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覆面姫と溺愛陛下  作者: ao
本編
62/67

最終話の場合 グレン・フォン・ティルタ・リュニュウス

 焼べられた薪が弾ける音を聞きながら、魔女リリア入れてくれた紅茶を啜る。エリオットの入れるお茶に比べると、むせたくなるほど渋い。


 まぁ、眠気を飛ばすのにちょうどいいのだが……しかし、渋いな……。


 ホルフェスが穴に落ちて歓喜の声を以来、レオンは沈黙したままだ。別れの言葉すらなく眠りについたレオンに、僅かばかりの寂しさを覚えた。


「どうやら眠ったようじゃの」

「あぁ、疲れていたのだろう」

「ミアが無事でほんに良かったのじゃ」


 ほっと息を吐き出し、優しい眼差しをニアに向けた彼女の姿は愛子を見つめる母のようだと思った。

 ニアの置かれた状況を考えれば、それも当然だろうと納得した。

 ニアが語った話は、荒唐無稽と一笑する事は簡単だった。だが、話したニアもそれに頷く魔女リリも真実味を帯び過ぎていた。聞いた全ての者に、その場で箝口令を敷くほど。


 ホルフェスとの戦いの最中何度となくミアと呼ぶ魔女リリアの声が聞こえ不思議だった。それが前世の名前だったと知った時の衝撃は、死ぬまで忘れないだろう。

 葛城美愛――それがニアの前世の名前だと言う。文字で書かれても私たちにはわからないが、彼女にとっては大切な名前なのだそうだ。


 それから、エリオットを呪いにかけたのも前世のニアらしい。

 魔女リリアから話を聞いたニアがしきりにエリオットに謝り倒していた。


 死にそうな目にも会ったがとりあえずは、魔女リリアとニアの関係も分かり一安心といったところだ。


「リリア殿は、これからどうするのだ? この森に留まるのか?」

「ふむ。それについては少し考えている事があるのじゃ。そなたらは何も心配せずともよい」

「そうか……」


 陽が昇れば私たちは、王都に帰る。魔女リリアが一人ぼっちでこの森に残るとなると魔女リリアを母の様に慕っているニアはきっと気にするだろう。

 「ニアと一緒に、王都に来ないか?」と、言いかけた言葉を、私は静かに呑み込んだ。


 薄っすらと明るくなり始めた空に誘われるように東の空を見上げる。もうじき朝日が登るのか、見上げた空はオレンジ色に染まっていた――。



*******



 あれから一年が経ち、私たちは――――――――未だに結婚できていない。理由については、他でもないアンスィーラ元伯爵だ。

 セプ・モルタリアとの癒着が発覚し、娘パーシリィ・アンスィーラ共々捕えたまでは良かった。事の経緯を聞きたす内にアンスィーラ元伯爵の脱税やら、不正やら、人さらい組織との繋がりやら、犯罪者を匿い他貴族を脅していたりと言った余罪が出るわ、出るわ。

 それだけならまだ半年ほどで何とかなっていたのだが、元伯爵以外にも芋ずる式にどんどん釣りあげてしまったため処理に追われる始末だ。


 そして、唯一変わった事と言えば、ニアが覆面を被らなくなったこと。突然のことに驚き、被らなくなった理由を聞いたが『まだ、話せません』と言われ教えて貰えなかった。

 離せませんと言った時のニアの頬がほんのり赤くなっていたから、いずれ理由は分かる気がする。


「はぁ、私の結婚はいつになるのだ?」


 大きな溜息を吐き出し、目の前の書類を眺めながら頬杖をつく。執務机に積み上げられた書類は、半年前から減っている気がしない。

 結婚準備もしたいのに、未だニアにドレスすら作れてやれていない。国王とは名ばかりの私を見てニアが逃げ出さないか、毎日ひやひやしている。

 そんな私の心情を知ってか知らずか、いつも通り書類をさばきながらエリオットが答えた。


「……グレン様。結婚の前に神殿で、婚儀前の儀式がございます」

「は? ……終わったはずだろう?」

「三老……は、認めていません」

「何故だ! 私たちが故意に儀式をスッポかしたとでも言うつもりか? あのクソ爺共」

「いえ、そう言う訳ではなく。本来婚儀前の儀式は、最終日――神殿を出る直前に聖女様より祝辞を賜るのだそうです。それがなされていないため認められないと言っているそうですよ。義父上殿と三老が」


 義父上……あの娘馬鹿か! 自分が娘を手元に置いておきたいばかりに、あの事件の後、本気で婚約の解消を求めてきてたよな? 速攻で却下したが……まだ諦めていなかったのか!


「では、聖女殿に祝辞を賜ればいいのだな?」

「私にはそう聞こえましたが……」

「直ぐにサルジアット卿に連絡を入れてくれ。後、パーシリィ・アンスィーラの処罰については、神殿との兼ね合いもあるからな、次の話し合いを持つことにしよう」

「わかりました」


 本当ならば今すぐにでも殺してやりたい。だが、神殿は間違いなく極刑を望まないだろう。それは偏にパーシリィ・アンスィーラが、神殿内では優等生であったことが大きい。

 神殿側のこれまでの要求――国外追放、規律の厳しい修道院に行かせろといったものだった――を聞く限り、落としどころを見いだせるとすれば、生涯に渡り犯罪奴隷として生きて貰うぐらいだろう。


 現状アンスィーラ元伯爵からでた犯罪の関与を調べるためパーシリィ・アンスィーラにもインフォルマーツの調査が入っているところだ。


 アンスィーラ元伯爵家は既に私の方で爵位をはく奪し、領地と財産を没収させている。元伯爵本人は、余罪の関与がまだまだあるためその全てが明るみになったあかつきに斬首となる予定だ。


 同じく関与していたセプ・モルタリアには、冒険者ギルドを通じて各国に事件の詳細を知らせ国際指名手配組織として登録した。それと同時に、ユースリア・ベルゼビュートの死亡も通達しておいた。


「そうでした。冒険者ギルドの褒章についてですが、一人あたり金貨五枚とギルドドマスターのベルゼ氏より要請が届いています」

「わかった」


 すーっと風が通り抜ける感覚に後ろを振り向けば、窓辺に魔女リリアが座っていた。


「久しぶりじゃの、グレン」と軽快に片手を挙げ、挨拶する魔女リリアに私は「……昨日もあった気がするが?」といつもの言葉を繰り返す。


「そうじゃったかの? ところで、ニアは隣の部屋か?」

「……ソウデスケド?」

「邪魔するのじゃ!」


 あの日王都に帰って以来、魔女リリアはこうして毎日私の執務室を訪れては、ニアと語らい楽し気に過ごしている。そんな二人を最初は、微笑ましく見ていた。せっかく再開できたのだからと、気を使い二人っきりになれるようにもしていた。


 だが、七日、二十日、ひと月、半年、一年と、日を開けず来る魔女リリアに流石の私も、ちょっとは遠慮を覚えて欲しいと願う。ニアに関してもそうだ。魔導の話になると白熱するのか、ニアが私とのお茶の時間よりも魔女リリアとの語らいを優先してしまう。

 二人の語らいを邪魔したいわけではないが、私の限られた癒しの時間だけはどうにかして守りたい。


「グレン様……あの、ご一緒にお茶はいかがですか?」

「あぁ、今行く」

「グレン、早くするのじゃ!」

「……あぁ、わかっている」


 ニアに呼ばれ、魔女リリアに急かされる。

 肩を竦めるエリオットに片手をあげて、私は今日もまたニアの隣に座る。

 そして、魔法書を広げ向かい合う二人の魔道談義に、花が咲く様子を静かに聞いた――。


<完>

拙い文章をここまでお読みいただきありがとうございました。

ひとまず、本編はこれにて完結とさせて頂きます。

後日、閑話を三つほど書いて完結のスイッチを押させていただきます。

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