 最後の一人を視界に入れて、強烈な恐怖と驚愕により、みぞおちを打たれたように声も立てられなくなる。

 三人はそんなギルバートなど歯牙にもかけず、話始める。


「こんなロクデナシでも俺の息子だ。チャンスを貰い、礼をいう」


 アメリア王国国王、エドワード・ロト・アメリアがカイ・ハイネマンに感謝の言葉を述べる。


「感謝なら、少年ソムニとあのそばかすの少年にでもするんだな。彼らはあんな仕打ちを受けても結局、そこの屑の極刑の回避を望んだ。私がそこの屑にチャンスをやるのは彼らの意思を尊重したからだ」

「わかっている。殺されかけた二人にはあとで俺から――」


 カイ・ハイネマンは右手により、国王たる父上の言を遮る。


「止めておけ。別に二人がそこの屑を許したわけではない。それに二人とももうお前ら王家の連中と関わるのはうんざりだとさ」

「そうか……そうだろうな……」


 どこか、さみしそうに父上はそう独り言ちた。


「陛下、時間もおしておりますれば」


 宰相が父上に進言すると、


「そうだったな」


 父上は大きく息を吐きだして、ギルバートを見下ろした。


「ギルバート、お前は配下殺しという王族として最もやってはならぬ罪に手を染めた。お前がこうして生きていられるのはお前が虫けらのように扱ったものたちの慈悲にすぎん。

 願わくば、一人の親としてお前がこの苦難、乗り切れんことを切に願う」

「父上、言っている意味がわからないよっ! 苦難って何さ⁉」


 その言葉に潜むただならぬ不穏な空気に強烈な焦燥を覚えて、ギルバートは声を張り上げていた。

 父上はギルバートの疑問には一切答えようともせず、瞼を大きく瞑ると、


「やってくれ」


 噛みしめるような口調でカイ・ハイネマンに頼む。


「サトリ!」


 カイ・ハイネマンは軽く頷くと、いずこから本を右手に取り出して叫ぶ。

 まるで煙のように出現する緑色の髪をおかっぱにした少女は、


『至高の御方(おかた)様、お呼びですか?』


 カイ・ハイネマンに恭しくも跪く。


「そいつの記憶を一時的に消去しろ。そうだな……」


カイ・ハイネマンはしばし、顎に手をあてて考えこんでいたが、


「私が今からいう条件を満たしたとき、記憶を回帰するようにしろ」


 そう緑髪もおかっぱ少女に命じると、ゆっくりとその条件を口にする。



「そうか。本当にすまんな」


 父上はカイ・ハイネマンが口にした条件について瞼を固く閉じていたが、奴に向き直ると深く頭を下げる。

 大国たるアメリア王国の現国王が無能に頭を下げている。その事実は少し前ならば、よほど奇異に映ったのだろう。だが、今やギルバートにはカイ・ハイネマンが正体不明の怪物にしか見えていなかった。その怪物に父上はギルバートを売り渡そうとしている。そんな

 おぞましい考えが脳裏をかすめて――。

 

「父上、やだよ! 助けてよ!」


 子供のように父たる国王に懇願のセリフを叫んでいた。


「ギルバート、お前の王位承継権は一時的に停止されるが、失われるわけではない。もし、お前が真の意味でアメリア王国の統治者に必要なものを獲得できたならば、再び王位選定戦に復帰することを許そう」

「言っている意味がわからないよっ!」

「そうだろうな。カイのだした条件を聞いてもわからない。だから、今のお前は救えないんだ。でもな、どんなに出来損ないでも、お前は俺の息子。頼む、カイの出したこの試練、見事、くぐり抜けてくれ!」


 そう裏返った声で叫ぶと父親は背中を向けてしまう。国王たる父のその肩を震わせる弱々しい姿をギルバートは生まれて初めて目にし、茫然としていると、

 

「サトリ、やれ」


 カイ・ハイネマンの指示が飛ぶ。


『御意に』


 気が付くと緑髪の少女が眼前に出現し、その掌をギルバートの頭部へ伸ばす。次の瞬間、ギルバートの意識は深い眠りへと沈んでいく。


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