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第9話 懐かしの声

 馬鹿王子(ギルバート)の調教の終了後、ローゼを通して厳重注意を言い渡される。

 結構無茶もした自覚は一応あるにはある。バベルの塔の支配者たちからそれなりのペナルティーを受けると思っていたんだが、拍子抜けだ。ま、ローゼには悪いが実力行使してきたら、全力で抗わせてもらうつもりだが。

 王族でしかも実の弟に対しその頭を掴んで無理矢理地面にぶちまけた料理を食わせたのだ。多少は複雑な表情を予想していたのだが、ローゼは妙にスッキリした顏で「ギルには丁度よい薬です」と発言していた。

 本来ローゼはあの手の行為が嫌いなタイプだ。相手がいくら札付きの悪たれでも、同様の行為をすれば咎めくらいする。なのに、あのむしろ存分にやってくれのリアクション。それほど彼女の堪忍袋の緒が切れる寸前ということかもしれない。ま、帝国に売り渡されそうになったり、変態の玩具にされそうになってもいるし、当然と言えば当然かもしれん。

 そんなこんなで、バベルでの生活が開始される。

 宿を変えたのだろう。私たちが泊っている宿で、ライラとその従妹のルミネは一度も遭遇しなかった。きっと、ルミネの奴が泣きついたな。ルミネは昔から私にライラを取られると思い込む傾向が強かったし。

 そして、一週間をブラブラと過ごした結果、試験当日となる。

 当初は試験など受けるつもりはなかったが、ローゼにあまりに必死の形相で何度も懇願され、遂には根負けしていまう。

 情報屋から仕入れた情報では、この都市には勇者のチームがおり、ギルバート派の屋敷に頻繁に出入りしているらしい。王位選定戦でギルバートのロイヤルガードに勇者チーム所属の賢者サトルが選定された以上、勇者がギルバート派についたのはほぼ確定だろう。

 要するにローゼにとって既にこの都市は危険極まりない場所となっている。ここまで首を突っ込んだしな。ローゼを見捨てるつもりは毛頭ない。どの道、ローゼから長く離れるわけにはいかないなら、学生の真似事をすることにも一定の合理性はあるだろう。


「カイ、くれぐれもやりすぎないでくださいね。無難が一番です」


 お前は私の母親かとツッコミたくなるような台詞で、ローゼに宿の前で見送られバベルの中心に聳え立つ摩天楼へと向かう。

 塔の広大な一階の床には真っ赤な絨毯が敷き詰められ、壁には神鳥を模した装飾が施されている。どことなくハンターギルドを思わせるような構造だが、そもそもハンターギルドの創設者はこのバベルの塔の初代学院長だと聞く。こちらが元祖ということだろう。

 それにしてもすごい人だな。このとんでもなく広い広間は、受験生と思しき学生で溢れかえっていた。

 受付カウンターへ伸びる長蛇の列の最後尾に並んでひたすら待っていると、ようやく私の順番になる。


「受験票を提示するうように」


 受付カウンターで、黒髪を七三分けにした男性職員にローゼに渡された受験票を渡すと、【20456】との番号が書かれた金属の板と試験のプログラムのようなものを渡され、


「そのプレートを持って試験会場へ向かいなさい」


 そう指示を出される。

 試験会場ね。このパンフレットに色々書いてあるようだな。

数枚の羊皮紙を眺めると、案の定、試験についての委細が記載されていた。

午前中が適正試験、午後が実地試験らしい。

 ローゼがいうには適性試験はあくまでバベルで学ぶに相応しい最低限の適正を見るためもの。試験で重点が置かれているのは圧倒的に実地試験で、適性試験はあくまで最低限の目安にすぎないらしい。まあ、私のギフトは『この世で一番の無能』だ。さらに私は魔法が使えん。もしかしたら、適性試験で弾かれるかもしれんが、それはそれ。そもそも私は学生の真似事にそこまで興味はない。仮にそうなったら、ローゼの保護についてはまた別途考えるさ。

 指示された場所に向かうべく踵を返そうとすると、


「なんで、あんたまでいるのよっ!」


 聞きなれた音源の方に顏を向けると、ブロンドの髪をボブカットにした少女ルミネが今にも噛みつきそうな勢いで眉目秀麗な茶髪の少年に怒声を上げていた。


「それはこっちの台詞だ!」


 茶髪の少年も負けじと睨み返す。

 あれはルミネとローマンだな。この状況も手に取るようにわかる。ルミネがいる時点で、きっとライラもこの試験を受けているんだろう。

 ラムール出立前に私の手紙が不要と言ったのはそういう意味か。あの迷宮に吸い込まれる前まで私はこのバベルを行動の拠点とするつもりだった。そりゃあ、このバベルに来ているならいつでも会えるし、不要だろうさ。


「あたいは、お姉様とずっと一緒! ついてきて当然!」

「僕だって修行のためにこのバベルにきている! お前にとやかく言われる筋合いはない!」


 ホント似た者同士の二人だ。同じレベルで張り合っている。

 そんな素朴な感想を浮かべながら遠巻きにいがみ合う二人を眺めていると、


「カイ?」


 とても懐かしい声に咄嗟に振り返る。そこには――10万年前と変わらず、長いブロンドの髪の美しい少女が驚いた顔で、こちらを見ていた。


「ライラ……か?」


 思わず口から漏れる疑問の言葉に、


「もうッ! それ以外に見えますのっ⁉」


 ぷくーと頬を膨らませるライラ。


「すまん、すまん、ついな」


 久方ぶりに生じた僅かな動揺を胡麻化すように、遥か昔にしたようにライラの頭をそっと撫でる。


「……」


 ライラはしばし無言で見上げていたが、


「カイ、少し大人になりましたの?」


 そんな母上殿とそっくりな感想を口にした。


「かもな。何せ色々あったものでね」


 苦笑しつつ返答する。それにしても、マズイな。母上殿に対するように口調を昔に戻せない。


「あー、カイ・ハイネマン、お姉さまから離れろ!!」

「カイ! なぜ貴様がここにいるっ!?」


 二人揃ってほぼ同時に私を発見し、似たような叫び声を上げる。

 ホント、お前たちは似た者同士だよ。


「じゃあな。私は当分この都市にいる。機会があればまた会おう」


 右手を軽く上げると、ライラ達に背を向けて、実に私らしくない言葉を口にし、受験生たちの群衆に姿を溶け込ませる。



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[一言] 少し大人(十万とんで十四才)
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