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覆面姫と溺愛陛下  作者: ao
本編
24/67

噂の事件、その⑲ 第七騎士団 グレン・フォン・ティルタ・リュニュウスの場合

 来客中にも拘らず激しく叩かれた扉から現れたのは我が家の執事である。中肉中背とは言い難いその巨体を揺らしいきを切らした執事は我が娘パーシリィからの緊急の手紙を持っていた。


「はぁはぁ、だ、だんなさま……お、お嬢様からきん、緊急のお手紙です」


 息も整わぬ内に恭しく差し出された手紙を受け取る。正面に座る白髪のローブ男にチラリと視線を向けつつ娘からの手紙を開き見た。


「伯爵、お嬢様はなんと?」


 娘が寄こした手紙を見た私は、白髪の男の問いにどう答えたものかと思案する。娘パーシリィが書きなぐったその文章には、手短にとにかく会いたい。大至急お越しくださいと言う言葉のみが書かれていた。

 娘パーシリィが焦っているのは間違いない。何か失態を犯したのではないか? そう思い至った。


「…………それが、内容は書かれていませんが何事か起こった可能性があるようです。至急、面会に来るよう求めています」

 悩みに悩んだ結果、そのまま伝えた。

 背筋がゾクっとするほどに見つめていた美しい顔立ちの男は、僅かに目を眇めると何事か考えるように腕を組んだかと思うと静かに「そうですか」とだけ答える。


「ユースリア様、申し訳ございませんが、私はこれで失礼させていただきます。直ぐに神殿へ参りたいので……」


 立ち上がり目上の者にするように頭を下げ退出する。扉を抜ける間際、ユースリアは「でしたら、私の部下を一人お連れ下さい」と言う。


 それに礼を述べつつ抜けた扉の先では、既にユースリアの部下であるホルフェスが立っていた。訝しむ間も無くホルフェスは「術長からのお言いつけ通り私がご一緒いたしましょう」と言葉を発する。

 彼に頷き急ぎ足で私は屋敷を後に馬車へと乗り込んだ。



*******



 センスの部下が得た情報を頭の中で整理する。

 彼の話によればアンスィーラ伯爵は、近々自領の森に出たとされる魔物討伐のために傭兵を集めているらしい。それとは別に、ニアの純潔を奪うと言ったことを画策しているようだ。しかも、奪った挙句打ち捨てるなとど……絶対に許すことはできない。必ず奴とその周囲にいるセプ・モルタリアを破滅に追い込んでやる。


 そんなことを考えながら、引っかかった内容を精査していく。

 魔物討伐と言う点については、公になった場合の言い訳に過ぎないだろう。それよりも、傭兵を集めている点について今は注視すべきだ。

 アンスィーラ伯爵家の騎士団では行えないような事をやるつもりか? だが、それにしては些か募集人数が多すぎるきらいがある。一体何をするつもりだ?


「傭兵は未だに募集されているのか?」

「はい。募集は百五十名と聞いております。手の物を送り込みますか?」

「そうだな。騎士と見分けのつかぬ者で手練れを何人か送っておくほうがいいだろう。それとこの事はヴィルフィーナ公爵、ヴィリジット辺境伯にも知らせておけ。向こうも向こうで必ず動くはずだ」

「畏まりました。もし、手の者を送り込むのであれば、第七騎士団の中から数名選ぶべきでしょう」

「第七か」


 第七騎士団と言えば、聞こえはいいがあそこは騎士志願者の中でも血気盛んな荒くれ者が揃う物騒な騎士団であり、その構成員は下町――スラムの出身者が多い事で有名だ。

 第七騎士団が出来た経緯には、過去に私とエリオット、そしてニアが関係している。


 あれはまだ私たちが幼く成人を迎える前の事。その日たまたま川でニアが食べられるという野草をつみ、私達が魚を網で取っていた所へスラム出身の子供たちが通りかかり即席の料理――湯がいた野草と焼いた魚だったのだが――をして食べさせた。


 すると子供の一人が病気の母親にも食べさせたいと言い出す。その日はどうにもできないと説得し翌日、三人でその子供の家へと向かった。


 今にも崩れそうな――崩れた物も多くあったが――木造の建物が並ぶそこには、ボロボロの服を身にまとい、薄汚れた肌や髪。直ぐにでも折れてしまうのではないかと思うほど細い体をした幼子たちが、家の壁や隙間に座っていた。

 大人たちはと言えば、その日その日を必死に食べていくため仕事を探したり、物乞いをしたり……。繁栄を極める王都に在って、異質ともとれるほど酷い惨状だったのだ。


 絶句する私やエリオットの前を歩くその子は、風が吹くだけでギシギシと音が鳴る建物へと入っていく。そこには複数人の屈強な男たちとベットに寝かされた一人の青白い女性が私たち三人を待っていた。


 そこで話した内容は、私たちを信用できない、自分たちを利用しようとしているだの、奴隷にするつもりなんだろ? と言ったことだった。違うと言ったところでこの者達は信用しないのだと諦めていた私は、持ってきた食べ物と薬をその子に渡すとニアとエリオットを連れ帰ろうとした。が、そこでニアが男たちに向かい「そんなに信用できないのなら、信じられるようにして差し上げます!」と啖呵を切った。


 それから数日後、ヴィリジット辺境伯とニアの父であるヴィルフィーナ公爵、そしてその当時王であった我が父の名においてスラムの再建が発表された。

 再建と言うよりは一つの街を作ると言った方がいいだろう。


 まず、スラムと言う呼び名は、第七地区と言う呼び名に変更された。

 ボロボロだった建物は全て国と各貴族の寄付金で立て直されることになり。親が居ない幼子たちは、神殿が第七に建てた孤児院へ引き取られていった。


 第七地区に住みたい元の住民達は住民登録をして貰い、家族の人数により建物の部屋が割り当てられた。仕事が決まるまで支援金を出すと共に、むこう三年は家の家賃や税金を取らない事になった。


 病や身体欠損が理由で仕事ができないと医師により診断された者には、己で出来る内職――体に無理のない程度の仕事を紹介し、それでも食べれない場合は国が申請に従って補助金を出す事になった。


 その他に幼い子供達には、読み書きと軽い計算や武術などを学べるように教育する場所を立てた。いずれ働きに出やすくするために。

 この第七地区再建にはニアの意見が多く取り入れられたと後に父上から聞かされた。


 そうして、私が国王になると同時にあの当時の子供たちが次々と騎士や兵士の試験を受けにきてくれた。その瞳は間違いなく忠誠心にあふれ、努力してくれたものだと分かる技量を示してくれたのだ。だからこそ、その思いに答えたいと考えた私は第七騎士団を作り彼らを受け入れた。

 その結果、どの騎士団よりも忠誠心高く、屈強な騎士団になったのだ。


「アスト、ユール、ニクス辺りなら、傭兵として差し向けても何ら疑われることはないかと思います」


 エリオットが上げたアスト、ユール、ニクスならばと、それぞれの顔を思い浮かべる。


「そうだな。それとは別に、一人インフォルマーツからも選んでおいてくれ。準備の方はセンス。お前に任せる」

「はっ!」


 切れのいい返事を返したセンスを送り出す。

 アンスィーラ伯爵が、ニアの身に何かを仕掛けようとも必ず彼女を守る。そう腹は決まっているものの、いつ奴らが動き出すかが判らない。そのため考える事は山ほどあるなと窓の外を見やった――。


お待たせしました!

楽しんでいただければ幸いです。

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