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覆面姫と溺愛陛下  作者: ao
本編
37/67

精魔大樹林① 霧とエリオットの異変(グレン・フォン・ティルタ・リュニュウス)

 ここは――。

 霧のせいで世界が白濁として見える。いくら目を凝らし見ても、白く染まったまま一向に晴れる気配は無かった。


「グレン様、ご無事ですか?」


 焦ったように私を呼ぶエリオットの声に「無事だ」と短く返し、慎重に進む。


 数時間前のこと、騎士たちに休憩を取らせながらなんとか私たちは、精魔大樹林に到着。装備を整え、外套を羽織った私はセンスが遣わしたインフォルマーツの隊員が導くまま森へと入った。

 うっそうとした森の中、相手に気取られないよう歩みを進めた。時折聞こえる獣や鳥の声。ガサリとなる茂みに目を凝らしつつ用心を心掛けていたはずだ。

 それなのに、気づけば白濁とした世界にいた。


 これは一体どういう事だ。つい数分前まで私は、日の元に居たはずなのに……。


「エリオット、私が見えるか? 声は、聞こえるか?」


「グレン様。声は聞こえます。ですが、霧が邪魔をして、お姿が見えません」


 エリオットもどうやら私と同じ状況のようだ。耳に届いた音声からして、エリオットは私のそば近くにいる。だが、その距離ですら姿が見えない。

 これは明らかにおかしい。魔力が感じられる事から魔法、もしくは魔道具の可能性もある。調べさせるべきか? だが、この視界では側に魔獣が居た場合、皆を危険にさらすことになりえる。このまま進むべきか……それとも、足をとめるべきか……。

 頭の中で考えを巡らせるも、私は答えが出せずにいた。


「陛下、この霧から魔力を感じます。どこかで魔道具がさようしているのかもしれません。魔道具を探しますか?」


 上がる報告に、私は立ち止まり再び頭を悩ませた。

 ニアを救いたい一心でここまで来たが、他者の命が私の判断で決まる事が恐ろしい。皆は私を守るために無茶をするだろう。

 どうすればいい。どうしたらいいんだ!


『……ぐ、……レン。……グレン、さ……』


 微かに聞こえる声にハッと顔を上げる。


『……こ、に……み…………さい』


「ニア? ニアなのか? どこにいる。」


 途切れ途切れに聞こえて来たニアのか細い声に、私は会いたい心を抑えきれず声をあげる。


『ぐれ、……い、ま……ない。かな……あい……て』


「ニア! 頼む。一目だけでもいいから、そなたの姿を、顔だけでもいいから見せて――」


「グレン様!」


 突如エリオットに強く肩を掴まれ、背後を振り返る。つい今しがたまであったはずの霧が無くなり、心配そうに私を見つめるエリオットがいた。


「大丈夫ですか? 酷く顔色が悪いです。お身体に変調はありませんか?」


「……あ、あぁ。はっ、そうだ。ニアは? ニアはどこにいる?」


「え? ニア……()()とは、()()()()()()()()()?」


「はっ、…………お前は、何を言っているんだ?」


 ニアの事がわからないと告げるエリオットは、私の質問に答えず困惑した表情を返すのみ。その様子に彼が、冗談で言っているわけではないと理解できた。

 まさか、と言う思いからエリオットにいくつか――例えば、上下水道のヒントをくれたのは誰か? スラムを改革したのは誰か? など、ニアの行動、言動でエリオットが関心を寄せていた事を思い出しながら、質問する。

 だが、その答え全てに彼は陛下ではないのですか? と答えるばかりだった。


 どういうことだ。霧が晴れたかと思えば、エリオットの記憶からニアの存在が消えている。ひとまずエリオットの記憶は置いておくとして、あの霧のせいであれば、私の記憶からもニアが消えるはず。なのに何故、私の記憶はそのままなのだ。原因は霧ではないのか? ならば、どう言う仕組みで……?

 分からない事が多すぎる。この件に関してはあとで考えるとして、まずはこの森を抜けニアを救い出さなければ!


「エリオット」


「はい」


「お前は覚えていないかもしれないが、これからいう事をよく聞け。ヴィルフィーナ公爵家のご令嬢であり、私の婚約者でもあるニアミュール嬢が婚姻の儀式の最中、亡国セウベルの元大公家の生き残りであるユースリア・ベルゼビュートによって拉致、誘拐された」


「……ユースリア……ベルゼ、ビュート……くっ、頭がっ、頭が」


 ユースリア・ベルゼビュートの名前を反芻したエリオットが突如頭を抱え、悶えるように倒れ込んだ。


「ぐああぁ、痛い! いたいぃぃぃ!」


 普段の彼からは絶対に聞くことのない声で、もんどりうつエリオット。

 大丈夫かと声をかけるのもためらわれるほどの異常な状態に、誰もがエリオットを注視していた。

 荒い呼吸で何度も何度も痛いと叫び続ける。そして、ついにエリオットは意識を失くして動かなくなった。


「一体何が……?」


「陛下、ひとまずは移動いたしましょう。いつ何時また、さっきの霧が襲うかわかりません。エリオット様は、私が責任を持って担ぎます」


 思考の渦に呑まれかけた私は、呆然としたままこの隊を率いる小隊長オルトーウスの言葉に頷く。意思を確認したオルトーウスは、近くにいる隊員をまとめあげた。


「陛下の護衛をグアンゼ、ベルド、ハウンズに任せる。ケーリック、セルジオは先頭を、マクリ、ユーゼフは殿を。後すまんがエリオット殿を私の背中に」


 手短に支持を出したオルトーウスに隊員たちが早速動き出す。

近くにいる騎士二人の手を借りて、エリオットを担ぎあげたアルトーウスは「陛下、ひとまずこの先へ参りましょう」と、馬車ではない方向へと視線を向けた。


 精魔大樹林は、精霊と魔獣、魔女が好み、共存するとされている森だ。何が起きたとしても不思議ではない。だが、エリオットに起きたことは、精霊や魔獣、魔女のせいではなく、人の手によるものであるような気がした。

お待たせしました。

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