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覆面姫と溺愛陛下  作者: ao
本編
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噂の事件、その⑩ 神殿の大樹へ~グレン編~

 白とも茶色とも言えないような砂岩を使った計二十四本の支柱を据えた神殿の入口に到着した。入口に向かう階段を前に、彼女はどことなく落ち着かないようだ。

 その理由は、当然ながら昨日話した内容のせいだろう。


 止まった足に合わせ私自身も足を止める。気遣うように彼女を見れば、気持ちを落ち着かせるためか鉛色の重くのしかかる空をわずかな時間見上げていた。

 空を見ているのかはわからないのだが、そこは長年見てきた私の勘でそう思う事にする。きっと、先ほど別れた両親や祖父母の事を思い出しているのだろう。


 急かすつもりはなかったが、エリオットの視線を受け彼女の背に腕を回し優しく背中をポンポンと叩く。僅かに震える肩を抱き「大丈夫。私が居るよ」と甘く耳元で囁く。

 すると彼女の覆面の布がパタパタと激しく揺れた。


「……ぐ、ぐれん様……」

「くくっ、すまない。さぁ行こうか」


 少しだけ可愛い婚約者を見れたことに満足した私は視線を上げる。

 視線を向けた先には白に薄緑色の鎧に身を包む神殿の護衛騎士と同じく白に薄緑の刺繍を入れた豪奢なローブに身を包み五十センチはあるであろう高い帽子を頭にのせた初老の神官長、神殿に使える神官達が十数人神殿入口で我らを出迎えるために立っていた。

 予想以上の出迎えの多さに、流石の私も軽く驚いたほどだ。

 ドレスの裾を持ち上げ階段を登る婚約者に合わせ、私もゆったりと進む。


「ようこそ、お越しくださいました。国王陛下、ニアミュール・シュゼ・ヴィルフィーナ公爵令嬢」


 でっぶりと肥え太った神官の一人が、誰よりも前に出て入口へ到着した我らへ頭を垂れる。その男に倣うように他の者達も頭を垂れた。


「面を上げよ」

「お世話になります」

「お久しぶりでございますな。国王陛下、この度の選定の儀に立ち会えること誠に嬉しく思いますぞ」


 私の声に顔を上げた面々に向け、彼女が見惚れるカテーシーを決め挨拶をする。受けた側の神官長は、相変わらずの快活な笑みを浮かべ頷いた。


「久しいな。サルジアット卿」

「えぇ、本当にお久しぶりでございます。このようなところで立ち話もなりますまい。どうぞこちらへ」


 サルジアット卿は、元冒険者であり20年前にわが国を襲ったはやり病で妻子を亡くしたことを起因に聖職者となった。冒険者から聖職者と言う真逆の人生を歩む彼は、その経験を活かし頂点にまで上り詰めた。それでも彼の人となりは変わらないそうだ。彼曰く”死に際に立ち会えなかった俺が出来ることは、残りの人生をかけて妻と息子に許しを請う事だけだ”を胸に毎日神へと祈りをささげているのだろう。


 手を差し出し握手を交わす彼の手はしわが増えたように思う。入口でいつまでも話す訳にもいかず、彼の言葉に頷き神殿内へ赴く。

 彼女をエスコートしながら共に神殿内部を進んだ。丁度中庭に差し掛かった所で彼女の足が止まるのを感じ、私も足を止めた。


「美しいですね」感嘆の息と共に呟かれたその言葉に同意するように「あぁ」と頷き、大樹を見上げた。

 キラキラと陽の光を浴びて煌めく薄緑の葉が、ゆったりと風に揺れる。大の男が50人集まって両手を広げ繋げても一周はできなさそうな幹は白くどっしりと太い。

 景観を損なわぬよう誂えられた大樹への入口は、白一色の壁で美しく磨き上げられていた。


「ヴィルフィーナ公爵令嬢様には、明日よりあの大樹の側にて祈りを捧げていただきますわ」


 大樹に引き込まれていた私の耳に、気の強そうな女性の声が聞こえた。唐突に話しかけてきた女の方へ視線をむけた。そこにいたのは聖女候補であるパーシリィ・ヴィズ・アンスィーラだった。

 金の髪は肩口に流しつつひとつむずびに、聖職者ならではの白いローブは皺ひとつなく、ドレスを着れば美しいであろう曲線を上手く隠し、背筋を伸ばし凛とした佇まいながらその表情は聖女然とした優し気な面持ちだ。


「アンスィーラ家の令嬢か」

「……お初にお目にかかります。ニアミュール・シュゼ・ヴィルフィーナと申します」

「こちらこそ、突然のお声かけ失礼いたしました。パーシリィ・ヴィズ・アンスィーラでございます。以後お見知りおきを……それにしても、本当にお二人は仲睦まじいのですね」

「は、あ、はい。ありがとうございます?」


 お礼に疑問符を付けるニア嬢も可愛い。ではなく、お互いに名乗り軽く挨拶を交わす二人をしり目にエリオットへ視線を向ける。僅かな時間だが、互いに視線でこちらの配置などに問題ないか語り合い頷き合った。

 そこへサルジアット卿の「挨拶は済みましたか? では、参りましょう」と言う声がかかった。それに頷き、ニア嬢と共に奥の間と呼ばれる応接間へ入る。


 白を基調とした石造りの室内は、長年使っているかのような落ち着きのある色合いの家具が置かれている。その中の一つ、くすんだ緑の三人掛けのソファーに座る。私の隣はもちろんニア嬢が、向かいにサルジアット卿とその隣、ニア嬢の向かいにアンスィーラ家の令嬢が座った。

 

「それでは明日からの事を少し説明させていただきます」


 早速説明を始めたアンスィーラ家の令嬢を視界に収め、彼女に何かしら思惑がないか探る。

 エリオットとインフォルマーツの調べで、彼女の性格と交友関係は既に把握済みだ。彼女が加担していた場合どのような手を打ってきたとしても、必ずニア嬢だけは守って見せる! 決意を新たに、私はアンシィーラ家令嬢の話に耳を傾けた――。


お待たせしました。長らくお休みを頂き申し訳ありません。

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