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覆面姫と溺愛陛下  作者: ao
本編
32/67

噂の事件、その㉗ メリアナの証言<上> グレン・フォン・ティルタ・リュニュウスの場合

 僕の願いを叶える鍵がようやく手に入った。

 戻ったホルフェスから手渡された水晶をランタンの明かりに晒し、中を覗き見る。そこには人差し指ほどの小さくなった少女の姿が横たわっていた。


「くふふふっ、漸く、漸くこの時が……あぁ、やっとあなたにお会いできます。この日を僕はずっと待っていた」


 機嫌良く手に入れたばかりの鍵の水晶を撫でた僕は、馬車の窓に浮かび上がった鳥の形の蔭へと声をかけた。


「それで、事は上手くいったのですか?」

「はい。ユースリア様のご指示通り気取られておりません。全てアンスィーラ伯爵家のご令嬢が事を起こしてくれましたから」

「そうですか……」


 鳥が嘴をひらけば、そこから僕の従者であるホルフェスの声が聞こえる。通信は上手く出来ていると確信した僕は今後起こりうるであろうことを考えた。


 偽物として送り込んだ彼女は、精神を我らに支配されているとはいえ本物と比べれば見劣りする。言葉遣いや所作などの僅かな違和感で、ばれる危険がある。ならば、その罪を全てアンスィーラに被ってもらうべきだろう。


「彼らは、いかがしますか?」

「ふむ……そうだね。全てを背負っていただきましょうか」

「わかりました。ではその様に」

「あぁ、よろしく頼むよ。ホルフェス」

「はっ」


 鳥の影が消えると僕は再び、水晶に視線を落とす。

 月の光が、水晶をキラリと光らせた――。



*******



 駆けつけた騎士と神殿の衛兵により、ニアの偽者とパーシリィ・ヴィズ・アンスィーラとその侍女メリアナが捕えられ私の前へと連れてこられた。


 連れてこられた偽者はニアの姿をしていない。

 どうやって解除したのか不思議に思いセシリアに確認すれば、懐から黒く濁った腕輪を取り出した。


「この腕輪が、お嬢様に見せていたようです。女の名はリーニャ、パーシリィ・ヴィズ・アンスィーラに連れられて来られたと証言しております」

「そうか、わかった」


 窓際でセシリアと話し床に座るパーシリィ・ヴィズ・アンスィーラたちの元へ歩み寄る。

 目の前に立つなり「何故、このような事をなさるのですか?」と白々しく聞いて来るパーシリィ・ヴィズ・アンスィーラに、私は怒りを込め睨みつけた。


 執務室内で三人を私、エリオット、サルジアット卿、セシリアが囲みこむ。逃がすつもりはないが、相手に逃げ場はないと思わせるためだ。

 そこへ、聖女より預かったと言う魔道具――細い金属が捻じれ絡まり合い腕輪の形をした――をサルジアット卿が取り出し、三人の縛られた手頸へ取り付けた。


「それはなんだ?」

「これは、聖なる真言(サンクタチャントラ)と言いましてな。これを身に着けている限り虚偽の発言はできなくなります」

「そのようなものが神殿にあったのか!」

「はい。初代国王陛下が残されたものです」


 サンクチャントラについて説明したサルジアット卿は、私の耳元へ顔を近づけ聞こえるかどうかの声で「ただ、()()()出来ますので、全てを聞き出せるわけではありません」と耳打ちした。

 

 要は、虚偽発言ができなくはなるが、無言を貫かれた場合何の役にも立たないと言う事か……。一刻も早くニアを探さねばならぬと言うに……腹立たしい。


「陛下。そろそろ取り調べを始めてもよろしいでしょうか?」

「あぁ。始めろ」


 エリオットの声に同意を示し厳しい目を三人に向ける。パーシリィ・ヴィズ・アンスィーラは流石と言うべきか、この状況になってもなお堂々としている。偽物は、ここへ連れてこられる時も抵抗することなく、従順に従ったとの報告もあった。だが、その表情に生気を感じない。既に死ぬ事を理解しているのか、と思ったがどうも違和感を感じる。ならば攻め落とすのは、先ほどからビクビクと怯えている侍女のメリアナだろう。


 エリオットの名を呼び、メリアナへと視線を向けた。私の意図を理解したらしい彼は騎士たちに、他の二人を一度別室へ連れていくよう促す。

 残されたメリアナは、所在なさげに視線を揺らし身体を震わせていた。


「さて、メリアナ・()()()()さん。貴方に我々は聞きたいことがあるのですが、お答えいただけますか?」


 エリオットの声音はいつもと変わらなかった。なのに、メリアナは自身の名が呼ばれた途端、肩を大きく揺らし泣きはじめる。

 何が彼女の琴線に触れたのか私は同じ女性であるセシリアへ視線を向けるが、彼女は肩を竦め理解できないと言う風に首を振った。

 そして、主人を連れ去られ怒りに染まるセシリアの厳しい声が、彼女へ降りかかる。


「お前は、泣いて許されると思っているのか! ひとりの罪のない女性が、お前たちによって姿を消した! さっさと答えろ!」

「ひっ! わ、わた……わたしは……」


 何も知りませんと続くのかと呆れそうになった私の耳に、メリアナの「指示されただけなのです」と言う小さな声が届く。


「誰に指示を受けた?」

「……ぱ、パーシリィお嬢様に……」


 驚いた。こんなに簡単に本題を引き出せるとは……。


「なんと指示をされたのですか?」

「そ、それは……」


 言い淀むメリアナの様子にエリオットは暫し言葉を待った後「今のあなたの状況はご理解されていますか?」と、敢えて危機感を持たせる話しを振った。

 何故ここで、と思う私を他所に彼は、メリアナの元へ近づき片膝をついた形で視線を合わせると言葉を続ける。


「メリアナさん。貴方はゴザレア男爵家の御令嬢ですね? 今回貴方が協力したパーシリィ・ヴィズ・アンスィーラが起こした事件は、この国の王の婚約者である公爵令嬢を誘拐すると言う大罪です」

「そ、そんな! わたくしは、わたくしはただ、お嬢様にお客様を案内するように頼まれただけです!」

「ですが、パーシリィ・ヴィズ・アンスィーラは()()()()()()()と通じています。セプ・モルタリアがどう言った集団かご存じですか?」


 驚愕を表すように大きく目を見開いたメリアナは「ヒュッ」と喉を鳴らすと震える身体で頷いた。


「ご存じなら話が早いですね。この件に協力した貴方は、軽くて犯罪奴隷落ち、重ければ死罪です。勿論、貴方が関わった以上、ゴザレア家の方もただでは済まないでしょう」

「そ、そんな! か、かぞくは関係ありません! すべてはわたくしが――」


 再び目に涙を貯めるメリアナの言葉にエリオットはニッコリ笑い「えぇ、そうですね」と言葉を遮った。


「この場には陛下もいらっしゃいますから貴方が協力して下さるのであれば、貴方のご家族や貴方自身の罪については減刑するよう私から頼みましょう。どうですか? 知っている事を私たちに話してくださいませんか?」


 如何にもあなたの事を慮っていると言わんばかりに穏やかな声音で脅しをかけるエリオットに、私はこいつだけは敵に回すまいと思わずにはいられなかった。


お待たせしました!

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