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覆面姫と溺愛陛下  作者: ao
本編
57/67

精魔大樹林㉑ 怒りと煽りの場合 グレン・フォン・ティルタ・リュニュウス

 地揺れと共に大きな穴が広場に空き、そこから汚れたローブ姿の魔女リリアが飛び出した。彼女に続いて飛び出してくるはずのホルフェスの姿がない。


 上空を見上げ「リリア殿!」と呼べば、彼女はすぐさま高度を落とし降りて来る。


「グレン、無事じゃったのじゃな。水晶はどうした?」


 初めて魔女リリアに名を呼ばれ、僅かにきょどる。エリオットが肘で突きハッとした私は、ニア方へと顔を向けた。


「ぇ……ど、どうして?」

「に、ニア、ご、誤解だ! 私は、リリア殿と()()()()()()()()()。私が心から愛しているのはニアだけだ。頼むから誤解しないでくれ!!」


 とても小さな声だった。

 魔女リリアを見つめたままのニアの瞳から大粒の雫が流れ落ちる。

 私が不審な態度をとってしまったせいでニアに誤解されたと、焦った私は必死に言い募った。


「ニア、頼むから誤解だけはやめてくれ。せっかくニアに会えたのに、今誤解され冷たくされたら私は……私はもう――」


 縋るように彼女の細い肩を掴み、言葉を吐き出す。何も答えてくれないニアは、眼を大きく見開き魔女リリアを見たまま涙を流し続けていた。

 再び口を開いた所で、魔女リリアが「この娘が、水晶の中に入っておったのか?」と遮るように聞く。


「えぇ、そうです」


 エリオットの答えに頷き「そうか」と答えた魔女リリアは、未だ見つめるニアへ顔を向けると思案顔になる。

 そして、彼女はニヒっと笑うと思わぬことを口にした。


「そなた()()()()が使えるであろう? 我に協力して欲しいのじゃ」

「なっ、なんですって?」

「それは本当ですか?」

 センスとエリオットが驚いてニアを振り返る。一斉に視線を集めたニアは目尻を拭い、意を決したような表情を見せると魔女リリアへと近づいた。

 徐に魔女リリアの両手を握ったニアは「リリアさん」と彼女を呼んだ。


「なんじゃ?」

「……わた、私がわかりませんか?」

「ん? ……この娘は、一体何を言うておるのじゃ?」


 魔女リリアは首を捻り、私に助けを求めるように問いかけた。が、私にもニアが何を伝えたいのかわからない。

 ゆるゆると首を振り、不明だと伝えれば魔女リリアは肩を竦めニアへと向き直る。


「はっきりと言うが良い。そなたは我に何を聞いておるのじゃ?」

「えっと、そうだ! リリアさんの得意な魔法、オクルスクイストを使って私を見て!」


 これまで聞いたことの無いような砕けた話し方をするニアに、私は驚き何度も目を瞬かせた。ニアを見ていた真紅の瞳が、一度伏せられ薄黄色に変わる。数秒間見つめた魔女リリアは、ハッと息を呑んだ。


「……まさかっ!! そなたは――」


 感極まった様子でニアへ魔女リリアが手を差し出した途端、耳を塞ぎたくなるほどの炸裂音が轟いた。


「ニア!」

「ぐ、グレン様」


 思わず両腕でニアを抱きしめ、その身を庇う。

 細い身体は私の腕にすっぽりと収まり、左右逆になった掌でニアの耳を塞いだ。すると彼女は、私の耳を自身の掌で抑えてくれた。

 彼女の行動が予想外だった私は、ニアの顔を見る。潤んだ瞳のままニッコリ微笑んだ彼女は『お・か・え・し・で・す』と頬を赤らめ、ぽってりとした薄桃色の唇を動かした。


 あぁ、ニアが可愛い!


 耳鳴りが止み漸く腕を降ろした私は、魔女リリアの視線を追いかける。土埃の中心部を睨みつける魔女リリアは、唇を歪め嫌そうな顔をすると徐に言葉を吐いた。


「しつこい男は嫌われると知らぬのか、ホルフェス……いや、エリゴールと呼ぶべきかの」

「……吾輩が、そう易々と……貴様を逃がすと思うのか?」

「ふん、漸く本性を出したか」

「本性も何も、吾輩は元よりこの話し方だが? 魔女こそ、その()()()()()話し方をどうにかしたらどうなのだ?」

「……ば、ば、ばばあじゃと?! このどくされ魔人風情がっ!!」


 それまで余裕綽々で話していた魔女リリアの魔力が、ばばあと言う単語を聞いた途端跳ね上がる。完全に失言――地雷を踏んだホルフェスの言葉に、私とエリオット、センスが数歩後ずさった。

 魔女リリアの周囲に鋭く尖った氷の塊が大量に生み出され、瞬く間に飛んでいく。ホルフェスのいるであろう方向けて。


 威力を上げるためか、早く飛ばすためか、氷が纏った風圧のせいで舞っていた土埃が消え去り、小柄なベルゼビュートを小脇に抱えたホルフェスの姿が見えた。

 ぐったりとしたベルゼビュートは、失神中なのかピクリとも動かない。それよりも気になるのは、ホルフェスの姿だ。

 月の光に照らされた彼は、真っ白な頭に二本の角を持ち、紫色の肌をして、耳元まで裂けた口に弧を描いていた。

 

「人では……ない、だと」

「これはこれは、国王陛下。お初にお目にかかります。吾輩は――っと、と。自己紹介ぐらいさせるべきではないかね?」

「うるさいのじゃ! 余裕綽々なその姿がイラつくのじゃ!」


 己の眼が信じられない私は、つい言葉を零した。そんな私へ魔女リリアの怒り――攻撃を避けつつホルフェスは余裕を見せる。

 それがさらに魔女リリアの怒りをかっているのだが、奴はそれに気づかない。いや、気づいていて知らぬふりを通りしているのだろう。


「死に晒せぇえええええ、エリゴール!!」

「くふふふふ。甘いぞ、魔女。ほれ、攻撃が単調になってるぞ。ふむ、つまらん。もっと楽しませよ」

「ぐぬぬぬぬ!! ドクサレガァ!」


 怒りのまま魔女リリアが魔法を放ち、ホルフェスが避ける。合間、合間で煽る会話が、不穏過ぎる。

 正直に言うならば、見ているだけで恐ろしい。頼むから、この二人を誰か、どうにかしてくれ。

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