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覆面姫と溺愛陛下  作者: ao
本編
4/67

マリアン(ニア付きメイド)の場合。

 こう言っては失礼にあたるかもしれないけれど、私のお仕えするニアミュール・シュゼ・ヴィルフィーナ公爵令嬢は少し……言え、大分キテレツなお嬢様なのです。幼いころからおそばに仕えて来た私には、どうしてもお嬢様に言いたい事があるのでございます。


 それは”才色兼備のご令嬢は、お嬢様以外存在しない!” と言う事です。

 当家のお嬢様は、幼少の砌当時殿下であったグレン・フォン・ティルタ・リュニュウス様のお誕生日会でこっぴどく周囲の令嬢達にしてやられました。


 その結果、お嬢様は……なんと、顔に布を巻きつけると言う奇行に走ってしまうのです。


 何度も私達メイドや公爵様、奥様、ヴィジリット辺境伯様などが説き伏せようとなさってもお嬢様は首を振るだけで布を外そうとはしませんでした。

 顔に布を巻きつけるだけでは、お嬢様が窒息してしまう可能性もありました。そこで、大人達は考えました。どうすれば、お嬢様が安全に覆面をしたままお過ごしになれるかを……。

 そして、出来あがった物が、布を染色する際魔石を練り込み魔道具にしてしまうと言うものでした。魔術師の素養を持つ奥様らしいアイデアです。

 

 白金貨5枚分もするその特別製の布は、お嬢様の感情に比例して動きます。困ったことがあれば、角の三角部分がカクッと折れ曲がり、楽しければパタパタと揺れます。食事をする際には、口の部分の布だけがパサりと首元に落ち、髪を整える時には、頭部だけが顕わになります。


 この布を注文して良かったとは思います。

 ですが……この布を買ってしまった事で、私たちは最愛のお嬢様のお顔を見る事が出来なくなってしまいました。お嬢様の美しい銀に輝く御髪も、金と見紛うばかりの淡いクリ―ム色の瞳も……。

 そのことだけが、私には悔やまれるのです。


「そう言えば聞きましたか? 例の噂……」


 週に何度か顔を出す公爵家御用達の商人が声をひそめて、休憩中の私達へそう話を振りました。一体どんな噂だろう? そう思いつつ、先を促すよう視線を向けた私は商人の話す噂が余りにも酷いでっち上げである事に怒りを覚えました。

 我らが愛するお嬢様になんと言う事を……!


 震える両手をぎゅっと握り締め、商人が去ると同時に、旦那様の執務室へと向かいました。

 数回のノックの後、執事のカムイさんが扉の向こうから姿を現します。


「お耳をよろしいですか?」


 私より15センチは高い位置にある頭を私の口元へ寄せたカムイさん。そんな彼に、私は小さな声で、先ほど商人から聞かされた噂話を報告しましました。見る見るうちに顔色を変えるカムイさんが、ギュッと拳を握ります。

 話が終わると同時に、ハッキリとその顔には憤りが見えました。


「その話をした商人は何処の者ですか?」

「公爵家の御用商人であるナルーニア商会の者ですわ」

「分かりました。旦那様には私からお伝えしましょう。くれぐれも、お嬢様のお耳に入れないよう他の者にも徹底して下さい」

「畏まりました」


 一礼してその場を離れた私が次に向かったのは、メイド長であるメリアルアさんの所です。彼女とカムイさんに話を通しておけば、まず間違いなくお嬢様のお耳にこのくだらない話が入る事はありません。

 奥様のおそばに居るであろうメイド長の元へ向かう階段で、丁度奥様から用事を言い付かったらしいメリアルアさんに会いました。

 

「あら、休憩中のマリアンがどうしてこんなところに?」


 不思議そうに私へ訪ねて来たメイド長へ、事のあらましを声量を控えはなします。するとメイド長は眉を吊り上げ、怒りを露わにしながら大きく一度呼吸をしました。


「ふぅ~。まったく……どこのどなたでしょうか……仔細承知しました。これよりメイド他この家に勤める者全てに、厳守を命じましょう。お嬢様がお帰りになるまで時間がありません! マリアン。申し訳ないけれど貴方も手伝って頂戴!」

「畏まりました」


 そうして、再び私は屋敷内を走り回り休憩を取る事無く、王城よりお帰りになったお嬢様をお迎えしたのです。

 

 王城からお帰りになったお嬢様の着替えを待って、晩餐の準備がはじまります。公爵家では、できうる限りご家族揃って食事を! と言う精神の元、皆さまがお揃いになり御食事をなさいます。

 

 旦那様、奥様そして、お嬢様がお揃いになった晩餐の席で、お嬢様は「殿下より伝えられました」そう前置きされ、仔細をお話しになりました。


「十日後より七日間、神殿の大樹へ赴く事が決定しました」


 カチャンと音を立てて落ちるフォーク、それと同時に驚愕したような表情で立ち上がられた旦那様が、驚いたように「な……なんだと?」と仰ったまま沈黙されたかと思えば「本気で……いや、しかし」などブツブツと一人の世界にトリップされてしまい、お嬢様の布は困ったように首を傾げていました。


「お、お父様?」


 お嬢様に呼びかけられた旦那様は、ハッとしたご様子で何度か咳払いされると椅子に座り直されました。落ちたフォークの代わりのモノを執事のカムイさんが旦那様に手渡し話の続きを促されました。


「すまない。ニア、話を続けて」

「はい。神殿で着る物はあちらでご用意頂けるそうです。着の身着のまま来てくれたらいいから……と陛下が仰いました」

「まぁ、ダメよ! ニア。神殿の粗末な服など貴方には似合わないわ!」


 悲壮な奥様の声に、お嬢様の覆面の布がしょんぼりと項垂れました。翌日、奥様の命令で大至急仕立て屋が呼ばれたのは言うまでもありません。


足を運んで頂きありがとうございます。

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