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覆面姫と溺愛陛下  作者: ao
本編
29/67

噂の事件、その㉔ 最終日<上> パーシリィ・ヴィズ・アンスィーラの場合

「それでは本日も、よろしくお願い致します」


 内心を見せない微笑みを作ったパーシリィ・ヴィズ・アンスィーラは、ニアを連れ部屋を出ていった。扉が閉まり間もなく「今朝方、センスから報告が上がっています」と言うエリオットに視線を投げる。


「わかった」

「グレン様。御心配なのはわかりますが……今は、まずやるべき事を」

「そうだが……。あぁ、わかっている」


 アンスィーラー伯爵の元へ送った第七の三人は、予想以上にいい仕事をしてくれた。アンスィーラ伯爵が最終日の今日動くこと。どのルートを使う予定なのか、どこでニアに狼藉を働くつもりなのかと、全てが赤裸々に報告された。それにより、こちらとしても打てる手は全て打ったつもりだ。

 だが、私の不安は消えない。何故だ。これ以上ないと言うほど慎重に、綿密に奴らを捕える準備をしたと言うのに……。


「センスの報告ですが、アンスィーラ伯爵が個人的にフェミリアル領を訪れていた件ですよ」

「わかったのか?」

「はい。どうやらメンダーク枢機卿に会いに言っていたようです。詳細はこちらの書面にてご確認下さい」

「わかった」

「それでは私も、これで失礼します」


 頭を下げたエリオットに「あぁ、頼む」と一言告げて、執務机に座った私は不安を押し隠すようにして渡された報告書を読んだ。


「この時期に、アンスィーラ伯爵が態々メンダーク枢機卿を……か」


 思い当たる話と言えば、例の覆面の件だろう。こうやってアンスィーラ伯爵が直々に動いたこと自体、パーシリィ・ヴィズ・アンスィーラの独断だったと言う事だ。あの狸ならこんな手間はかけないはずだ。しかし、メンダーク枢機卿は今回の件を断れなかったか……相当にごねてはいたようだが……何故だ? アンスィーラ伯爵に多額の借金があるから……と言うだけの理由だとは思えない。これは、もう少し調べてみる必要があるだろう。彼が何故借金を負う事になったのか? そして、もしそれを私のポケットマネーで立て替える事ができるのなら、メンダーク枢機卿をこちらに引き込むことができるはずだ。

 そうなれば、奴らの策に綻びがが出来る……。


 窓の外に向けた視線が朝日に煌めく大樹へと向く。その煌めきに後押しされるように、視線を戻すと宙を睨み、今日ですべてを終わらせると腹を括った。



*******



 この七日通い続けた大樹の根本にある東屋へ着いたわたくしは、今日で三度目となる魔道具をヴィルフィーナ公爵令嬢に手渡す。


「どうぞ、お使いください。本日が最後となりますから、心残りのないよう。あぁ、覆面ですがこちらでお預かりしますわ」

「はい。ありがとうございます」


 出来る限り穏やかに慈しみを込めた声をヴィルフィーナ公爵令嬢にかければ、花が咲く様に綻ぶ顔を目にする。

 疑う事を知らない頭お花畑のこの方を、陛下は……。頭を占拠するのは常に激しい憎悪。だが、今日でこの女も終わりなのだと思えば、上手く包み隠すように微笑むことが出来た。

 後は、この女が魔道具を使う瞬間を待つだけ――。


 魔道具にゆっくりと押し付けられた細く白い指先が離れるよりも早く、彼女の身体が傾く。その体を支え横たえたわたくしは「……ヴィルフィーナ様?」と何度か呼びかけ、返事がないと分かるや否や彼女の呼吸を確かめた。


 穏やかな呼吸を繰り返す彼女の胸部は上下に規則正しく動いている。大丈夫ですわ。後は、あの男を呼びさえすれば……。そう思い事前に知らされていた大樹の裏側へと視線を向け「ホルフェス」と男の名を呼んだ。


「お呼びですか?」

「これでよいのでしょう? さっさと連れて行きなさい」

「パーシリィ様に感謝を……」


 恭しく紳士の礼をして見せるホルフェスは、心の籠っていない声でわたくしに感謝を伝ます。


 ホルフェスが懐から取り出した水晶が彼の声音に合わせ規則正しく発光を繰り返す。それをヴィルフィーナ公爵令嬢の胸の上に置き、更に何事か聞き取れない言葉をホルフェスが紡いだ。発光が徐々に早くなり、まるで鼓動のようだと思ったその時――。

 水晶にヴィルフィーナ公爵令嬢の身体が吸い込まるように消えてしまう。


 彼女がいたはずの床へカランと硬質な音を立て水晶が落ちた。

 それを拾い上げたホルフェスは、魔法陣が施されたらしい布に水晶を包むと懐へしまい込んだ。


「そうそう。替えの者を用意してありますので、後は彼女に」

「替えですか?」

「えぇ、我らが事をなしえる時間を稼いでくれるリーニャと言う女です」

「そう。わかったわ」


 手短に説明を終えたホルフェスは「では、失礼します」と言う言葉を残して、その場からかき消えた。


「リーニャ、いるのかしら?」

「こちらに」


 大樹裏から現れた女を見たわたくしは、驚きの余り固まった。


「あ、あなた……どうして!」

「……? あぁ、申し訳ありません」


 リーニャと言う女が手首に手をかざすとブオンと言う音と共に、それまでいたはずのあの女の顔が消える。


「どういうことですの?」

「これは魔道具です。わたくしの姿をヴィルフィーナ公爵令嬢と瓜二つに見せてくれるものです」

「そうなのですね。覆面はこれを……後はよろしくお願いしますわ」

「畏まりました」

 

 これを準備したのはあの方だと聞いているけれど、よくここまでヴィルフィーナ公爵令嬢とよく似た背格好で銀の髪色をした女を用意できたことだ。声の質感もにているし、きっとうまくいくわ。

 後はお父様とあの方にお任せしておけばいい。そうよ。これでわたくしは、本来あるべき位置へと立てるのだわ。きっと、グレン様はわたくしを愛して下さるわ。ふふっ。


 覆面をつけているリーニャを見ながら、作戦の成功が確実になったと安堵を抱きつつ己の内から湧き上がる歓喜した――。


お待たせしました。

言葉遣いが思い出せなくて、何度か書き直してみましたが……こうだったのかいまだ不安ですorz

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