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覆面姫と溺愛陛下  作者: ao
本編
31/67

噂の事件、その㉖ 最終日<下> セシリア&グレン。敵の名は!の場合

 お嬢様が大樹へ行っている間に、パーシリィ・ヴィズ・アンスィーラの事を調べるべく動いていた私はその日の夕方に部屋へと戻った。

 いつもならば「セリシア、お疲れさまでした。おかえりなさい」と言って覆面越しに微笑みを浮かべ労って下さるお嬢様が、今日は何も言わずただこちらを見ただけだった。


 おかしい。直感的にそう感じた私は、お嬢様にばれないよう様子を伺う。

 脱衣所へと入り、ローブを脱ぐのを手伝いながらその体に異変がないかを調べた。そして、疑いは確信へと変わった。

 お嬢様が本人であればご存じだろうものが、このお嬢様にはなかったのだ。


 焦りを感じる一方で、この者が手掛かりであると考える。お嬢様を攫った一味にパーシリィ・ヴィズ・アンスィーラが関わっている事は間違い。だが、あの女は決して自分が関与しているとは認めないだろう。であれば、お嬢様に関する唯一の手掛かりがこの者だと言える。


 偽物が風呂に入っている間に、私は急ぎ陛下の執務室へと向かう。ノックをすればすぐにエリオット様が対応をして下さり、至急の要件がある事を伝える。そして、陛下とエリオット様を前に私はお嬢様が、偽物と入れ替わっている事を話した――。



*******



 青白い顔のセシリアが執務室を訪れたのは、夕食も終わり明日帰るための準備を始めた頃だった。


「陛下、急ぎお知らせいたします」

「何かあったのか?」

「実は、今現在部屋にいらっしゃいますお嬢様は偽物です! 急ぎ、お嬢様の足取りを追わなければ、手遅れになります」

「ニアが……偽物?」


 セシリアの言葉が耳に入り頭に届くまでずいぶんと時間がかかったように思う。その間、私は呆然と彼女を見つめ放心していたはずだ。

 ニアは……。必死に考えを纏めようとするが、うまく働かない。

 立ち竦む私に、セシリアはなおも早口に言い募る。


「そうです! 今部屋にいるお嬢様には、本物のお女様にあるべきはずのものがありませんでした。直ぐにお調べ下さい」

「セシリア嬢、とにかくあなたはひとまず偽物を見張って下さい」

「わかりました。一度失礼致します」


 私を見つめるセシリアの瞳が不安そうに揺れ動く。そんな彼女を落ち着かせるようにエリオットが、肩を叩き私の代わりに指示を出してくれた。

 セシリアが退出した後、私は力なくその場に座り込んだ。


 言葉にならない思い――悔しさが、焦りが、動揺が、そのすべてが怒となり、噛みしめた唇から鉄の味がした。自分自身が情けなく激しい憤りを感じて、思うままに床を激しく拳で叩きつける。そうして、数分の間、己を責め続けた。


「気は済みましたか?」

「あぁ、すまない。取り乱した」

「いえ、グレン様の気持ちは知っていますから」


 私の溜飲が下がるのを待ってエリオットが声をかけ、私が立ち上がるのを手伝うように手を差し伸べた。その手を取り立ち上がった私は、動揺を抑えニアを救出すべく頭を動かす。


「直ぐに、サルジアット卿とデレクを呼べ。センスには使いをだせ。セシリアが来るまでに少しでも情報が欲しい」

「わかりました。直ぐに呼んでまいります」


 一礼したエリオットが部屋を出ていき一人になるとまたも怒りがこみ上げる。だが、ここで怒りに呑まれ我を失い、挙句ニアをあいつらの良いように使わせるわけにはいかない。

 考えるんだ! ニアを取り戻すために、今私がするべきことはなんだ? そう自分に言い聞かせ、皆が集まるのを待つ間、思考をフル回転させた。



*******



 十分ほどでサルジアット卿とデレクが部屋を訪れる。ある程度は話を聞いているのか室内に入った二人の顔色は蒼くなっていた。


「陛下……この度の事、誠に申し訳ございません!」


 私を前にした途端、サルジアット卿がその場に膝をつき頭をさげると許しを請う。

 確かに今回の件に関して、神殿に責任がないとは言い切れない。パーシリィ・ヴィズ・アンスィーラのような女が紛れ込んでいたのだから。だが、今回の件に関して言えば、事前に情報を得ていたにもかかわらずニアを誘拐された私たちの落ち度でもあるのだ。


「サルジアット卿。頭を上げてくれ。今回の件に関しては私たちの落ち度でもある」

「いいえ、いいえ、違うのです、陛下」


 激しく頭を振り、私の言葉を否定したサルジアット卿は「実は」と言って、報告をするべき事件が報告されていなかったのだと言い出した。

その内容は――。今日の朝の事。大樹の入口から、二十メートルほど奥にある神殿の庭で、ボヤ騒ぎが起きそうだ。それを見つけた神官見習いが、近くにある大樹の警備詰め所へ駆け込み、ボヤ騒ぎを鎮めるため一時的に誰もいない状態になってしまったと言う。

 

「それはどれぐらいの時間だ?」

「時間にして、約()()ほどだそうです」


 十分か、短いようで長い時間だ。その間にパーシリィ・ヴィズ・アンスィーラとあのローブの男が入り込む事は可能だろう。と言う事は、呼びに来た神官見習いも仲間かもしれん。


「なるほど。サルジアット卿にお聞きしたい。ボヤ騒ぎの間に、男の足で大樹と入口までの往復は可能ですか?」

()()()()()()いれば、十分に可能です。ですが、近道は、神殿の者以外知るはずはありません」

「近道は、パーシリィ・ヴィズ・アンスィーラが教えたのでしょう。それから、サルジアット卿には、ボヤ騒ぎを見つけた神官見習いをここへ連れてきて頂きたいのですが、可能でしょうか?」

「すぐに、連れてまいります」


 エリオットと会話を終えたサルジアット卿が一時退出するのに合わせ、私はデレクへと視線を向ける。

「デレク、神殿の出入りの記録はあるか?」

「拝借してあります。こちらです」


 頷いた彼が、懐から本のように分厚い記録を取り出す。それを受け取り、今日の日付を探して捲くる。誰もが真剣に文字を追い、紙の擦れる音だけが執務室内に響いた。


「パーシリィ・ヴィズ・アンスィーラの名前での面会申し込みはありませんね」

「あぁ。そうだな」

「ん! ちょっと待ってください。今のページ!」


 捲る手を止めたデレクが、目ざとく何かを見つけ声をあげる。そして、そこに記された文字を指で指し示す。訪問者の名前はホルフェスとユリシナ、面会者の名はメリアナ。


「メリアナは、パーシリィ・ヴィズ・アンスィーラ付きのメイド兼神官見習いだったはずです」

「時間の記入がないのが悔やまれる」

「いえ、時間と言うか関係あるかどうかなら、ある程度割り出せますよ。陛下。少々お待ちいただけますか?」

「あぁ、頼む」


 逸る気持ちを抑え、頷く。すると、デレクが再び懐から一枚の紙を取り出し、それと訪問記録を見比べ始める。一枚戻っては進みを繰り返し、難しい顔をしたまま数分の時間を要して顔を上げた。


「このメリアナの記録の上に書かれたベルーナ様は、枢機卿の一人ベレシス卿のお嬢様で、彼女が神殿に来たのが日の出から三十分後の事です。そして、この下に書かれたハロルドは、私の部下で報告に来たのは婚約者様が、大樹へ行ってすぐの事ですから……間違いなく、お嬢様を誘拐したのはホルフェスと言う男でしょう」

「と言う事は、この一緒に来たユリシナと言う女が、現在婚約者様に化けている女と言う事ですね?」

「そうなるな。……エリオット、直ぐに騎士団を呼べ、女と神官見習い、それからパーシリィ・ヴィズ・アンスィーラを捕える。それと、デレク。大至急センスの元へ走ってくれ、アンスィーラ伯爵家の馬車の行方を追えと伝言を伝えろ」

「「畏まりました」」


 部屋を出ていく二人を見送り、急ぎ、筆を執るとヴィルフィーナ公爵とヴィリジット辺境伯へ手紙を書いた――。

お待たせしましたー。

すみません。次回に続く形になってしまいましたー(;´・ω・)

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