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覆面姫と溺愛陛下  作者: ao
本編
28/67

噂の事件、その㉓ 第七騎士団アストの場合

 金属と金属がぶつかり合う鈍い音と気合を込めた男たちのむさ苦しい声が響く訓練場に、終了の合図を知らせる鐘が鳴る。音が終わり汗を流しながら引き締まった体躯の同僚たちが、現れた男を前に整列した。


「気を付け!」


 副隊長の声にザッと衣擦れの音が聞こえ、全員が半歩開き後ろでに腕を組む。一糸乱れぬその動きに関心したように頷いた体長が「本日の訓練を終了する」と宣言すれば、またも一糸乱れぬ動きで握った右手の拳を胸に当てた。


「解散」と言う声に、各々が訓練で使った道具を取りに散開する中、隊長がオレ、ユール、ニクスの三人を呼び止める。


「隊長、お呼びですか?」

「どうしたんっすかー?」

「もう訓練終わったんだから敬語要らねーよな? 親父」


 三者三様で答えつつ隊長――ニクスの父バーセンの元へ駆け寄った。ニクスの態度に後で確実にげんこつが降るだろうと思った途端、見事にげんこつが降り降ろされ、ゴンッと言う鈍い音が鳴る。


「いってぇ! 何すんだよ!」

「何すんだよじゃねー。ここでは隊長と呼べとあれほど言っているだろうが、バカ息子が! 大体お前はっ――」


 説教モードに入った隊長は誰にも止められない。それが判っているオレとユールは黙って嵐が過ぎるのを待った。


 オレやニクス、ユール。隊長は、王国の第七騎士団に所属している。主な仕事は、第七地区の警護と見回り、貴族ぽいやつじゃ入れないような場所への潜入も……。後は、たまーに来る他騎士団からの応援要請に向かうのが仕事だ。


 スラムだった場所が第七って言う街になって、そこを守る騎士団が創設されたのは、偏にあのヘンテコ姫って言うと怒られるんだった――ヴィルフィーナ公爵令嬢の助言があったからだと院長先生に教えて貰った。

 具体的な事とかは知らないし、わからないけど……。ダチの親が医者に診て貰えて、荒んでた街が綺麗になって行ったりしたのを見てきた。

 だから、あの姫さんがいつか王妃になるならオレらが助けようってユールとニクスと約束した。そのためにオレは騎士になったんだ。


「もう、そのぐらいでよろしいのではないですか? バーセン隊長殿」


 昔の事を思い出せるぐらい長い説教をしていた隊長を、柔和な男の声が止める。その声にハッとしながら顔を上げれば、インフォルマーツの隊服を着た長身の男が立っていた。

 インフォルマーツの隊服は、どの騎士団とも形が違う。一般的な騎士団は、黒っぽい緑色の生地に詰襟の動きやすい隊服だ。所属する騎士団により、袖口と襟に入ったラインの色が違うだけ。

 一方でインフォルマーツは、シャツも含め全てが黒で統一されている。更には、燕尾服のように裾の長いちょっと気取った貴族が着るような上着なのだ。


「――これは失礼をセンス隊長殿」

「ここでは何ですから、部屋の方へ参りましょう」

「そうですな。ニクス、アスト、ユール。一緒に来い」

「「「はい!」」」


 何故ここに、と疑問に思う暇もなく歩き出した隊長たちの後について歩く。連れていかれた先は第七の団長室だった。隊長たちが挨拶するのに合わせ、騎士団独特の挨拶を済ませ壁際に三人並んで団長たちの話を聞く。


「三人とも楽にしなさい」


 優し気な雰囲気でオレたちに促したケイリー・へルクルト団長はこの第七では唯一の貴族様だ。

 団長の声で、休めの姿勢をとる。これから一体何があるのだろう? 突然の呼び出しにオレもニクスもユールも表情が硬くなっていた。そこへ、インフォルマーツのセンス隊長が、ある人物に自己紹介をするよう促す。


「まず先に、この者を紹介しておこう。ジョイソン自己紹介を」


 名前を呼ばれたジョイソンは、中肉中背の凡庸な男で声にも顔にも特徴がないように思えた。


「はい。自分はインフォルマーツ、諜報部に所属しております。ジョイソン・マッケンスと申します」

「センス、彼が今回ニクス、アスト、ユールと行動を共にするんだね?」

「あぁ、そうだ。ジョイソンなら見た目に特徴もなければ、存在感もないんでな。我々との情報交換もしやすいはずだ」

「わかった。では、ニクス、アスト、ユール、お前たちには明日から緊急の重要任務に就いてもらう。任務内容に関しては、センスから説明があるので良く聞くように」

「「「はい!」」」


 オレたち三人の返事を聞いて頷いたセンス隊長が説明を始めた。その内容は、アンスィーラ伯爵家が、現在神殿で行われている儀式を利用して、姫さんに良からぬことを企んでいるらしいと言う事だった。


「――現在、アンスィーラ伯爵家で大量に傭兵を募集している。それが何を目的としているのかを探って欲しい」


 センス隊長の言い回しにオレは、首を傾げそうになる。オレたちは身体を動かす事は得意だが、頭を使う事――諜報は苦手と言うより一切向かない。そんなオレたちにどうやって調べろと言うのか?


「センス。その言い方だと伝わっていないからね?」


 微笑みを浮かべた団長が、センス隊長を諭し「――要は、君たち三人とジョイソン君の四人は、騎士だと言う身分を隠して傭兵の募集に参加して貰う。傭兵として雇われたら、行動を共にしつつ、アンスィーラ伯爵家の目的を秘密裏に探って欲しい。と言う事だよ」と、かみ砕いた言葉を付け加えてくれた。

 団長の言葉に漸く意味を理解したオレたち三人は、了承の返事をする。


「この任務中知りえた情報に関して、一切の口外は禁ずる。明日、朝一番で騎士団から支給された物品を受け取り、アンスィーラ伯爵家を訪ねるように。その時にジョイソンに任務の詳細を聞くようにしてくれ」

「「「はい!」」」


 元気よく返事をしたオレたちはそのまま団長室から出た。口外は出来ないためその内容を話すことはできないが、互いに視線を合わせオレたちは頷き合う。

 この任務を無事に遂行できれば、漸く姫さんに恩が返せる。そう思っただけで、頑張ろうと思えた。

お待たせしました!

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