表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
覆面姫と溺愛陛下  作者: ao
本編
3/67

エリオット・バンセルの場合

 僕と陛下は、幼少のころから幼馴染にあたる間柄だ。多少無礼な口のきき方をしたとしても、グレン様は気にも留めない。

 そんな僕たち主従の関係を国の大臣たちは良しとしていないが、私もグレン様も変えるつもりはない。


 そんなグレン様には、唯一と言っていい憂いがある。

 憂いと言えば大仰に聞こえるだろうが、グレン様にとっては本当に頭の痛い問題なのだ。


 それは婚約者であり、初恋の君でもあるニアミュール・シュゼ・ヴィルフィーナ公爵令嬢の事だ。

 彼女は幼少の頃グレン様の影をしていた男のせいでグレン様の婚約者には相応しくないと勘違いしているようなのだ。


 幼少の頃、グレン様に連れられてよく婚約者殿に会いに行った。行く度に、平民のような格好をして髪型や瞳の色を変え変装していた。

 そのせいで、彼女は僕達がグレンとエリオットだと言う事に気付いていない。

 グレン様が婚約者殿の為に、前王陛下と賭けをした後五年もの間会っていないので分からないのも仕方が無い事だと思う。


 幼いころの記憶が蘇りかけた僕の耳が開く扉の音を捉え、今はそれどころでは無いと思考を切りかえた。

 

 大きな溜息を吐きながら執務室へ戻ったグレン様に紅茶を差し出す。

 はっきりと思いを口にできないグレン様に、また今回も同じ事を伝えた。

 さていい加減グレン様の事はおいておいて、僕は僕の仕事をこなすことにしよう。

 


 翌日の事、相変わらずグレン様はデレを期待されているようだが、婚約者殿は全くと言っていいほどデレない。

 これはいい加減どうにかして差し上げたいところではあるが……難しい。

 まぁ、グレン様は婚約者殿と一緒にいるだけで、顔面偏差値が極端に下がっているので僕からすれば幸せそうに見える。

 

「ニア嬢。これはどうだ?」


 デレ顔のグレン様が、婚約者殿に新作のお菓子を差し出している。

 もう少し顔を整えて下さいよ、陛下……。威厳もへったくれもありませんよ?

 頭の中で陛下に突っ込みを入れながらも、僕は空気と化す。


「とても可愛らしいお菓子ですね」

「そうだろう? 味も折り紙つきだ!」


 自分の手に持ったお菓子を婚約者殿へ差し出すグレン様。

 手で受け取ろうとした婚約者様の覆面の上から口元へ運ぶ。

 

「あの……陛下……」

「グレンと呼ぶと約束したはずだ!」


 戸惑うように覆面に使われた布が揺れた。

 そんな婚約者に気付かず、グレン様は拗ねたような口調で名前を呼べと言う。完全に読み間違っている主人にどう伝えようか悩むも、空気と化した僕とメイドにはどうにもできないと諦めた。


「ほら、ニア嬢。あ~んして」

「……っ! グ、グレン様、そ、そのこ、こまります!」


 態々対面では無く、隣に席を移動してまで食べさせようとするグレン様に婚約者殿は、必死に両手で無理だと伝えていた。


 グレン様、一緒に居られるのが嬉しいのはわかります。ですが、お菓子を食べないからと拗ねるのはどうなのでしょう?


 子供か! と言いたくなるグレン様の様子を後ろに立ち見る事しかできない僕は、延々脳内でこの国の王に対し突っ込みを入れ続ける。

 そんな僕を気にする素振りも見せず、二人は二人の会話を続けていた。


「あ、あのグ、グレン様! じ、じぶんで食べられますから……」

「ニア嬢は、私から食べるのは嫌なのか……そうか……」

「あ、その……嫌と言う訳ではないのですが……」


 本当に困ったと言わんばかりの声音で、婚約者殿が俯く。するとやり過ぎたのが漸く分かったのか、グレン様が慌てて「すまなかった。調子に乗り過ぎた」と謝罪する。

 微笑ましい二人の姿に、いつもは空気に徹するメイド達が僅かばかり表情を緩めた。





 グレン様と婚約者殿の結婚について、周囲の高位貴族達には不服とする者も多い。それがあからさまにならないのは、単に婚約者殿の祖父がこの国の英雄である事が大きい。一見すれば、邪魔者は抑えられ居ないように見える。


 が、婚約者殿が神殿を訪れる日が近付くにつれ、城下にて妙な噂話が実しやかに囁かれるようになった。この時期におかしいと考えたらしい騎士の一人が、噂で聞いた話を訓練後、陛下にした事が発端で発覚した。

 現在は、噂の出所をグレン様を始め、陛下直属の情報部隊インフォルマーツが調べている。


 噂の内容はこうだ。

” 魔の道を進む姫を迎えれば、この国はいずれ沈む ”

 要訳すると、魔導書を好む婚約者殿をグレイ様の妻に迎えると国が沈む。とか言うでっち上げの噂だ。

 婚約者殿が古代の魔導書を読み漁っている件は、この王宮でしか得られない情報だ。その上、彼女は令嬢同士の繋がりもほぼほぼない。


 そんな事情からまず間違いなく、この王宮内の誰かが漏らした情報を、どこかの貴族(バカ)が噂として利用して排除しようとしているのは間違いない。

 婚約者殿が神殿を訪れるまで、のこり十日……それまでに、なんとか出所を調べあげ、婚約者殿を守らねばならない。

 そう思えば思うほど、焦りが募る。グレン様は平然としているが、きっと内心はまたか! そう思っているだろう。


 過去に何度も同じような事があった。その度にグレン様は、出所を調べ上げ徹底的に潰して来た。

 グレン様相手に喧嘩を売ろうなんて、恐ろしすぎて僕なら絶対に考えない。

 だからきっと、今回もまた……。

足を運んで頂きありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ