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覆面姫と溺愛陛下  作者: ao
本編
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精魔大樹林⑳ 活路と義父上の場合 リリア/グレン


 流石と言うべきか、魔人であるエリゴールの魔力は底を知ららない。尽きることなく生み出される攻撃をなんとか狭い空間で往なし相殺しているが、これが永遠に続くようなら間違いなく我の魔力は尽きてしまう。


 どうにかせねばと焦り、気づくのが遅れた。

 躱したはずの攻撃が、軌道を変え反転すると我の腹の左側を掠める。

 

「……ぐっ」

「ふふふふっ、良いざまです」


 もう少し広い場所で戦闘できればよいのじゃが……。いっそのこと天井を破り、上へ出るか? じゃが、巻き込む事になるのう。


 ジリジリとエリゴールの攻撃に追い詰められていく。

 前回も――そう思った我の脳裏に英雄と呼ばれるあやつと共に戦った記憶がよみがえる。


 戦いは非常に苦しいものだった。幾日経っても無尽蔵に沸き続けるエリゴールの魔力に心が折られ、我自身の魔力が枯渇した。

 腕が上がらぬと自覚し、もうだめかと諦め垂らす。死を迎え入れようとした我の横で、雄たけびを上げたあやつは気合いだけでエリゴールに突っ込んだ。

 一度目は避けられ、二度目は往なされ、三度目はふっとばされた。諦めると言う言葉を知らない子供の様に、ただがむしゃらに向かっていくあやつの目に生きる希望が見えた。

 だからこそ、我も諦められないと少しの隙を作るべく、魔法を繰り出し続けた。

 そして――あやつの剣がエリゴールの胸を貫き、地下へと送り返すことに成功する。


 そうじゃな。おぬしはもうこの世にはおらぬ。じゃが……おぬしの子孫――グレンがいる。それに無事水晶を解放したならば……それも一助になるじゃろう。一か八かになるが、賭けてみるのじゃ!


 エリゴールを出し抜き、この苦境を打開するため我は賭けに出る決断を下した。

 体内に取り込んだ魔力を練り上げ、エリゴールへ牽制を入れつつ、本命である天井めがけ魔法を放つ。

 

 魔法が天井に当たり、地を揺らす。亀裂が入り、崩れる岩肌が視界を塞いだ。

 ガラガラと鳴る音に合わせ、上空へと昇れば希望とも思える光が差し込んでいた。



*******



 意識を失っていたニアが目覚め安堵の息を吐いた私は、親子の語らいを見ながら思案する。


 去り際に見た、魔女リリアの苦しそうな表情が頭から離れない。頼り切りになてしまったが、何か手伝えることはないだろうか? まぁ、彼女の事だから足手まといはいらぬとか言いそうだが……。

 それよりもパーシリィ・ヴィズ・アンスィーラを含め、ユースリア・ベルゼビュートに関わった者たちを今の内に城へ送っておこう。アンスィーラ伯爵の方は、騎士団が向かっているはずだがどうなっただろうか?

 わからないものを気にしても仕方がないと諦め、人員を割り振って行く。


「オルトーウスは、罪人を連れて先に城へ護送しろ。今度こそ出し抜かれないよう最大限に警備を強化しろ」

「はっ!」


 返事をしたオルトーウスは、すぐに部下たちを纏めあげるべく走って行った。


 パーシリィ・ヴィズ・アンスィーラたちをここへ連れて来たのが、ホルフェスだと証言がとれているらしい。ホルフェスは今、魔女リリアにかかりきりだろうから襲われる心配はない。だが、盗賊や魔獣が現れる可能性もあるため最大限に用心するにことしたことはないだろう。


「義父上とヴィリジット辺境伯にも同様に護衛しつつ王都へ戻ってもらいたいが……」

「わしがオルトーウス殿と共に戻ろう」

「ニアと二人っきりになどさせるか!」


 またこの人は……何を勘違いしているんだか、と呆れてしまう。

 今まさに魔女リリアが我らの代わりに、一人で戦ってくれている。そんな状況なのに、ニアと二人でイチャイチャしようとは流石に思わない。


「……はぁ、まだすべてが終わった訳ではない。そういう事は、後からだ」

「……」

 

 溜息と共に事実を突きつけ、軽く睨む。

 

「お父様……それは、ないです……」

「はぁ……ルーク、ニアにまで突っ込まれておるぞ。まったく」


 身内二人から突っ込まれた義父上は、眼に見えて狼狽え口をハクハクと動かすだけで沈黙した。


「ルーク、そなたはアンスィーラ伯爵の方へ向かえ」

「なっ!! 義父上?!」

「あちらの情報も欲しいところだ。義理の息子であるルークなら余裕であろう?」

「うっ……はい」


 義父上は義父上であるヴィリジット辺境伯には弱いらしい。ニヤリと笑告げられた言葉に渋々ながら返事をすると、のろのろと動き始めた。

 準備が整いヴィリジット辺境伯、義父上の順でニアとハグを交わす。

 哀愁漂う背を向け歩きだす義父上は、鈍足にもほどがあるほどの速度で何度も、何度もしつこいほど振り向きながら馬車へ乗り込んだ。


 騎士たちやヴィリジット辺境伯、義父上を乗せた幌馬車が走り出す。「お気をつけて」と手を振り見送るニアの笑顔は、愛くるしい。


「陛下、これからどうなさるおつもりなのですか?」


 センスの問いに答えようと口を開いた刹那、立っているのも辛くなるほどの揺れが私たちを襲った――。

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