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楽しいひと時

「やった、勝った勝った」

 姫神さんがピョンピョンと跳ねて喜びを表現する。

 アドバイス後のゲーム。

 僅差で姫神さんが勝ち、僕が最下位になった。

「おめでとう、姫神さん」

 僕は笑顔で賞賛する。

 そんなに喜んでくれるのならわざと負けて良かったと心の中で思う。

 と、いうか僕がわざと負けたことに気づいていないのかな?

 アドバイスがあっても姫神さんのゲーム成績はちょっと良くなった程度。

 普通にやれば間違いなく勝ててしまう。

 なので僕も姫神さんがガーターを出したら僕も同じガーターを出して調整--それは露骨すぎたのでちゃんと明言している。

「時宮君。わざとガーター出したでしょう?」

 そんな姫神さんの問いかけに僕は苦笑しながら。

「だってそうしないと差がつきすぎてしまってゲームにならないでしょ?」

 ぶっちゃけガーターが出た時点でもうガチの勝負は終了な気がする。

「まずは楽しもう。上手くなるのはそれからだよ」

 とりあえずは誤魔化せたかな。

「うん。頑張る」

 姫神さんは両の拳をキュッと握って頑張るアピールをする。

 良かった。

 そして、姫神さんは嘘を吐いてでも褒めて伸ばすのが良いんだな。

 これが黒城さんなら絶対に軽蔑するだろう。

 情けをかけられるなんて屈辱だわ。

 と、言うに決まっている。

 ふと僕はちらりとゲームに興じている黒城さんと及川を見る。

 及川も手加減されることを嫌がる。

 及川は元々のポテンシャルが高いから正々堂々を好む。

 いや、正々堂々なら勝てるんだろう。

 古来より戦に勝つ最大の要件は相手より多くの戦力を用意すること。

 悔しいことに及川には生来のポテンシャルが高い。

「また負けた」

「ハハハ、それでも紙一重だったよ」

「次は勝つわ」

「望むところ、本気で相手しよう」

 負けたことに黒城さんは本気で悔しがり、その様子を見た及川は嬉しそうに闘志を燃やす。

「……及川君、楽しそうね」

 いつの間にか隣に来ていた姫神さんがポツリとそう零す。

「ああ、本当にね」

 黒城さんは及川のことが嫌いだし、付き合うことはないと明言していた。

 果たして、それは本当なのかな? 僕を安心させるための嘘じゃないのかな?

 何も知らない第三者から見れば二人はお似合いのカップルだよ。

 いや、空気に呑まれるな!

(南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経)

 僕は胸中唱題してネガティブ思考をストップさせる。

 二人のことは今、どうでも良い。

 二人に対して思うことは姫神さんに告白してから決めよう。

 そして、その時は今なんだ。

「黒城さん、及川君。僕と姫神さんはちょっと休憩して良い?」

 二人は勝負に熱中しており、水を差されたくないのだろう。

「構わないわ」

「ああ、良いぞ。俺達はもう少し勝負したいから」

 案の定、二つ返事で許可をもらう。

「姫神さん。少し休もう」

 このボウリング場は複合施設なので別のフロアに飲食店がある。

 そこで一休みしようと提案した。

「ええ、ありがとう時宮君」

 姫神さんは疲れていたのだろう。

 深く考えるそぶりも見せず、了承した。


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