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覆面姫と溺愛陛下  作者: ao
本編
14/67

噂の事件、その⑨ 三老の答えと決闘の場合

リースカーレン・ヴィイ・ヴィジリットの場合


 可愛い可愛い孫娘のニアの為にわたくし達が陛下に出した条件、それは――

・ ニアの安全を優先する事

 これに関しては、ひと月の猶予が欲しいとお願い申し上げました。

・ 早急に神殿にいるアンスィーラ伯爵家の三女バーシリィとローブの男――セプ・モルタリアとの繋がりを調べる事

 もし繋がりが有れば、神殿にその旨を伝え対処をお願いするよう伝える事。

 ――至極簡単な事だったのです。なのに、あの忌々しい三老と来たら……。


「――と言う訳で、全てが筒抜けだった。その上で三老の答えは、当初の予定通り神殿の大樹へ行かせるべきだと言う結論だ」

 

 訪ねてきた当初よりお顔の色が優れなかった陛下が話し終わり、わたくし達を見て更に顔色を悪くされます。その理由は言うまでもなくわたくし達ですけれど……。


「それで、陛下は……それを承諾したと?」


 隣に座る主人が出した声音がいつにも増して落ち着いている事に驚き顔を見れば、両手の拳を握りしめ目が据わっていました。

 本能的にあぁ、彼は既に限界を突破しているのだと理解します。

 そして、わたくしの隣に座る娘の手元からバキっと割れるような音が上がったかと思えば、義理の息子から殺気と言う名の威圧を感じました。


 夫の問いかけに頷いた陛下が、萎縮しながら「す、すまない……いずれ王妃となるのなら必要だと言い含められた」と謝罪されました。

 それが意味するところは、これ以上何を言っても我らの希望は叶わないと言う事でしょう。

 陛下を言い含める言葉としては”王妃”と言う単語は、一番効力を発揮する言葉でしょう。三老のニヤニヤと笑う顔が脳裏に浮かび、忌々しく思いながらも気持ちを落ち着かせました。


「陛下はどうするおつもりか?」


 静寂を破る夫の声に陛下は静かに瞳を上げられました。その瞳にはニアを守ると言う強い意志を感じ、わたくしは静かに息を呑みました。


「ニア嬢の事は、何としても守る。当日からの七日間、私もニア嬢と共に神殿へ行こうと思っている」


 拳を作る陛下の手が白くなるほど握りこまれ、本気である事が伝わります。夫から回された指先が僅かにわたくしを掴むことに気付き顔をあげました。夫からの視線を受けわたくしは今後の事を少しだけ頭で辿り大丈夫だと言う意味合いを込め頷きます。

 わたくしの答えを受けた夫は、気付かぬうちに入っていたらしい体の力を抜きました。


「今後の事で少し話を詰めたい――」そう告げた陛下の声て、わたくし達を含めた話し合いが行われました。


「わたくしとしては、娘のために戦闘が得意なメイドを一人はつけたいですわ」


孫の事を心配する娘が笑みを深くしながら意思を伝えます。


「確かに、そば近くにいるメイドにも戦闘の有無は必要だな。だが、それよりも草を走らせておくべきではないか?」


 同じく孫を心配する義息子が、興奮気味に頷き娘の意見に同意しつつ草を走らせる事を追加しました。


「お嬢様が行かれる場所が大神殿の大樹である事から、メイドを連れていくのは難しいでしょう。陛下のご指示で既にインフォルマーツが数名の隊員を神殿内に送り込んでいますが、他にも送られますか?」


 落ち着いた様子で、エリオット・ハウゼンが的確に状況を判断します。


「我らの草もすでに走らせておる」


 陛下が既にインフォルマーツを送り込んでいるように、夫も相手がアンスィーラ伯爵家だと分かった時点で同じように神殿へ草を送り込んでいる事を明かしました。

 以降の話し合いは難航し、幾つかの意見が採用され互いに協力する事が決まったのです。



**********

ニアミュール・シュゼ・ヴィルフィーナの場合


 陽もだいぶ傾いた頃、漸く家族と陛下の話し合いは終わったようです。来た時よりも明らかに窶れ疲れ切った表情の陛下にリラックスできるお茶を入れ差し出しながら、わたくしは陛下の前の椅子へと腰をおろしました。


「今日は突然の訪問で驚かせてしまったな。すまなかった」


 申し訳なさそうに、眉根を八の字に下げ上目遣いに謝罪をされる陛下の姿にお爺様の家にいるアレン――犬を思い出します。そう言えばアレンはとても賢いのに悪戯好きで、よく怒られてはこういう顔をしていました。


「ふふっ、グレン様。謝らないで下さいませ」


 アレンと陛下を比べるなど知られれば不敬罪でしょうが、その時のわたくしは陛下のお姿につい笑ってしまったのです。


「そう言ってくれると助かる」


 息を吐き出された陛下は少しだけ体の力を抜かれ椅子に深く腰掛けられるとわたくしに微笑まれました。

 余程お疲れなのでしょう。ただでさえお忙しい方ですから、あまり無理はされないようお伝えすべきでしょうか? ですが、とりあえずと言った状態の婚約者であるわたくしが、陛下にその様なことをお伝えすべきではないように思います。


「……しかし、ニア嬢の部屋は華やかでかわいらしい部屋だな」


 室内を見回された陛下のお言葉が耳に届き、どうお声をかけようか悩んでいたわたくしは慌てて「そうでしょうか?」とお話を合わせます。それに気づいたのか陛下が怪訝な表情をされ正面から横へ移動されました。

 当然のように腰に回される腕の力強さを感じ、わたくしの身体は力が入ってしまいます。


「ふっ、そう緊張しないで? ニア」


 耳元に寄せられた陛下の口から思いの外甘い声でささやかれ、恥ずかしさの余り自分の顔が熱くなるのを感じ両手で顔を覆いました。そんなわたくしの髪を指先でもてあそぶ陛下は、とても言葉では表現できないほどの笑顔です。


「ぐ、ぐれん様……あ、あの」


 執務室のあの部屋よりも近い距離にいる陛下に、わたくしはいつも以上に口が回らなくなりました。


「ふふっ、本当にニアは可愛いなぁ~」


 言いたいことが言えず口をパクパクするしかないわたくしの頬に陛下の手が優しく添えられました。そして、陛下のお顔がほんのりと朱に色付き、長い睫毛がゆっくりと下ろされ近づいて――。


「義理の息子は、私の前で私の可愛い娘に何をしようとしているのかな? 今すぐ死にたいのかな? そうか、であれば私が今すぐ殺してやろう! チェストー!」


 触れるかどうかと言うところでバンと開いたドアから乱入するお父様。焦ったようなお父様のお声と愛刀が、わたくしと陛下を引き離すかのように間を通り過ぎました。

 思わず口から洩れる「ヒッ!」と言う見苦しい悲鳴にハッと口を押え立ち上がります。


「チッ。やはり邪魔をするか……」

「ほう。私にそのような態度を取るか……義理の息子の癖に!」

「たまには見逃せ! 滅多に触れられないのだ! 私もそれなりに我慢はしているだろう?!」

「許すと思うか愚か者~! 婚約者風情が娘の純潔を!!」

「この、娘馬鹿がぁ~!」


 陛下とお父様のお口から次々聞いてならない音が響き、そっと視線を逸らしている内に父と陛下が庭へと飛び出し抜き身の剣を構え決闘を始めていました。

 その後、慌てたエリオット様と背中に黒いものを背負った笑顔のお母様が止めに入るまでその決闘は続いたのです。


長らくお待たせして申し訳ありません。

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