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覆面姫と溺愛陛下  作者: ao
本編
38/67

精魔大樹林② 疑心暗鬼の場合 グレン・フォン・ティルタ・リュニュウス

 ふと、ここから先に向かうとして私たちはどこへ向かっているのだろう? と言う疑問が浮かぶ。

 オルトーウスに言われた時は、エリオットのことがあって気が動転していたから気付けなかったが、この場合馬車に戻るのが正解だったのではないだろうか?

 このまま進んだとして、相手がいるとは限らない。なら、やはり戻るべきだ。もし、この先に何かあるのであれば報告するのが義務のはずだ。

 冷静になりつつある頭で考え、オルトーウスにそれとなく聞いてみる。


「オルトーウス。この道はどこへ向かっているんだ?」

「それは……、もう少し歩けば、わかるかと」


 道を示したはずのオルトーウスは、歯切れ悪く返答する。オルトーウスの態度に私の直感が、怪しいと告げる。だが、エリオットのことがあるためここは彼の言う通りに進むしかない。

 焦っていたとは言え、騎士の選定すらまともに出来ていなかった浅はかな自身に嫌気がさす。なぜ私はこうも安易に人を信じるのか……。こんなんだから、ニアを奪われてしまったのだ。

 後悔、先に立たずとニアに言われたことがある。その言葉が不意に脳裏をよぎり、今のわたしにピッタリの言葉だと自責の念を覚えた。


 自身を叱るのはあとでも出来る。今は、最悪の場合を想定して動いておくべきだと、気持ちを切り歩を進めながら考える。


 考えられる最も最悪なパターンは、ニアを連れ去ったベルゼビュートの処が分からないままエリオットが目覚めず、オルトーウスが裏切り者だった場合だ。

 もしオルトーウスが裏切り者なら、進んだ先で私たちを屠る作戦かもしれない。エリオットの身柄をオルトーウスに抑えられているのが痛いな。かと言って、奴の部下がこちら側であるともわからない。せめて両手を確認できればいいが、籠手が邪魔で見えないのが痛い。

 ニアを連れ去ったベルゼビュートに関しては、情けないことこの上ないがセンスたちに期待するしかない。


 次に馬車への方角は分かるが、道が判らないことだ。

 今からでも、腕に忍ばせたナイフで木に傷を作るべきか。夜間は、傷が見えないことと魔獣が活発に動く時間帯であるため、どこかで身を隠す方がいいだろう。移動するならば昼間だ。

 ただし、エリオットの意識が戻らなければこの作戦は使えない。私もそれなりに体力はある方だが、男を一人抱えて走るのは相当に体力が居る。

 最悪エリオットを背負って走るしかないだろうが、それでも手が足らない。

 何故なら、一番重要な食料と水の確保が必要だからだ。


 いざと言う場合、私は焦りで方向感覚を失っていると考えるべきだ。焦っている時こそ冷静に鳴れと人は言うが、大概無理なことは理解している。なら、こういった森では彷徨うことを想定しておいた方がよい。

 これだけ色々と策を練ってみても、実際どれほどの行動が出来るかはわからないものだ。だからこそ、本当に一番最悪を想定しておくことが大事である。


「陛下、この先に小屋があるようです。そこで少し体を休めましょう」


 先行していた騎士の報告を受けたオルトーウスは、私を振り返り告げる。オルトーウスの判断は間違っていない。どれだけ焦っていたとしてもしっかりとした休息は必要だ。


「わかった」


 短く会話を交わし私たちは、先導する騎士について黙々と歩いた。

 あれから十分ほどが経過しただろうか、漸く小屋の全貌が見えて来た。遠目で見る限り、丸太で作られた小屋は月日を感じさせることなく、まさに建てたばかりと言わんばかりの佇まいだった。


 もし人が行き交う街道や街の側の森の中であれば、人の手が入っているのだろうと違和感を覚える事はなかったはずだ。だが、ここはあの精魔大樹林であり、人が決して入ることない森である。

 魔法か? やはりオルトーウスは裏切り者で、我らをこの小屋で始末するつもりに違いない。

 疑心暗鬼に位置言っていた心臓がドクリと脈打ち鼓動が速度を上げる。小屋に歩を進めるほどに、この後どうやってエリオットを連れて逃げるかと言う思考に囚われた。


「陛下は暫しここに」

「あぁ、わかった」

「小屋の内部で休息できそうか? それとインフォルマーツに連絡用の狼煙を上げてみてくれ」

「中は今からこの者たちに調べさせます。何もなければその後、ここで休息を取りましょう。後、狼煙は私が請け負いましょう」

「頼む」

「お前たち、室内と小屋の周囲の探索を! 何かあれば警笛を鳴らせ」

「「「「「はっ」」」」」


 小屋の側近くでエリオットを降ろしたオルトーウスは、騎士たちに向け命令を出す。彼の声に答え、即座に動き出した騎士たちは二名ずつで小屋の周囲や中へと移動した。

 その合間に、オルトーウスは背負い袋から狼煙を取り出し火をつける。もくもくと上がる煙は黄色く、インフォルマーツへの緊急要請で間違いなかった。


 疑いすぎてしまったのだろうか? いやだが……小屋が在ったのはたまたまのようだった。彼がどうしてあの時、進むことを決めたのか私はその答えを聞いていない。休息の間に彼に聞いてみるべきだろう。答えを濁すようならば、その時は――覚悟を決めるしかない。

 独り頷いた私は、腰に差した愛剣を撫でた。

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