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覆面姫と溺愛陛下  作者: ao
本編
12/67

噂の事件、その⑦ 三老会議(1)の場合

長くなったので分割しました。

明日もしくは木曜日に続きをアップします。

 時間は少し遡る。


 今日もまたニア嬢が私の瞳の色を模した色合いのドレスに身を包み、王城を訪れている。現在の彼女は、執務室隣の部屋で黙々と魔導書を楽しんで読んでいる最中だ。新しい魔導書を手に取り嬉々とした様は、まるで花が咲き乱れるかのようで私の荒んだ心を癒してくれた。


「グレン様……顔が、崩れておられますよ?」

「うっ、し、仕方ないだろう……あんなに可愛い顔で笑ってくれたのだから……」

「ご婚約者様の顔は見えませんが?」

「…………うるさい。ふ、雰囲気でわかるんだ!」


 私がニア嬢の事を考えていると悟ったらしいエリオットが遠慮なく突っ込みを入れてくる。折角、ニア嬢の笑顔を思い浮かべていたのに……。


「そんな事より、三老が会議室でお待ちです」

「そんな事……だと?」


 ピクピクと口角が動くのを感じながら、無粋な物言いをしたエリオットを睨む。が、その甲斐もなくエリオットは再び「三老が、会議室でお待ちです」と何食わぬ顔で伝える。

 腹立たしいことこの上ない……が、今はニア嬢を守るため三老に会いに行くことを優先する。

 私が椅子から立ち上がるのに合わせ、エリオットがすました顔で執務室の扉を開ける。


「会議室は、いつもの第三でいいのだな?」

「はい」

「ここが勝負どころだ。行くか」


 気合を入れ直し、この国を支える三老――宰相の代わりとも呼べる齢百を超える三人の老人が待つ第三会議室へ歩を進めた。




 第三会議室の漆喰が塗られ落ち着いた色合いの扉を前に、私は数回の深呼吸をゆっくりと繰り返した。


 今から向き合う三老は、宰相の居ないこの国で唯一王に意見できる宰相的な存在である。

 更に私にとっては祖父同然であり、学術・魔導・剣術の師でもある。幼い頃から師としてそばにいた彼らは、いとも簡単にこちらの考えを見越すだろう。慎重且つ冷静に事を進めなければ、揚げ足を取られ論破されてしまう。


 気持ちの整理を終え、扉をノックし返事を待たず入室する。するとすでに三老が着座していた椅子から立ち上がり、頭を垂れる。

 形だけは臣下の礼を取るあたり、本当に気が抜けない。

 盛大に吐き出したい溜息をぐっと堪え、テラスの窓を背に座る。


「皆座るがよい」


 私から見て左に座るは、元・魔導技術研究室・所長であり、現三老が一人マルリーロ・ゲシュタル。白髪交じりのダークグリーンの髪を後ろに撫でつけ、片目眼鏡の奥には淡い茶色の瞳が、現役の頃と変わらず爛々と輝いている。

 好奇心が強く、熱中すると周囲が見えなくなるタイプだ。そしてニア嬢と同じと認めることがとても不快だが、魔導書をこよなく愛す偏屈爺である。


 正面に座るのは、元・王国騎士団の特級部隊――騎士団の中でも屈強な者たちだけが所属できる部隊だ――に所属し、七年程前までその特級部隊の団長を務めていた現三老の二人目、アーサー・タイナントだ。

 昔は綺麗な金髪だったらしい髪は、白くなり光が当たると僅かに金色だったことがわかる程度に落ち着いている。その髪のように本人も落ち着いているかと言えばそうではない。相変わらずこの人は、何を考えているのかわからない感じで飄々としている。


 私から見て、アーサーの右に座る人物へと視線を向ける。

 そこに座るのは、元・学術指導研究所・所長で、現・三老の三人目であるアヴァトール・ハウゼンシュナ。長い灰色の髪を後ろに束ね、白い髭を中腹当たりで三つ編みにした爺だ。三人の中で唯一まともな思考をしている。


 三人が席に座り、私を見据える。今回の呼び出しはまず間違いなく、ニア嬢の神殿行きの件だ。


「陛下、お久しぶりでございます。本日我らが陛下をこちらへお呼びいたしましたのは、陛下の婚約者であるヴィルフィーナ公爵令嬢の件でございます」


 三人を代表して、アヴァトールが本題を話す。アヴァトールが話す間、他の二人はじっと私を観察する。


「その件については、三老それぞれに手紙を書いたとおりだ。婚約者の神殿行きをひと月遅らせたい」

「理由をお伺いしてもよろしいですかな?」


 警戒するような声音でアヴァトールがその理由を尋ねる。


「街中に流れる噂が理由だ」


 ここで嘘を言うべきではない。真実を話しつつ、重要なことを隠すことが大事だ。噂の件で魔女が絡んでいる可能性は高く、三老に知られれば婚約自体を無かった事にされてしまうかもしれない。


「確か……魔の道を進む姫を迎えれば、この国はいずれ沈む……でしたかな?」


 アヴァトールの言葉に、私は無言で頷いた。


「ですが、所詮、噂にすぎませんぞ? 噂のみで神殿行きを遅らせるのは感心できませんな」


 アーサーが眼光を鋭くしながら、両手を前に組み私を見る。


「確かにアーサーの言う通りであるが、噂の出所がわからないのだ。それにだ、噂の内容が問題なんだ」

「噂の内容ですか?」


 首を傾げ不可解と言わんばかりの表情を見せたマルリーロに、私は頷き言葉を続けた。


「そうだ。もう一度噂の内容を確認すれば、三老であればわかるはずだ。

 内容はこうだ。()()()()()()ヴィルフィーナ公爵令嬢が、私の妻となればこの国が亡くなるもしくは消え失せるというもの。ここで重要なのは――「ヴィルフィーナ公爵令嬢が魔導書を好む事ですな?」」


 説明するまでもなく彼ら三人もこの噂の違和感に気付いたようだ。アヴァトールの言葉通り、この国に於いてニア嬢が好む魔導書は、全て国の管理が必要となるという法律が存在する。その為魔導書を読むには、王の許可がなくてはできない。


「ふむ。確かに、陛下の仰る通りこの噂はちと、おかしいかもしれませんな」

「なるほど…………王城内から市井へこの噂の元を持ち出した者がおると言う事ですな」

「いやはや、若き王には問題が山積みのようですのぅ」

 

 マルリーロはどこか、思案顔で、アーサーは実に不快そうな顔で、アヴァトールは面白いと言わんばかりの顔で順に感想を零した。


「相手がわからない以上、我らはヴィルフィーナ公爵令嬢を守ることが出来ないと判断した。それ故、ひと月の猶予が欲しい」


 三人それぞれに視線を向ける。


「ふむ。相手が分からず、王宮内の事情が漏れた……。これは王宮内に犯人もしくは共犯者がいると考えられますな」

「あぁ、私はそう考える」


 アーサーの言葉に、私は同意を示す。


「そうですか……だが、()()()()()()()()()()()()。今更、ひと月の猶予を与えたところで、犯人が絞り出せますかな?」


 右手の人差し指で机を叩いていたアヴァトールが、噂の出始めの時期を漏らす。その言葉に私はハッとしつつ、アヴァトールへ視線を向ける。

 すると彼は、本当にできるのか? と言う疑いの視線を私へ返した。


 私の元へ噂の情報が入ったのは約二週間前だ。なのに……アヴァトールはひと月も前からこの噂を知っていた……だと。


「後手後手ですな」


 ぽつりと漏らされたマルリーロの言葉に、今更ながらに苦汁を飲まされたのだと知る。三人はあらかじめこの噂の事を知っていた。知っていて、なお黙っていたのは私がどう動き解決するのか試していたに違いない。…………やられた。


「それで、貴方方の意見は?」


 心の底からこの三人の師を恨めしく思う。言ってやりたいことは多々あるが、それをすれば得られる情報はなくなり、へそを曲げられ後々面倒な事になる。

 それが分かっている私は、表情には出さず三人へ意見を求めた。


そんな私へアーサーが「おぉ。寛大な陛下は我らの意見を聞くか……甘いのぅ。ミツバチの蜜より甘い」などと口角を上げニヤリと笑いながら馬鹿にするような言葉を零す。その実かなり楽しんでいるのが分かる。


「我らが陛下が意見を求めておられる。そなたらどうする?」

「そうじゃのぅ……教えてもいいが、それでは成長の妨げになるかもしれんな……」


 アヴァトールが他の二人に視線を向けながら笑う。その視線を受けたマルリーロもまた、楽しそうに笑う。

 確実に私で遊ぶ気なのだろう三人が、視線とボソボソとこちらに聞こえない声で会話を始めた。


足をお運びいただきありがとうございます。

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