表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

116/178

第41話 風猫の村での日常 ミュウ

 窓の外から聞こえてくる朝の到来を告げる小鳥の囀り。カーテンの隙間から差し込んでくるあまい光にミュウはフカフカのベッドの上で目を細めて背伸びをする。すぐ隣には、ファフちゃんが、


「もう食べられないのです……」


 幸せそうな顔で寝言を口にしながら、寝返りを打っていた。

 この部屋はカイお兄ちゃんの部屋。最近はずっとファフちゃんとカイお兄ちゃんと寄り添って眠っている。当然、忙しく朝の早いお兄ちゃんは、既に部屋にはいなかった。

 目を擦りながら身体を起こすと、アンナお姉ちゃんが部屋に入ってきて、カーテンを開けると、


「さあ、ファフ、ミュウ、下で顏を洗ってらっしゃい。その後、朝ごはんにしよう!」


 笑顔で優しい声色で語りかけてくる。

 アンナお姉ちゃんは、いつもミュウとファフちゃんの優しいお姉ちゃんでとっても大好きだ。


「ハーイ!」

「ファフちゃん、行こう!」


 まだ、目を擦って欠伸をしているファフの手を引いて外の水くみ場へと歩いていく。

 外の水くみ場で取っ手を捻ると冷たい水が流れ出す。なんでもこれは、井戸ではなく、近くの川から直接水を引いているんだそうだ。将来的には家の中でも使えるようにすると、カイお兄ちゃんが悪い笑みを浮かべていた。難しくてよくわからなかったけど、ローゼお姉ちゃんやフェリスお姉ちゃんが絶句していたことからも、とてもすごい事なんだと思う。

 再度建物の一階にはいると、皆が食卓についていた。


「ご主人様!」


 今も寝ぼけていたファフちゃんが、パッと顔を輝かせて、キッチンの椅子に座っているカイお兄ちゃんに抱き着くと、そのお腹に顏を埋める。

 ファフちゃんはカイお兄ちゃんがとっても大好きで、基本いつも一緒にいる。そして、カイお兄ちゃんが長く不在になるとファフちゃんは不安でたまらなくなるようだ。ミュウも突然、離れ離れになったお父さん、お母さん、お姉ちゃんたちと毎日会いたくなるし、その気持ちは十分すぎるほどわかる。きっと、ファフちゃんにとってカイお兄ちゃんは、ミュウにとってのお父さんたちのような掛け替えのない大切な人なんだと思う。

 ミュウがファフちゃんの隣に座ったとき、台所からエプロン姿の狐の獣人、九尾お姉ちゃんとアンナお姉ちゃんが、料理を両手に持って姿を現した。


「できたでありんす!」

「完成したよ」


 九尾お姉ちゃんとアンナお姉ちゃんがテーブルに料理を置くと、


『わぁ、ねぇ、ねぇマスター、これ僕の好物のハンバーグだよっ!』


 カイお兄ちゃんの膝の上にチョコンとお座りしている子狼、フェンちゃんが目を輝かせて尻尾をブンブン振る。


「ああ、フェンは肉料理が大好物だもんな」

『うん! 僕、肉がだぁーーい好き!!』


 小さな肉球を掲げて自己主張をする姿に思わず頬が緩んだ。フェンちゃんは、反則的に可愛いのだ。

 朝食を作ってくれていた九尾お姉ちゃんとアンナお姉ちゃんも席に着いたのを確認して、ローゼお姉ちゃんとアンナお姉ちゃんが手を組んで神に感謝のお祈りを始めたので、ミュウも習う。

 もっとも、カイお兄ちゃんは膝の上のフェンちゃんを撫でているだけだけだし、ファフちゃんは足をバタバタさせて眼前の料理に釘付け中。九尾お姉ちゃんは、カイお兄ちゃんの皿に料理を取り分けている。ザックお兄ちゃんは大きな欠伸をしながら背伸びをし、アスタお姉ちゃんにおいては、熱心に本を読んでいるだけで見向きもしない。皆、ホント、フリーダムだと思う。


「では食べましょう」


 お祈りが終わってローゼお姉ちゃんの言葉で皆一斉に料理を食べ始める。



 料理を食べ終わると、午前中は勉強と修行の時間だ。

 勉強は物知りなアスタお姉ちゃんが教えてくれる。アスタお姉ちゃんはかなり面倒そうだったけど、とても丁寧に教えてくれた。

 勉強が終了したら修行だ。

 修行はカイお兄ちゃんに無理に頼みこんでさせてもらっている。もう二度と逃げるだけの人生などまっぴらだ。今度はお父さんたちをミュウが守ってあげられるようになる。それがミュウのした新たな決意。

 いつものようにカイお兄ちゃんに無属性の強化魔法の手ほどきを受ける。お兄ちゃん曰く、ミュウにはこの魔法の適性がずば抜けているらしい。

 ミュウ達獣人族は元々、人族やエルフ族と比較し、魔法の適性に乏しい種族だ。だが、これはあくまで属性魔法についてのみであり、無属性魔法においては逆にミュウたち獣人族の方に強い適性があると、カイお兄ちゃんは断言していた。

 今まで魔法の適性がない事につき、獣人族は皆、例外なく劣等感のようなものを持っている。だからミュウは強化魔法の適性があるとお兄ちゃんから言われたことが、どこかムズ痒くて誇らしかった。

 魔法の修行が終わると、次は戦闘訓練。

 

『ダメだ! まったく重心がのっとらん!』


 ネメア先生からの注意が飛び、


「はい!」


 右拳を全力で突き出す。たったそれだけで、嵐のような爆風が吹き荒れ、地面が大きく抉れる。

 もちろん、本来ミュウにこんな力はない。この原因はミュウの親友のファフちゃん。カイお兄ちゃんの分析では、ファフちゃんが無意識にミュウに『加護』というものをしてくれた結果らしい。カイお兄ちゃんもミュウのこの変化には驚いていたようで、他の人たちの受けた『加護』とは相当異なるそうだ。

ともかく、既にミュウが本気で拳を振るっただけで、地形を変動させてしまうほどになってしまっている。だから、修行はノーちゃんの『領域』という特殊な空間で行っている。なんでもこの場所では時間の進み方が遅くなるので十分な修行ができるんだそうだ。

 

 ヘトヘトになるまでネメア先生の訓練を受けた後、【新都市ケット・グィー】へと帰宅する。

 この村はフェリスお姉ちゃんの家族の住む場所で、色々な意味でかなり特殊な場所だ。

 ミュウがまだ一度も目にしたことがないような精巧で絢爛な建築物に、石造りの通路。噴水や公園まである。これらを作っているのはアリスちゃんを中心とした緑色のローブにとんがり帽子を被った人たち。アリスちゃんたちは、終始ご機嫌な様子で魔法を手足のように扱い、村を改造している。直ぐ周囲が人っ子一人いない山奥なのだ。都会のような村の景色と周囲の森はあまりにギャップがありすぎて違和感しかない。

 さらに、変わっているのは――。


「教官、たった今、作業の全工程が完了いたしましたぁっ!」

 

 数人の男女が背筋を伸ばして整列し、額に右手を当てて、鼻の長い――ギリメカラおじさんに報告する。


『ご苦労! 本日の作業はこれで終了だ。各自十分な休憩をとるように!』


 ギリメカラおじさんが満足そうに頷き、大声を張り上げると、村の人たちは再度敬礼し、各々の家に帰っていく。

 この村の人たちは終始こんな感じ。キビキビと動き、声が大きい。何より、カイお兄ちゃんの事になると様相が一変する。

 特にギリメカラおじさんたちと一緒に、カイお兄ちゃんの家の前で毎日のようにお祈りを捧げている。きっと、村の人たちにとってカイお兄ちゃんは、神様のような存在なんだと思う。お兄ちゃんはこれが大層、嫌なようで止めるように言っていたが聞く耳がないと知り、最近では基本放置している。

 もっとも、変わってはいるが、基本優しい人たちで、道で会うと果実をくれたり、笑顔で頭を優しく撫でてくれる。だから、ミュウも村の人たちが大好きだ。

カイお兄ちゃんの家のある村一番の大通りの向こうから、フェンちゃんを頭の上に乗せたファフちゃんが駆けてくるのが見える。


「ミュウ、遊びにいくのですっ!」

『いくんだぁ!』


 ファフちゃんが叫ぶと、フェンちゃんが小さな肉球を上げる。

 最近では、二人と一匹で周囲の森の探索に出かけるのが日課となっており、修行が終わったら行こうと約束していたのだ。

 

「うん! 行こう!」


 ミュウもファフちゃんたちの元へ駆けていく。


 沢山遊んだ後、村に帰ると何やら村が活気づいていた。


「どうしたのです?」


 ファフちゃんが村人のおばさんに尋ねると、


『ああ、ファフちゃま、酒吞童子様が新しいお酒を造ったそうで、今から宴会だそうです』


 柔らかな笑顔で返答してくれた。


「宴会! わーい、宴会なのですっ!」


 くるくると回るファフちゃんに、


『お肉もあるかなぁ! 僕、ハンバーグ好物なんだぁ!』


 フェンちゃんもファフちゃんの頭でピョンピョンジャンプする。

 思わず頬が緩んでいた。そして――。


(お父さんたちもいたらもっと楽しいのに……)


 同時にお父さんたちに、どうしようもなく会いたくなってしまうんだ。

 でも、ミュウに不安はない。だって、あのカイお兄ちゃんがお父さんたちを一緒に探してくれると言ったんだから。だから、ミュウはお父さん達に再会したとき胸を張れるよう努力することにしたんだ。そして、もしお父さんたちが困難に直面しているなら、自分自身の手で助けてみせる。


「行こう!」


 寂しさを振り払うように、ファフちゃんの手を取ってミュウは走り出した。




お読みいただきありがとうございます。少しずつ投稿を続けていきますので、よろしくお願いいたします。


【読者の皆様へのお願い】

 少しでも「面白い」と感じましたら、ブックマークと評価をお願いしますっ! モチベーションの意地に繋がりますのでご協力いただければ幸いです! (^^)/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ケット・グィーにおけるミュウのほのぼのとした日常。 [気になる点] えっと…もうミュウ一人で帝国とか殲滅できるんじゃないかな… [一言] ファフの加護(高)が付いた!ミュウは殺せるやつを探…
[良い点] できたでありすん [一言] ここでまさかの関西弁
[一言] ギリメカラもネメアもミュウに掛かったら 近所のおじちゃんですねぇ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ