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覆面姫と溺愛陛下  作者: ao
本編
27/67

噂の事件、その㉒ 怒りと誤解 グレン・フォン・ティルタ・リュニュウスの場合

 執務室に入室した瞬間、走らせていた草から受け取った報告書を開き見た私は、最後の文に注目した。


『夕食後、自室に戻られた陛下は、惚けていたかと思えば、突然赤くなっており挙動不審です。陛下御自身は離宮をでておりませんが、遠隔操作による心神喪失または、自我の消失の可能性も?』


 疑問を抱くと言うより怪文書に近い報告書に、私は頭を悩ませる。

 どういう事だ? 昼の報告では、陛下についての報告はなかった。それが夜になった途端、こんな怪文書を受け取る事になるとは。


 開きっぱなしにしていた紙に綴られた文章をもう一度見直した所で、夕食後と言う部分に注目する。


 陛下は娘と一緒に、夕食を食べた。その後行動がおかしくなったと言う事は……食事に、薬が仕込まれていたのか?

 そこでハッと気付く、私の可愛い娘も陛下と同じ食事をとっていたはずだ。こうしてはいられない。急ぎセシリアに連絡をとらねば!

 そうして私は机に新しい紙を取り出し、ペンを持つと急ぎセシリアへ手紙を書いた。



******



 執務の続きをしなければいけないと言う事は、嫌になるほど理解している。だが、布越しだったとしても、好いたニアの唇が……と思い出すだけで、ニヤけてしまう。


「ふふっ。熟れた様に首まで赤くしていたニアは、本当に可愛らしい」


 不慮の事故とは言え、今までそう言ったことの無かったニアとのキスを思い出し、幸せに浸っていた。そんな幸せを側に控えるエリオットが、わざとらしく咳払いをして邪魔をする。


「グレン様……。嬉しいお気持ちはわかります。ですが、見ている方は、()()()()()()()()()ので思い出しながら、だらしのない顔で笑うのはお止めください。ここは城ではないのですからいつ、誰に見られ、グレン様がおかしくなったと誤解されるか判らないのですよ」


 まったく! と、いつもの幼馴染の顔をしながら、諫める。嫌味ではなく、私の立場を慮り友として忠告してくれるのだと思うが……何故か非常に気持ちが悪いと言う部分を強調された。


「わかった。思い出すのはベッドの中だけにする」

「それも、ある意味怖いですが……まぁ、いいでしょう」


 エリオットの許可を得たところで、机の上に置かれた書簡へ目を通す。そして、たまらず投げ捨てる。


 高く積み上げられた書簡のほぼ全てが、噂を信じ込みニアを魔女と勝手に決めつけ、挙句、この国の王妃――私の伴侶に相応しくないから婚約者の資格なし。と書かれている。明らかにニアを組織立って、排除しようと言う狙いで送られてきたものだと分かる。

 そんな馬鹿らしい書簡を読む気になれず、私は子供のように書簡を放り投げると机に突っ伏した。


 私が投げ捨てた書簡を拾いあげながらエリオットが「グレン様。いくら気に入らないと言っても投げ捨てるのはダメです」と注意する。だが、気に入らないものは気に入らない。あんな程度の低い噂で、何故ニアが魔女認定されなければならない。しかも、ニアの後釜にアンスィーラの娘、パーシリィを推薦するとは……。


「気に入らない。どれもこれも例の噂を聞きつけた馬鹿な貴族たちからの上訴文ばかり! ニアの何が気に入らない!」


 声を荒げ怒る私に肩を竦めたエリオットは「暫しの辛抱ですから」と、落ち着けと言わんばかりに告げる。


「疑いようもなく、噂の首謀者はアンスィーラで間違いないな」

「えぇ、裏で金を配り、協力者を得たのでしょう」

「あぁ、その書簡は()()()とっておいてくれ」

「畏まりました」


 ニヤリと口角を上げたエリオットに机の上に残る書簡を渡しながら、立ち上がった私は他に報告はないか確認を取る。


「一時間後に、センスとセシリア殿、両名から面会の申し込みが入っております」

「わかった。少し頭を冷やす」


 そうエリオット告げて、私室内にある浴室へ向かった。三十分ほどかけゆっくりと湯舟に浸かり、頭をスッキリさせる。

 気分をリフレッシュするつもりで身を清めたものの未だ己の感情には、地位欲しさに愛しいニアに向けられた悪意に対する憤りがくずぶっていた。


「許されると思うなよ。アンスィーラ」


 独り言ち虚空を睨みつける。髪から小さな雫が湯舟に落ち、チャポンと水音を立てた。



 約束の時間になり、二人が時間通り執務室を訪れる。エリオットを含め全員に座るよう伝え、私は報告を聞く態勢を取った。


「まずは私から、ご報告申し上げます。第七の三名と部下のジョイソンが無事伝を使い二日後、黒――アンスィーラ伯爵――に接触する事になりました」


 センスの報告を聞き、僅かばかり留意が下がる。

 それにしても、アンスィーラは傭兵集めをやたら急いでいるように感じる。近いうちにニアを使って事を起こすつもりなのだろう。十二分に注意せねば。


「わかった。装備等必要なものはしっかり持たせておいてくれ。後、くれぐれも悟られないよう向かう前にもう一度、伝えておいて欲しい」

「畏まりました」


 私の言葉にセンスは一も二も無く頷いた。

 本来であれば情報収集を主とするインフォルマーツ隊長に、範囲外の仕事を任せてしまっている事に申し訳なさが募るが、背に腹はかえらない。ニアを守り、アンスィーラを捕えるためだ。


「次はわたくしの方からです。リューセイ様より、こちらを。そして、ルーゼクリュシュ様より、こちらを陛下にお渡しするよう言い浸かりました」


 セシリアは懐から取り出した二通の手紙には、見覚えのある魔蝋印が押されている。差し出された手紙を受け取り、先にヴィジリット辺境伯の手紙から封を切った。


 手紙の内容は、あちらで調べてくれたらしい各貴族たちの動きに始まり。裏でアンスィーラに味方する者たち――セプ・モルタリアの教祖やその他関係者の名前などが書き記されていた。


 読み終わった手紙をエリオットに回し、続いて開けるのは義父であるヴィルフィーナ公爵の手紙だ。

 封を切り、手紙を取り出す。封筒の中には手紙以外に魔石を組み込んだ小さな長方形の魔道具が入っていた。


 何故こんなものを? と思いながらも先ずは手紙を読むべく、魔道具を机の上に置きヴィルフィーナ公爵からの手紙を読み進める。そして、私は手紙の内容に意味が分からず困惑した。

 書きなぐられたような文字で ”今すぐ同封した魔道具を使用して、陛下並びにニアそれぞれを解呪するように” と書かれている。その下に、魔道具の使用方法が説明されていた。


「何があったのだ? 解呪?」


 手紙を読み終わり、この中では一番事情に詳しいであろうセシリアに問いかける。すると彼女は私から視線を逸らし「非常に言い難いのですが、実は――」と仔細を報告した。


 セシリア曰く、晩餐の際に起きた事故――ニアとのキス――に浮かれ、惚けたり突然立ち上がったりと挙動不審な私の行動を見た草の者が、事故を知らないまま薬か魔法が使われたのではないかと誤解する。そして、それをそのままヴィルフィーナ公爵に報告した。報告書を読んだヴィルフィーナ公爵は、そこで更に深読みする。結果、急ぎ探し出した魔道具が送られてきたと言う訳だ。


「くっ、ふっ、あははははは」

「……エリオット。楽しそうだな?」

「ふっ、も、申し訳、ぶふっ、申し訳ありませんっ」


 セシリアの説明を聞き終えたエリオットが溜まらず声をあげて笑う。センスも俯き肩を揺らしている。それにジト目を向けた私は今後、絶対に人に悟られないよう気を付ける事を心に誓った。

お待たせいたしました。

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