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覆面姫と溺愛陛下  作者: ao
本編
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精魔大樹林⑥ 呪いの正体の場合 グレン・フォン・ティルタ・リュニュウス

 ひとまず無事に目を覚ましたエリオットに、私はニアの記憶があるかの確認を取るため話しをしてみる。


「ニアの事を覚えているか?」

「はい。ヴィルフィーナ公爵家のご令嬢です。お名前はニアミュール様。陛下と幼き頃何度も会いに行き、話をした方ですよね? 後、陛下が好きで好きでたまらないからと反対する公爵を押し切って婚約者にした女性だと記憶しております」


 余計な言葉の羅列も多いが、エリオットは間違いなく記憶を取り戻しているようだ。無事記憶が戻った事に安心した私は、魔女リリアの発言を思い返す。

『そなたを乗っ取っておった呪いは排除しておいた』この言葉が、示すこと……。呪いの元は霧と言う事になる。だが、乗っ取られる呪いとは一体どう……!!

 そうだ、あの魔道具ではないか? 形と起こった事柄は多少違うが、人を思いのまま操ると言う点については全く同じだ。

 

「どうした、座らぬのか?」


 訝し気な表情で私に問いかけた魔女リリアの呼びかけに応じて、思考を切り替えた私はエリオット、オルトーウスと共にソファーへ腰を落ち着ける。


「エリオットのことをお救い頂きありがとうございます」

「馳走になった礼じゃ、気にするな」


 食後のお茶が用意され、騎士たちが配置に着いたのを確認し、再び魔女リリアへ感謝を述べた。

 片手をフリフリと緩く振った魔女リリアは「聞きたいことがあるのであろう?」と私に話すよう促す。それにひとつ頷いた私は、まず呪いについて聞いた。


「エリオットだったか、この者を乗っ取っていた呪いについて知りたいと」

「はい。差し支えなければお教えいただきたい」


 私の問いかけに思案する素振りを見せた彼女は、一度嘆息すると話始めた。

 エリオットに振りかかった呪いは、魔女リリアの弟子が考案した魔法だったそうだ。魔法が出来た当時、魔女狩りが横行し眠りについた魔女リリアを含め多くの魔女が狙われていたと言う。


「弟子はの、我の事を心配してこの家の周囲にその魔法陣を刻んでおったようじゃ」

「と言う事は……私は巻き込まれただけ、と言う事でしょうか?」

「まぁ、そういう事じゃ」


 表情を引きつらせ問いかけたエリオットに魔女リリアは、あっけらかんと答えた。


 巻き込まれただけと言うのは理解できる。だが、どうして、エリオットだけが巻き込まれ、ニアの記憶が消えたのかは分かっていない。

 それにだ、あの時私はエリオットにベルゼビュートの名前を告げた。その後彼は頭を押さえ、のたうち回り意識を手放したはずだ。

 そう言えば、魔法陣を刻むには発動の条件が必要だとニアが以前話していた。ニアの言う通り条件があるとすれば、それがエリオットに影響を及ぼした理由になる。


「失礼ですが……弟子と仰る方は、どのような条件でその魔法陣を刻んでいたのでしょうか?」

「ふむ。確か…………そうじゃ! ”()()()()()()()()で、()()()()()()()()()()()に対し我や()()()()()()()()の記憶を消す” だったの」


 魔女リリアの言葉をそのまま当てはめるとすれば、エリオットはあの霧が魔法によってつくられた物であると理解していた。更にニアやベルゼビュートが、魔女リリアの関係者だからと言う事になってしまう。

 記憶の確認でニアの名前が出ていたが、魔女リリアと彼女の間に接点はない。では、ベルゼビュートはどうだろうか?


「リリア様、ユースリア・ベルゼビュートと言う名に聞き覚えはないだろうか?」

「はて、そのような者知らぬぞ」


 首を傾げる彼女の反応から、ベルゼビュートとも接点がないとわかる。

 それなら、何故、と再び接点を探そうと考え始めた私は、軽く頭の痛みを覚えた。ニアが連れ去られて一日、寝ずに過ごすのは二日目だ。流石に寝不足の頭でこれ以上考えるのは無理だと判断を下し、大きく息を吐き出すとソファーへ深く座った。


 軽く目頭を揉み、気分を変えるため紅茶を口に含んだところで魔女リリアは、明るい声で「他に聞きたいことは無さそうじゃな。さて、では……軽く昔話でもするかの」と言うと初代様との縁を話して下さった。

 

 魔女リリアと初代様の出会いは、魔女リリアの弟子が不用意に魔法を詠唱し転移してしまったことがきっかけだそうだ。


「あの時は、流石の我も焦ったのじゃ。魔法の魔の字もしらん小娘が、本を読んだ途端に消えたからの」


 と、豪快に笑う魔女リリアに、私もエリオットもオルトーウスですらポカンとしてしまった。

 

 突如消えた弟子の魔力を追った彼女は、現在の神殿がある平原のような森へやってきた。そこで初代様と出会ったのだと言う。

 

「見るからに馬鹿そうな男じゃったのじゃが、弟子を保護してくれた手前礼を失するのは我の矜持に反する。それに、話してみると意外と馬がおうての。何かにつけて手を貸してやったり、色々と相談に乗ってやったりもしたのじゃ」


 昔を懐かしむように目を細めた魔女リリアは、私のもつ剣へ視線を向ける。


「これが何か?」

「なんじゃ聞いておらんのか? その剣の持ち手の部分についておる、それじゃ。その赤い宝石は、我がアヤツにくれてやった遠距離で会話できる魔道具じゃ」

「……えっ、そ、そうなのですか?」


 エリオットやオルトーウスに知っていたかと視線で問えば、二人揃って否定する。


 確かにこの剣は、王位を継ぐ時に先代の王――父上から受け継いだものだが、魔道具が取り付けられているだなんて全く聞いていないし知らなかった。どの時代から、これが魔道具だと知られていないのかわからないが、今後のためにこの事実は書き残し伝えよう。


「失礼致します」


 数回のノックの後、扉が開き、外の見張りをしていたグアンゼが室内に入って来ると敬礼しつつ「小隊長ならびに陛下にご報告いたします!」と告げる。

 魔女リリアの話の腰を折る形になるため、彼女にまずは確認を取るべく顔を向けた。

 すると彼女は私の思考を読んだのか、「我の事は気にせずともよい」と言う。


「続けろ」

「はい。つい先ほど東の方角にて、インフォルマーツから確認の狼煙が上がりました」

「そうか! 色は何色だ?」

「オレンジに近い黄色でしたので、センス隊長ご本人のものと思われます」


 センスの持つ狼煙の色は他のインフォルマーツの隊員が持つ色よりも朱色が強い。そのためオレンジに見えなくもない。

 エリオットの意識が戻り、センスと合流できる可能性が高まり私の心持も大分軽くなった。


「わかった。持ち場に戻れ」

「はっ!」


 オルトーウスも私と同じなのか、口調は平坦であるが表情には僅かにほころびが見える。その様子にほっと安堵しつつ、私は紅茶を啜り乾いた口を潤した。

グレンばっかりですいません!

次回は、センス隊長です。

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