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覆面姫と溺愛陛下  作者: ao
本編
11/67

噂の事件、その⑥ ニアミュール・シュゼ・ヴィルフィーナ

 陛下と魔女のお話をした日から、数日後の事です。

 王城より帰宅したわたくしは着替える時間さえ惜しむように、両親と祖父母が寛ぐリビングへ呼ばれました。

 開けられた扉から瞬時に中を覗き見たわたくしは、両親祖父母の表情から今回呼ばれた理由が我が家にとってただ事ではないと痛感したのです。


「ただいま帰りましたわ。お父様、お母様、お爺様、お婆様」


 出来る限り冷静さを失わないよう努め、帰宅した挨拶をいたしました。そんなわたくしの声に、難しい顔をしていた四人が顔をあげられました。


「お帰り、ニア」

「お帰りなさい」

「ニア、陛下の元はどうだったかの?」

「急がせてしまったわね。ニア」


 お父様、お母様、お爺様、お婆様の順に帰宅の挨拶をしたわたくしに対し、微笑みを浮かべてお言葉をかけてくださいます。

 ですが、その微笑みはどこか空々しく――。


 先ほどチラ見した両親と祖父母の様子から、我が家の一大事だと言うのは間違いありません。今思いつく可能性と言えば、先日お父様と祖父母が王宮に訪ねていました。

 …………国と我が家に関する事とではないのでしょうか? であれば、間違いなく婚約の件のはずです。

 もしかしたら、先日わたくしが陛下とエリオット様を試した事でご気分を害された陛下が、内々にお父様に婚約破棄を言い渡されたのでは? 

 ……わたくしの存在が、ヴィルフィーナ公爵家の家名に傷を付けた。それに対して、両親や祖父母は失望したのでしょう。

 これで、破門され、除籍されたとしても仕方ありません……。

 なんて強がってみましたが、本当は嫌です。大好きで大切な家族を失うのはとても辛く悲しいですわ。ですが、両親や祖父母をわたくしのせいで辛い目に合わせるのはもっと嫌なのです。


 ソファーに座ったまま無言を貫く両親と祖父母に、わたくしは自分の決意を伝えます。恐れを見せないよう精一杯の虚勢を張り、背筋をのばして


「あ、あの。お父様、お母様、お爺様、お婆様。わたくしのせいで我が家の家名に傷が付いたと御思いなのでしょう? でしたら、今すぐにでもこの家から破門して下さいませ。除籍も甘んじて受けましょう」


 わたくしの言葉にその場にいた使用人含め皆が、時を止めたように動かなくなりました。

 開けられたテラスから爽やかな風が吹き込み、自然が醸し出す音以外何も音がしない室内は、どこか寂しく懐かしい。

――あぁ、この感覚はあの森の家に似ているんだ。

 懐かしき前世の記憶。リリア様と二人で過ごしたあの家を……。


「な、何を言い出すんだ! ニアを除籍する? 破門? そんな事断じてする訳がない! ニアを手放すぐらいなら、私は国と戦い娘を守ることを選ぶに決まっているだろう!」


 唐突に再起動したらしいお父様の叫びと力強いハグに、あの優しい時間を思いだしていたわたくしは現実へ引き戻されたのです。


「ニア……そなた、何か誤解をしとるようだが……?」

「誤解、ですか?」


 フッと笑ったお爺様のお言葉に、お父様に抱きしめられたままのわたくしは問い返します。そんなわたくしを手招きして呼んだお婆様は、いつもの微笑みを浮かべながら「ニア。実はね、神殿に行く時期を少し後にずらして欲しいのよ」と仰いました。

 予想に反したお婆様のお言葉にわたくしはキョトンとしてしまいます。


 婚約が破棄されたとばかり思っていましたが、そうではなかったようです。神殿に行く時期をずらして欲しいと言う事は、陛下は婚約の維持を望んでおられると言う事……。

 そう思い至ったわたくしの心は、非常に複雑でした。いずれ婚約破棄されるとわかっているのに、心底安堵していたのです……。




 そんなことがあった翌日のこと、お忍びで陛下がエリオット様を伴いわが家へと尋ねていらっしゃいました。いつもならば事前に訪問のお手紙を頂くのですが、今回はそれがなく。

 そのため家の使用人たちが大慌てで出迎えの準備を、わたくしは着替えをする羽目になったのです。


「お待たせいたしました。本日はようこそお越しくださいました」


 着替えを済ませ、祖父母、両親、陛下とエリオット様が待つ応接室へ入り、ご挨拶申し上げます。


「ニア嬢、そうかしこまる必要はない。いつも通りで頼む」


 爽やかな笑顔を浮かべて陛下は、遅れたわたくしを迎え入れてくださいました。

 ジャケットとズボンは、白地に薄いグレーと銀の刺繍。タイは、金に近い淡いクリーム色。中のシャツは上着を際立だせる濃いグレー。

 タイの色が少し浮いているようにも感じますが、細マッチョな体系の陛下には良くお似合いです。


「して、本日どのような御用で、当家を訪問されたのですか?」


 わたくしをエスコートしてくださった陛下の隣りへ腰を下ろしたところで、お父様が本日いらっしゃったご用向きをお伺いしました。

 それまでの笑顔が嘘のように消え、執務室でよくお見掛けする真面目な表情をされた陛下は、ある一枚の紙を取り出されます。


「すまない。そなたたちの望みを叶えることは叶わなかった」


 申し訳なさそうにそう仰った陛下のお言葉に対し、無言のまま紙を開き見たお父様は、片手で眉間を揉むような仕草をされます。そして、お爺様の方へ紙を滑らせました。

 陛下が取り出した紙は、お父様からお爺様へ、お爺様からお婆様といった感じで巡り、お母様の元へ行き。

 次はわたくしの番ですわ。ようやく中身が見れますわ。そう喜び思った矢先、お母様の手元でぐしゃりと握りつぶされたのです。


 お、お母様があのような行為に出るとは……いったいあの紙に、何が書かれていたのでしょうか? わたくしの番でしたのに、残念でなりません。


「何故じゃ! 何故このような決定が下る! 三老もついに老いたか……」

「許せませんわね?」

「許せるわけがありませんわ。貴方……兵の準備を……」

「なっ! ちょ、ちょっと待つのだ」

「我らに喧嘩を吹っ掛けたのだ。どちらかが滅ぶまで存分にやろう」


 声を震わせるお爺様。不快であると言わんばかりの表情を見せて扇をへし折るお婆様。顔はにこやかですのに、その声と纏う空気は鬼人のようなお母様。

 そんなわたくしの家族に対し、立ち上がった陛下が慌ててお言葉をおかけになりました。

そのお声を消し去るように、お父様が声を張り上げ不敵に笑いました。


「お方々、お怒りがごもっともですがどうか、どうか理由をお聞きください」


 一人冷静を保つエリオット様が、その場にいた皆へお声がけをされました。それに続くように陛下が、ご事情をお話しされました。


「三老との話し合いで決定したことなのだ」と前置きされた陛下は、一度深呼吸をされると両親、祖父母をまっすぐ見つめ……。

 今まさに陛下がお声を出されようとしたところに、お婆様が片手をあげ陛下のお言葉を遮ります。


 そして、わたくしへ優しく微笑んだお婆様は「ニア。少し込み入った話になります。その間お部屋へお行きなさい」と退室を促したのです。

 お婆様のお言葉を残念に思いながらも部屋を退出したわたくしは、しょんぼりとした気分で二階の奥にある自室へと戻りました。

足を運んでくださりありがとうございます。

三老についての補足は次回に回します。


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