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覆面姫と溺愛陛下  作者: ao
本編
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精魔大樹林⑱ ニア奪還作戦⑦場合 グレン・フォン・ティルタ・リュニュウス

 忙しなく足を動かし地下から抜け出そうとする私たちの背後から、迫る爆発音が激しさを増す。魔女リリアとホルフェスとの戦いがいよいよ本格化しているようだ。


「死にたくなければ急げ!」


 ふらつきながら走りついて来るパーシリィ・ヴィズ・アンスィーラや侍女たちをバーリスたちが急かす。

 ドゴン、ドンと耳を塞ぎたくなるような音が鳴り、地震が起こる。

「あっ!」と言う声と共に私の隣を走っていた侍女が足をもつらせ、打ち付けるように倒れた。

 不安が色濃く表れた瞳が、縋るように私を見る。仕方なく足を止め手を差し出すと、パシンと横から弾かれた。

 弾いた手を追い、そちらへを向けばそこにはパーシリィ・ヴィズ・アンスィーラがいた。

 

「自分で立ちなさい!」

「……ほら、掴まれ」


 倒れた侍女を叱責している彼女の声を無視して、再び手を差し出し侍女を立ち上がらせた。怪我などはしていないようだが、何故かガタガタと身体が震えている。

 憎悪に満ちた目を侍女に向けるパーシリィ・ヴィズ・アンスィーラの剣幕に侍女は、怯え俯いた。

「急ぎましょう」とエリオットが急かすも、一向に歩き出さない。


 このような時こそ助け合うべきなのに。この女は何故、助け合おうと思わないのか。

 皆が必死に巻き込まれまいと走っている時でさえ、自分本位な行動を取る彼女に呆れを通り越して怒りが湧く。


「ギル」と騎士たちの中で一番体の大きい騎士の名をバーリスが呼び、動けないでいる侍女を背負うように指示を出す。無言で頷いたギルが素早く侍女を背負い地上に向けて走り出した。

 

 疲弊した身体を叱責しながら走り抜け、漸く地上へ出た私たちは入口から距離を取り、そのまま倒れ込むように座り込んだ。

 

「陛下! ご無事でしたか!」

婚約者(仮)(グレン陛下)……()()()いたのか」

「義父上、そこは残念そうに言わないで頂きたい」

「……ちっ、それで、ニアは? ニアはどうした?!」


 駆け寄るセンスとオルトーウスに片手を挙げ、共に来た義父上に嫌味を返す。


 舌打ちする当たり、本気で私を殺したかったのだろうか? 流石にそこまでは……いや、あり得る。あの娘馬鹿が私を邪魔に思わないはずがない。

 と、冗談はこれぐらいにして、まずは状況確認をしておこう。


「ニアについては落ち着いてから話します。センス、オルトーウス状況はどうだ?」

「はい。こちらの魔獣は、冒険者ギルドより派遣されて来た冒険者の協力で、無事全て討伐を終えました。ケガ人はおりますが、死者はおりません」

 と、少し力の抜けた声でセンスが報告する。


 死者が出なかったのは幸いだ。協力してくれたと言う冒険者たちには後で、礼をしなければ……それよりも、誰が冒険者ギルドを動かしたのやら。これについては落ち着いてから聞くことにしよう。


「セプ・モルタリアと思われる者たちについてですが、全てを捕えることは出来ませんでした。我らが突入すると同時に、二十五名がその場で毒を飲み自害しております。それ以外の十五名を捕えてあります」


 報告したオルトーウスの視線が、遠くで煙を上げる場所へ向き、そのまま幌馬車へと向かう。

 生きたまま全てを捕えると意気込んでいた彼には、勝手に自害した者に対する後悔があるのだろう。


「ご苦労だった」

「それで、ニアはどうした?!」


 ゆっくりと否定するように首を振り、ここにニアは居ないと告げた。義父上の期待に満ちた目が、光を失い失意に覆われる。「くっ……」と言う、苦し気な声をあげ、拳を握る彼の姿に、私も同じ気持ちなのだと思った。


 私だって、ニアに会いたい。安否も行方はわからない。ユースリア・ベルゼビュートの言葉をそのまま受け取るのなら、彼女は、ニアはここにはいない。

 どこにいるんだ……無事でいてくれ。


 柔らかく微笑むニアの顔を思い出し、会いたい気持ちが募る。無事を確かめる事すらできない切なさが胸に湧き上がった。

 今はまだ気を抜くときではないと自分を諫め、大きく息を吸い込んだ。


 そう言えばと思い出し、魔女リリアに渡された水晶を胸元から取り出す。


「それは、ユースリア・ベルゼビュートが持っていた水晶ですか?」

「あぁ、そうだ。あの場を離れる寸前、リリア殿に渡された」

「魔法陣の起動スイッチか!」

「私も初めはそう思っていた。だが魔女リリアは、この水晶を解放するように言うのだ」

「どういうことだ?」

「……わからない」


 と答えながら、私は少しだけ期待している。もしかしたら、この水晶がニアの居場所を知る何かかもしれないと。

 魔女リリアとは数時間前に出会っただけのただの知り合いに過ぎない。だが、何故だろうか、私は彼女に絶対の信頼をおいている。

 王としては、決して許される判断ではないだろう。それでも、今は彼女の言葉に従う。


「全員私から離れろ」


 私の言葉に、それぞれが諫め止めるような声を出す。それを無視する形で、立ち上がると二十メートルほど離れた。


 頼む。ニアを、私に愛しい彼女を返してくれ!


「ラィリーズ・リベロ(解放せよ)」


 眩い光が水晶から発し、眼を片手で覆う。パリパリと鳴る音と共に、手に持つ水晶に亀裂が入る感覚が伝わった。かと思えば、水晶が一気にはじけ飛ぶ。

 地に荷物が落ちる音がして庇った腕を退けた私は、眠る少女を抱きしめた――。


「あぁ、ニア、ニア……ニアっ」

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