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無関心と保身②

 昼休み。

 僕は早足で職員室へと向かう。

 この高校に来て一年も経っているせいか、職員室のどの席に第二学年の主任がいるのか把握している。

 けれど、僕の高校は職員室の奥まではいけず、入り口から二、三歩進んだ場所に引かれた白線内から先に進めないんだよなぁ。

「すみません、山之内先生はいませんかー!」

 仕方ないので僕は白線内から学年主任を呼ぶことにした。

「なんだ、俺の名前を呼んで」

 出て来たのは五十を越えたちょっとメタボリックな先生。

 可もなく不可もない、好かれているわけでもないし嫌われているわけでもないという記憶に残りにくい先生だ。

「山之内先生、僕が前のテストでカンニングのために全教科ゼロ点、内申点も最低点という処分を受けたのは知っていますよね?」

 学年主任が知らないはずがない。

「ああ、そういうことがあったような気が……」

 あったような気が--じゃないだろうが。

 何他人事のように考えているんだ?

 人の、僕の人生において重大な汚点になり得る出来事をそんなどうでも良いとばかりに言うなよ。

 僕の中で山之内先生はそこそこの評価をしていたが、今の答えで急落する。

 この学年主任、駄目だ。

 この人に任せたら大変なことになる。

「その件について僕は教育委員会に訴えようと思っています。何しろ証拠はなく、他のクラスメイトの伝聞でそう決められたのですから」

 口には出さないけどマスコミに報せるという手段もあるけどね。

「な、それは困る。頼む、まずはこちらで調査するからどうか早まらないでくれ」

 僕がそう言い切ると山之内先生は眼に見えて狼狽する。

 ああそうだろう。

 今まで他人事捉えていた出来事が、いざ自分の責任になるかもしれないという未来は小心者にとっては最悪の未来だろう。

「けど、しかし。どうして俺にそう言いに来たんだ? まずは担任の先生に言うべきだろう」

 ……お前、どこまで無関心なんだ?

(南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経)

 咄嗟に出かかった暴言を僕は胸中で題目を唱えることによって抑え込む。

 怒りの感情を抑え、言葉を紡ぐのに僕は数秒の時を要した。

「ん? どうした?」

「……僕をカンニングと決めつけたのが担任の倉敷先生なんです」

 そうでなければ僕は学年主任の所にまで来ないよ。

「倉敷……ああ、あの先生か」

 何かを思い出したかのように手をポンと打つ山之内。

 ……もう良いよ、虚しくなるだけだ。

「とにかく、倉敷先生を交えて話しをさせて下さい。可能ならば僕をカンニングしたとねつ造した生徒も一緒にね」

 その方がスッキリする。

「分かった。後で倉敷先生に事情を聞いてみよう。何せ俺や先生が時間の空いた時にやろう」

 今すぐやれよ、この野郎。

 とはもちろん言わない。

 言っても向こうは理解してもらえず、逆に僕への心証が悪くなるだけだ。

「失礼しました」

 僕は一礼して職員室を出る。

 職員室のドアを思いっきり蹴りたくなったのは仕方のないことだろう。


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