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覆面姫と溺愛陛下  作者: ao
本編
61/67

精魔大樹林㉖ 最終決戦④の場合 グレン・フォン・ティルタ・リュニュウス

「ふ、ふ、ふざけるなぁぁぁぁぁ!」


 張り裂けんばかりの咆哮が魔女リリの口から飛び出す。

 震えるほどに拳を握り、眉間を寄せた彼女は、痛みに耐えるような素振りを見せるとホルフェスを睨みつけた。


「これがそんなに大事か? 下らぬ」

「下らぬじゃと!」

「そうであろう。卑しくも己の願いのために多くの同族を贄としてささげた。あの男が死んだところで嘆き悲しむ者よりも、歓喜を上げて喜ぶものの方がおおかろう」

「……確かに、確かにあやつは、禁忌を侵した。じゃが、それは止められなかった我ら魔女が裁くものであり、魔人であるお前が裁くことではない!」

「なるほど……だが、既にあの男の魂は吾輩の中だ」

「我は、必ず其方を裁く!」


 言い終わるなりユースリア・ベルゼビュートの亡骸を、ホルフェスは無造作に放り投げた。それを魔女リリアが魔法を使い引き寄せる。

 

「……そなたの仇は、必ず討とう。その代わり、解放され死時にはその魂を持って償え、ニーナスリア」


 一度だけ亡骸を抱きしめた魔女リリアが、私には聞き取れない声で囁いた。

 そして、ユースリア・ベルゼビュートの亡骸は小さな水晶へ変わる。瞼を降ろし大切そうに水晶を鞄にしまった。


――ドクン、ドクン


 鼓動を打つ音が耳に届き、見上げればいつの間にかホルフェスは蠢く霧に包まれいていた。鼓動に合わせ膨らんでは萎む霧の周囲には、赤く透明な何かが波打っている。


 これはどういう事だ? 見ていない間に何が起こった?


――アレは、覚醒前の状態ダ。エリゴールハ、男の魂を取り込んダ。それにより、奴ハ最終形態――覚醒しようとしていル。今の内に奴を止めよウ。そうすれバ、まだなんとかなル。

「まずいのじゃ、奴が本性を晒す前に仕留めるぞ! ミア、全員にフライをかけよ」


 私の疑問にレオンが饒舌に答えてくれる。それに被せるように魔女リリアが叫び、ニアがその場にいる全員に飛翔魔法をかけた。


「皆さま気を付けて下さい。この魔法は、常に空中にはいられません。攻撃が終わったら着地するのを忘れないでくださいませ」

「ゆくぞ! 私に続け!」

「「「「「「「おう!」」」」」」」


 ニアの言葉に頷き、地を駆けると踏み切る。たったこれだけで人の技とは思えない程高く跳躍した私は、レオンを両手に持ち右上から振り下ろす。


 ガツンッ! と鈍い音が鳴り、レオン諸共弾かれる。それに構わず、一度地に足を着き再び跳躍し、左上からレオンを振り抜いた。

 


――ご主人、急ぐんダ。奴ガ、覚醒したらこの界が終わル。時間がナい。


 焦りを感じさせるレオンの言葉に、私は必要以上に声を張り上げる。


「皆、死力を尽くせ!」

「もう間もなくじゃ、それまでなんとしても持たせるのじゃ!」

「「「「「「「おう!」」」」」」」


 無駄とも思える攻撃を、私を含め皆が何度となく繰り返す。意気が上がり、腕に力が入らなくなってきた。それでも、まだ戦えると死力を尽くして飛び上がる。


 私たちがホルフェスの繭玉を攻撃している間、ニアと魔女リリアは少し離れた地面に、巨大な魔法陣を描いていた。

 最後の線が繋がり、巨大な魔法陣が出来上がると同時に魔女リリアが叫ぶ。


「グレン、こちらへ来い! 皆、そやつから離れよ!」


 魔女リリアに呼ばれ、二人の元へ駆けつけた私に魔女リリアは魔法陣の中央に立つよう促した。

 言われた通り、中央に立つと魔力を練り上げたニアが両手を翳し、魔法陣を起動させる。更に側に降り立った魔女リリアがこれでもかと練り上げた魔力を魔法陣に注いだ。


――出番だゼ。ご主人! オレ様ヲ、力いっぱい地面に突き刺セ!


 レオンに言われるがままレオンの刀身を地面に突き刺した。するとニアと魔女リリアが互いに顔を見合わせ、頷き合う。


「「ディエス、イラエ(聖なる審判)」」

――離すなヨ。御主人。


 ひときは眩く輝いたレオンの石から、物凄い熱量の何かが魔法陣に行き渡る。ドクンと一度脈打つように魔法陣が発光したかと思えば、強大な扉が出現していた。

 向かって右の扉は白地に金の装飾で、花畑だろうと思うものが。左側には白地に銀の装飾で、荒廃した風景が、それぞれ描かれている。


「……なんだ、この扉は……」

「美しい」


――ご主人は初めて見るのか? これが天界の扉、マタの名を最期の審判とも言ウ代物ダ。


 レオンのどやる声に私は『天界の扉』という言葉に、門外不出と言われる神殿の経典を思い浮かべた。


 『天界の扉』は、生と死を神の視点で公平に選り分ける魔法だ。

 唯一の使い手である聖女の魔力が、数十年分は必要とされる光魔法の中でも極大と言われている。それ故、この魔法は伝説や伝承と言われる類の魔法であり、実際に使ったところを見た者はいない。


 銅鐘の音が鳴り響き、僅かに扉から流れる清浄な気配に自然と背筋が伸びた。


――おぉ、来るゾ。


 瞬く間に開いた扉から人の数十倍は有ろうかと言う目深にフードを被ったローブ姿の老人が、デスサイズを持ち現れた。

 神が扉から一歩踏み出しただけなのに周囲に生い茂る草木が枯れ落ち、すぐさま新たな命が芽吹く。流石は、生と死を司る神だ。


 感嘆する私のはるか上空で、神はデスサイズを構え、振り下ろす。

 狙いは勿論魔人と化したホルフェスだ。

 審判を下し終えた神が、扉と共に消えて行く。

 一方で、審判が下ったホルフェスはその身を真っ二つに切り裂かれ、いつの間にか地中に開いた穴へと落ちていった。


 終った……のか? 

 

 よたよたとした足取りで、ホルフェスが落ちた穴へ近づいた。穴を覗き込もうとした瞬間、音もなく穴は閉じてしまう。


 重い沈黙の中で、唯一レオンだけが


――ご主人、やったナ!


 と明るい声をあげた。

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