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覆面姫と溺愛陛下  作者: ao
本編
25/67

噂の事件、その⑳ アンスィーラ―伯爵家の密会と初代様の場合

 自室でソワソワと父の来訪を待ち望んでいたわたくしの元へ、漸くその知らせが届いた。


「失礼いたします。お父君が面会の申し出です」

「わかりました。直ぐに向かいますわ」

「お部屋は、いつもの部屋でございます」


 恭しく頭を垂れた侍女に頷き、足早に部屋を後にする。そうして、お父様がいるであろう貴族用の豪奢な面会室に入った。

 眉間に皺を刻み、ソファーに座っていたお父様に呼び掛け歩み寄る。すると父は立ち上がり、瞬く間に表情を緩めた。が、すぐに表情を引き締める。


「それで、火急の用とはなんだ?」

「お父様。実は――」


 緊張しながらもきっとお父様なら上手く事を運んでくださると信じて、お願いするべきことを言いかけた。けれど顔をあげたわたくしの視界にホルフェスの姿が見え言葉を止めてしまう。

 このままこの男の前で、わたくしの失態を話すべきではないのではないか? もし、このことがユースリア様の耳に入れば……。

 想像しただけなのに背筋に冷たいものが走りどうすべきか、わたくしは判らなくなってしまった。

 

「どうぞ、私の事は居ないものと思ってお話し下さい」

「パーシリィ?」


 ホルフェスはそんなわたくしに対し存在しないものとして扱えと言う。けれど、この男はユースリア様の部下ではあるものの、これまでのやり取りからわたくしたち伯爵家にとって信用できな者でしかない。


 彼の言葉を聞いても何を言わないわたくしの様子にお父様は、目を眇めホルフェスとわたくしを交互に見る。そして、徐にホルフェスへ「暫く娘と二人にしてくれ」と告げた。


「わかりました。ですが、お嬢様に先に確認したいことがあります」


 フードの隙間からニヤニヤと笑うホルフェスの唇だけが言葉を紡ぐ。

 得体のしれないこの男の素顔はどんなものなのか気にはなるが、見たいとは到底思えない。などと考えながらわたくしはホルフェスへ用件を聞くことにしました。


「なんでしょう?」

「例の魔道具をお使いになりましたか?」

「えぇ、試しに使いましたわ」

「そうですか、であれば()()()の時は必ず、事前にご連絡頂きますよう」


 彼は、三度目と言う言葉を強調する。あの魔道具はもしかして、三度使わなければ効果を発揮できないのではないか? と当たりをつけたわたくしは「三度目ね」と彼が強調した言葉を繰り返し承諾した。

 わたくしの返事を聞いた彼は頷き部屋を出ていく。それを見送り再びお父様に視線を向けたわたくしは本題を話す。内容を告げる度に父の顔色が悪くなっていくが仕方がない。


「――と言う訳なのです。申し訳ありません。お父様」

「なんと言う事を……サルジアットに睨まれるとは……」


 そう零したっきり口を噤むお父様へ再び「申し訳ありません」と頭を下げる。


 わたくし自身も後悔はしておりますの。まさか、覆面に関して既に枢機卿会議で使用許可が下りているとは……。それにあの女を見た時の――。

 締まりの無い恍惚とした表情で、憎い女の顔を見ていたグレン様を思い出し、きつく唇と噛みしめる。お父様が来るまで何度となく噛んだ唇から、僅かに血の味がした。

 

「…………メンダークは、何処にいる?」

「現在はフェミリアル領に神事の準備のため滞在中です」


 顔を上げニヤリと笑ったお父様の表情に処理して頂けるのだと確信したわたくしは、ほっと安堵の息を吐き出しました。


「パーシリィ。今後余計な真似はするな。ユースリア様に不興を買えばお前も私もただでは済むまい」

「はい。肝に銘じて」


「ならばいい」と頷いたお父様は、わたくしの方へ身体を前のめりに倒す。そこでわたくしもお父様のお声が聞こえやすいよう身体をテーブルに寄せた。


「パーシリィ、ホルフェス殿の言っていた魔道具の使用だがな、最終日で調整して欲しい」

「わかりましたわ。お父様なりのお考えがあるのでしょうから、最終日に決行致しますわ」


 無言で頷き合い会話を済ませる。そのまま立ち上がったお父様と共に部屋を出ると少し離れた壁にローブの男ホルフェスが立っていた。

 

「終わりましたか?」

「問題はない。パーシリィ、見送りはここまででいい」


 ホルフェスの問いに答えた父様の言葉に従い、軽く頭を下げるとわたくしは自室へ戻ったのです。



 *******



 後光輝く白絹を纏った六枚羽を持つ女性が、わたくしの眼前で慈愛の籠った微笑みを見せる。その隣で、胡坐をかいて座る黒い髪に黒い瞳を持ち、屈強な戦士並みの体躯をした男性には見覚えがあった。


 この方が初代様……では、お隣のお美しい方は女神様なのですね。あぁ、なんと美しい光景でしょうか。

 惚れ惚れとお二人を見つめるわたくしの顔は今惚けている事でしょう。


――ほう。こいつが今度の嫁かー。良い感じで面白いな。

――えぇ、まことその通りですわ。

『あ、あの。お初にお目にかかります。わたくし、ニアミュール・シュゼ・ヴィルフィーナと申します。初代様、女神様の拝謁叶い光栄の極みですわ』


 お二人の優し気な声に最上の礼をもってご挨拶いたします。


――そう堅くなるな。座ってくれ、何にもないが……。

――ふふっ。わたくしもお会いできて嬉しく思うわ。

『ありがとうございます』


 まさか、まさか本当にお会いできるとは思いませんでした。興奮冷めやらぬ気持ちでお二方のご様子に視線を向ければ、とても仲睦まじいご様子でお話をされています。そんなお二方にわたくしはつい、つい色々と質問を投げかけていました。


――そうだな。俺達は魂と言うよりは記憶の断片に近い。

――ふふっ。本来であればこうして後世のあなたと話をすることなどなかったはず。けれど、貴方の魔力が杖に宿るわたくしたちの記憶を呼び覚ましたのでしょうね。

――魔力がこれほど強い娘も久しいがな。


 笑い合うお二人はわたくしの不躾な質問にも丁寧に答えて下さいます。そして、別れの時が近づき真面目な表情になられた初代様が、わたくしへ忠告をしてくださいました。


――また、会おう。

――また、お会いしましょうね。


 薄らいでいくお姿を見送り、わたくしは意識を取り戻したのです。

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