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覆面姫と溺愛陛下  作者: ao
本編
33/67

噂の事件、その㉘ メリアナの証言<下> グレン・フォン・ティルタ・リュニュウスの場合

 エリオットの説得にメリアナの表情が一変した。それを見逃すはずのないエリオットが更に言葉を連ねメリアナから言葉を引き出す。


「メリアナ嬢は家族思いのご令嬢だと伺っておりますよ。ですから、ご家族のためお話しいただけませんか?」


 涙を流すメリアナへ、エリオットは笑顔でハンカチを差し出した。僅かな間、メリアナは差し出されたハンカチを見つめ、受け取ると涙を拭う。


「お話しいただけますね?」


 頷いたメリアナは意を決したように顔をあげた。

「わたくしが、パーシリィお嬢様に仰せつかった事は」そう言ってパーシリィ・ヴィズ・アンスィーラの言葉を復唱する。その内容に、全員が耳を疑った。


 まず、パーシリィ・ヴィズ・アンスィーラが最初に指示したことは、ニアが着ていた例のローブを複製する事だったそうだ。私たちが神殿を訪れるひと月以上前からパーシリィ・ヴィズ・アンスィーラはその指示を出していたとメリアナは証言した。

 

「複製の指示がひと月以上前からと言う事は、身代わり使うのは既にその時点で決定していたと言う事だな」


 冷静に分析するサルジアット卿の言葉にメリアナは俯き、肯定も否定もしない。ただ指示されただけだと弁解した。

 次にパーシリィ・ヴィズ・アンスィーラが指示を出したのは、私たちが神殿を訪れた翌日の朝だったそうだ。


「あの時のお嬢様は、酷く焦っておいででした。とにかく急いで、伯爵へ手紙を届けて欲しいと言うものです。内容はわかりませんが、お手紙をお届けして直ぐに伯爵さまがパーシリィお嬢様をおたずねになりました。その際、よく見かけるローブを着た男性もご一緒でした」


「その件については、こちらで調べがついています。パーシリィ・ヴィズ・アンスィーラと面会後すぐにアンスィーラ伯爵本人がメンダーク枢機卿を訪問しています。間違いなく、お嬢様の覆面の件でしょう」


 一歩前へ出たセシリアが、一枚の紙を広げ読み上げる形で報告した。彼女の手にある紙切れは、ヴィルフィーナ公爵家からの情報だろう。

 それよりも気になるのは、ローブの男だ。メリアナはよく見かけると言っていた。一体いつからアンスィーラ伯爵家はセプ・モルタリアと繋がっていたのだろうか?


「よく見かけるローブの男は、何時頃からパーシリィ・ヴィズ・アンスィーラを尋ねて来ていたのだ?」


 私が問いかけるより早く、サルジアット卿がメリアナへ問いかける。


「正確には覚えておりませんが、お嬢様が神殿に入られて二年ほどの月日が経った頃だったかと思います」


「彼女が神殿に入ったのは確か、十三になった時でしたよね?」


「彼女は今年、十八でしたね。三年……か」


 言葉尻を濁し黙りこくったエリオットは、思案するように顎に手を当てた。


 パーシリィ・ヴィズ・アンスィーラが十五の時には、既にセプ・モルタリアと繋がっていたと言う事か。どうやって繋がったかはアンスィーラ伯爵本人に直接聞く必要があるだろう。だが、それは後回しでいい。今知りたいのは、ニアの行方だ!


「それで――」さらに問い詰めようとしたところで焦った様子で執務室をノックする音が聞こえた。


「失礼致します! 急ぎ陛下へご報告がございます」


 聞こえた声にエリオットが、慌てて扉を開ければ息を切らしたインフォルマーツのデレクが室内へ駆け込んだ。


「陛下、センス隊長よりこちらをお預かりしました」


 デレクの差し出した紙を受け取り、中の文字を読めば”アンスィーラ伯爵が乗り込んだ馬車は現在ルグオーツ大森林の入口に近い村で野営。それとは別に、アンスィーラ家の馬車が一台ルグオーツ大森林に入って行った”と書かれていた。


 一台だけが別行動をとっているという報告に私は漠然とニアは、その馬車にいると思った。根拠や確信があるわけではないが、どうしてもそう思わずにはいられなかったのだ。


「馬車には誰が乗っていた?」


「それが、ユースリアと言う男だそうです。護衛はローブを着た男がが三名。アンスィーラ伯爵が雇った傭兵は誰一人付いて行っておりません。センス隊長とインフォルマーツの数名で現在、ルグオーツ大森林に入った馬車を尾行しています。いかがいたしましょうか?」


 アンスィーラ伯爵ですら頭を下げるような男が、傭兵すら連れずに別行動する理由が何かはわからない。だが、セプ・モルタリアがルグオーツ大森林で何か事を起こすことは間違いない。

 これ以上後手に回るわけにはいかないと、必死に頭を回転させそれぞれに指示を出す。


「エリオット、直ぐに神殿で待機しているハンスソンの元へ行き、第三、第四騎士団でアンスィーラ伯爵を取り押さえさせろ。ついでに第五、第六を大至急ルグオーツ大森林のセンスの元へ向かわせろ。デレク、お前には悪いが王城まで走ってもらう第一第二は、首都警ら隊と合同で王都、王城の警備を強化するように伝えよ。セシリア――」


 頷いたエリオットとデレクが部屋を出ていき、セシリアへ視線を向ければ、名を呼んだところでセシリア自身が私の思惑を言葉にした。


「大至急、ヴィルフィーナ公爵とヴィリジット辺境伯へ連絡を取らせて頂きます」


「頼む。それから、サルジアット卿には、聖女様への報告と、神殿騎士隊を纏めて動かせるよう動いてもらいたい」


「すぐに」


「あ、あの……」


 デレクの乱入で存在を忘れられていたメリアナが恐る恐る声をあげた。その声に、今まさに部屋を出ていこうとしていたセシリアとサルジアット卿が、足を止め振り返る。二人の動きにつられ、私もまたメリアナへ視線を向けた。


 全員の視線を集めてしまったメリアナは僅かに肩を揺らし怯える素振りを見せる。が、何か吹っ切れたらしい彼女は、再び意を決したように顔を上げた。


「パーシリィお嬢様から聞いた話ですが、ユースリア・ベルゼビュート様は、その魔法の才故に、セプ・モルタリアの司祭をされていると」


「ベルゼビュートですと!」


 ユースリアと言う男の家名を聞いたサルジアット卿が、憤怒の表情で声を荒げた。

お待たせしましたー!

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