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無関心と保身

昼休み--簡単な手弁当を食べながら考える。

 あれから数日、何の音さたもない。

 あいつ、もしかしてそのまま忘れたんじゃないだろうか。

 もしそうならどうしてくれよう。

 SNS上にあいつの無能っぷりを晒して炎上させる手段もあるが、まずは確認だ。

 その返答によっては教育委員会に訴えるだけでなく、一連の対応をSNS上に晒そう。

 タイトルは『無能学年主任、生徒の訴えを黙殺する』に決まりだな。

 僕がそんなことを妄想していると。

「時宮君、少し話があります」

 弁当を半分ほど食べた時、珍しいことに担任の倉敷先生が教室に入ってそう言ってきた。

 倉敷先生は女性の先生で本人曰く二十代。

 数学や理科といった理数系を教えているので少し冷たい印象を与えるが、実際は結構フレンドリー。

 生徒に対して甘いところがあり、場合によって遅刻に目を瞑ってくれることもある。

 そんな倉敷先生が強張った顔で僕を呼ぶ。

 十中八九、あのことだな。

「分かりました」

 だったら弁当を食べる時間すら惜しい。

 僕は食べかけの弁当を仕舞い、倉敷先生について行くことにした。


 連れて来られたのは進路相談室。

 ここなら誰に聞かれることもなく話ができるらしい。

「おう時宮。すまんな昼休み中に」

 そして、待っていたのは無責任学年主任もいた。

「いいえ、大丈夫です」

 僕の将来に関わることだ、弁当なんて後だ後。

「さて、時宮。倉敷先生から話を伺ったが。時宮がカンニングをしたという証拠は無かったらしい」

 僕の隣に座っていた倉敷先生の拳に力が籠る。

「しかし、そうだからと言って時宮がカンニングをしていないとは言い切れない」

 は?

 僕は思わず目を見開く。

「つまり、僕がカンニングをしたのは真実だと言いたいんですか?」

「いや、そうは言ってない。だが、怪しい行動をしたのは事実なんだ。そこを考慮しなければ公平な判断とは言い難いだろう」

 どうやら学年主任は証拠にならない伝聞を証拠として加えることを平等だと考えているようだった。

 ふざけるな。

 その論理が許されるなら言ったもの勝ちじゃないか。

(南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経)

 胸中で題目を唱え、怒りを鎮める。

「分かりました。なら教育委員会にて白黒付けましょう」

 こうなれば全面戦争だ。

 なんとしてでも僕は無実を勝ち取るぞ。

「だから落ち着け時宮」

「その通りよ時宮君。話は最後まで聞かないと駄目でしょう」

 賢し気に倉敷先生が学年主任を擁護する。

 話を最後まで聞けと。

 ほほう、立派な正論だ。

 だがな、それをあんたが言うなよ。

「最終的な処分はこうすることにした。時宮の前のテストを正当な評価として内申点に加えるが、テストの順位それ自体は変更しない」

 テストの結果はもう皆に認知されているのでそのままでいくが、内申点といった裏の部分でこっそりと修正するというわけか。

 一見両方の意見を汲み取った判決だが、僕から見れば実に楽をしたなという印象を受ける。

 その方法ならば嘘の報告をした生徒も、変な判断を下した倉敷先生も、監督責任がある山之内先生も被害は最小限で済むというわけか。

「……僕の名誉はどうなるんですか?」

 未だに僕はクラスにおいてカンニング野郎として侮蔑の的になっているのに。

 その不当な評価を甘んじて受けろと言うのか?

「大丈夫だ。時宮は別のクラスに移ることになった。なあに、そのクラスの担任には事の顛末を伝えているから露骨に非難されることもあるまい」

 なんだそれ?

 僕は全く悪くないのにクラスを追い払われるわけか。

 こいつらはクラスを変えれば万事解決と考えているようだが、生徒から見ればカンニングと疑われていた生徒が変わればどうなるのかは火を見るより明らかだろう。

 結局、僕に貼られた不名誉なレッテルが取れない。

「時宮。俺は特に問題行動を起こさない大人しい生徒だと認識していた」

 嘘を吐くな、山之内。

 お前は僕のことなどどうでも良い存在だろうが。

「しかし、これ以上ごねるようなら君の内申点に響くかもしれない」

「う……」

 ここか。

 ここでそれを出すか?

 これ以上は抵抗するなと。

 もしするようなら僕の成績を下げると言外に脅してきた。

「ねえ時宮君。貴方だけでなく私も山之内先生も辛いのよ。ここは三方一両損で済ますというのはどうかしら?」

 なにがどうかしらだ、倉敷先生。

 あんたと山之内はどこがどう辛い?

 この処分は自分達の保身のためであり、影響を最小限に済ませるための措置だろうが。

「……」

 どうする? どうすれば良い?

 戦うか? 感受するか?

 教えてください、池田先生。

(南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経)

 短い一瞬で何百回もの題目を唱えた先に得た答えが。

「……分かりました」

 結果を--受け入れることだった。


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