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覆面姫と溺愛陛下  作者: ao
本編
30/67

噂の事件、その㉕ 最終日<中> グレン&エリオットの違和感の場合

 大樹への務めを終えて戻ったニアに、私は違和感を覚えた。昼食を共に取る姿を視界に収めながら、その違和感の出所を探す。

 いつも通り所作が美しい。だが、愛しい婚約者の纏う空気がどことなく違うように感じる。


「ニア?」


 食事の手を止め名を呼べば、僅かに彼女の肩が揺れた。


「何でございましょう? 陛下」


 耳に届いた声に違和感はない。

 エリオットやセシリアはいるものの基本彼らは私たちが二人の時は空気と化す。そのため二人きりだと判断したニアは、私を陛下とは呼ばないはずだ。だが、極稀に彼女は私を陛下と呼んでしまうため、違和感の存在に確信が持てないでいた。


「今日の祈りはどうだった?」


 動かしていたカトラリーを置いたニアが顔を上げる。覆面から見える美しく流れる銀の髪は、窓辺から差し込む陽の光で煌めき、その一瞬の動きでさ優美に見せた。


「特段、変わった事はございませんでした」

「そうか……」


 違和感の正体がわからない私は、流れるように壁際に立つエリオットへ視線を向ける。しかし、そこにいるはずのエリオットが居ない。その事に僅かばかりの不安を感じた私は、何気なく「セシリアはどうした?」と問いかけた。


「せ、せしりあには、用事を言いつけましたの」

「そう……か。ならば着替えなどは、彼女が帰ってからするといい」

「はい」


 そう返したニアに視線を向けた私の元へいつの間にか戻ったエリオットが側に佇み、小声で囁いた――「アンスィーラ伯爵が動いた」と。



*******



 陛下と婚約者殿との昼食の席を遠巻きに見つめていた私の耳に、静かなノックの音が届いた。楽し気に会話を交わされているお二人の邪魔にならないよう、静かに扉を開け訪問者を確認した。


「すまん。急ぎだ」


 短く言葉を切ったインフォルマーツの隊長センスに、私は頷き静かに廊下へと出る。


「何があったのですか?」

「つい今しがた、潜ませたジョイソンから連絡が入った」

「その連絡とは?」

「アンスィーラ伯爵家から、本人と他数名の男たちを乗せた馬車が出た。それにアストたちも護衛として追従しているらしい」

 

 センス隊長の報告に私は首を傾げる。

 聞いていた話の内容とアンスィーラ伯爵の行動に食い違いが起こっているからだ。


「それは……おかしいですね?」

「どう言うことだ?」

「アンスィーラ伯爵は、婚約者殿を狙っていたはず。でも、婚約者殿は今グレン様とここで昼食をとっているんです」

「なんだと?」


 驚きを露わにするセンス隊長の顔に嘘はない。と言う事は、私たちが知らない間に何か事があったと推測すべきだろう。ここで、私たちが推測を話し合っても意味がない事は十分に承知している。ならば、私のすべきことは、一つだ。


「とにかく、グレン様をお呼びします。先に執務室の方へ」

「わかった」


 背を向けて執務室へ向かうセンス隊長とは逆に、食堂へと戻った私はすぐさまグレン様の元へと歩み寄った。テーブルを見る限り既に食事を終えていたらしいグレン様は、私の囁くような報告に目を見開く。


「……わかった。すまないニア。折角の君との食事だが、どうやら緊急の執務が入ったようだからこれで中座させてもらうよ」

「はい」


 婚約者殿に断りを入れ立ち上がったグレン様と共に、食堂を後にする。その時に聞こえた婚約者様の声が二重に聞こえたような気がした。だが、きっと気がせいていたせいだろうと思い直し、そのままグレン様の後を追った。


 廊下や階段を早歩きで通過するグレン様に付いて入った執務室には、先に来ていたセンス隊長が待っていた。


「お呼びして申し訳ありません」

「いや、気にするな。それで?」


 謝罪するセンス隊長に片手を挙げたグレン様が、報告の詳細を促す。

 そうして、センス隊長により語られた内容は、やはり辻褄が合わないものだった。


 センス隊長に届いたジョイソンの上げてきた報告によれば、本日九つの鐘が鳴るころアンスィーラ伯爵とローブの男数人が馬車に乗り込み屋敷を出立。その際、ローブの男の中に、アンスィーラ伯爵ですら頭を下げるような男がいたらしい。その男の名はユースリア。

どこかで聞いたような名だが、その時の私は男の名に気を留める事もしなかった。そして、その一行が向かうと告げた先は、ルグオーツ大樹林――通称、魔の森。


「ルグオーツ大樹林だと? それは確かなのか?」

「はい。第七の三人を含め集まった傭兵や冒険者たちにそう告げたそうです」

「……どういうことだ? アンスィーラは何を考えている? ニアの純潔を奪い、晒し者にするのではなかったのか?」

「ルグオーツ大樹林と言えば、魔物が蔓延る深淵の森です。そんな辺鄙な場所に何をしにいくつもりなのでしょう?」


 私たちが掴んでいた計画とはまるで違うアンスィーラ伯爵の動きに、グレン様もセンス隊長もただただ頭を抱えてた。


「とにかく、今ここで悩んでいても仕方がない。ニアの警護はこれまで通り厳重にしつつ、センス、お前達はアンスィーラの動向を追え」

「畏まりました」

「はっ!」


 考える時間を惜しむ様に下されたグレン様の命令に、私もセンス隊長も気持ちを切り替える。ひとまずは婚約者殿の安全を優先すべく、警備の見直しをするとしよう。


お待たせしました!

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