第28話 ギリメカラ・ブートキャンプ その2
どれくらいの月日がたっただろう。来る日も来る日も、荷物をもって罵声を浴びせられながらひたすら走る。最悪だったのは、この狂った場所では時間の流れそのものがないらしい。つまり、ここではそもそも年も取らないし、眠くならず、腹も減らない。ただ、疲労や痛みだけはしっかりあるという悪質極まりない場所。唯一、日夜の区別があることがルーカス達の心を現実に辛うじてつなぎとめてくれれていた。
軍隊で人生の大半を過ごしたルーカスでさえも辛いと感じるようなまさに苦行なのだ。戦闘とは無縁の生活を送ってきた風猫の住民たちにとっては地獄そのものであり、皆最初の数か月は泣きながら走っていた。
そして、その地獄の走りが終わると加護という不思議な力をもらい、具体的な戦闘訓練が始まった。
各自、棒を渡されて超越者たちに徹底的に打ちのめされる単純なものから、地上に降り注ぐ火の玉からひたすら逃げ惑う修行、与えられた加護を伸ばす個別修行、さらには対人格闘術など、徹底的に教え込まれる。
一日の大半がこうした悪夢のような生活だったが、決まって夜になるとカイ・ハイネマンという存在が成した狂い切った偉業を繰り返し聞かされる。それがルーカス達にとっての数少ない癒しだった。
そんな生活をひたすら続け、気が遠くなる月日が経過する。
『皆の者集合!!』
ギリメカラの掛け声に修行を行っていた風猫の住民たちはピタッと作業を止めて綺麗に隊列を組む。
『いいか、貴様らは今まで虐げられてきたクズだ。そうだな?』
「「「「「ハッ!」」」」」」
大地さえも震わす大声を上げる風猫。
『貴様らはこの世界で生きる価値すら認められなかった価値のないミジンコだ!』
「「「「「ハッ!」」」」」」
やはり、据わった目で声を張り上げる風猫の住民。
『しかし、こうして今この時、貴様らは偉大なる御方の配下となった。この事実がどういうことかわかるなっ⁉』
「「「「「ハッ!」」」」」」
感極まって涙を流すものが現れる中、
『なら御方の配下として今まで受けた屈辱は数千倍にして返さなければならぬ。いいなぁ!?』
ギリメカラの叫びに、
「「「「「イエッサー!!」」」」」」
一斉に額に右手を当てて敬礼をする風猫の住民たち。
『都合よく貴様らを虐げてきたカスどもがこの外には大勢いる。貴様らは奴らをどうしたい?』
「殺す! 殺す! 殺す! 殺す!」
虫も傷つけられぬ温和だった青年が繰り返し叫ぶ。
『奴らは偉大なる御方にさえも唾を吐いたクズ中のクズだ! その行先はどこが相応しい?』
「地獄! 地獄! 地獄! 地獄! 地獄のみぃぃぃっ!」
優しい笑顔が似合う若い女性が血走った目で叫ぶ。
『そうだ。改めて問う。貴様らは奴らをどうしたい?』
「「「「「「「ぶっ殺ぉぉぉーーーーすッ!!」」」」」」」
風猫の住民たちの声が綺麗にはもり、『殺せ』コールが起きる。それらは次第に大きくなっていき――。
『貴様らは自由。縛るものは何もない。徹底的に蹂躙し尽くせ!』
風猫の住人の獣のような咆哮が上がる。それは、世界に新たな危険極まりない狂信者の集団が解き放たれた瞬間だったのだ。
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