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#1

 燃えさかる炎と森の中……。

 俺は空を見上げながら、地面に倒れていた。 腹部からは痛みを感じ、意識がどんどん遠くなっていくのを感じる。


「………はぁ……はぁ……」


 俺は負けたのだ。

 結局俺なんて何も出来ない、誰も守れない。 そんなちっぽけな人間だ。

 

「……また……俺は死ぬのか……」


 俺はそんな事を考えながら、目を瞑って今まで起こった出来事を思い出す。





「一体……ここはどこなんだ……」


 俺は先程まで自分の部屋に居たはずだった。 しかし……今俺がいるのは、見渡す限りの森……。


「……まじで……どこなんだ……」


 部屋で昼寝をしていて、起きてみたら森の中って……なんだドッキリか?

 いや、俺の住んでいる近くにこんな森は無い。

 しかも、見たことのない動物や虫が沢山いる。


「何これ……最近人気の異世界転生? いや、それにしてもなんで俺なんだよ!!」


 やけになった俺は一人で言って一人で怒ってはみたが、状況は何も変わらない。


「マジでここはどこなんだよぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 ……と叫んでみたが、やはり状況は一切変わらない。

 

「はぁ……叫んでも仕方ないか……」


 俺はとりあえず冷静に、これからどうするべきかを考え始めた。

 この場を離れて、どこか人の居るところに行ってみるか、それともこの場に留まってもう一度睡眠を取り、目を覚ましたらいつもの部屋だったっていう夢落ち展開に期待するか……。


「はぁ……どっちにしてもとりあえず、俺って何か持ってたっけ?」


 俺は自分の持ち物を確認する。

 ポケットに入っていたスマホ、そしてハンカチ……役に立ちそうな物が一切ない……。

 スマホは当たり前だが電波が入らないし、ハンカチなんて何に使うんだよ……。

 ハンカチには俺の名前、神崎健吾かんざき けんごの名字だけが書かれていた。

 

「はぁ……さて……とりあえず……」


 俺は自分の頬を抓る。


「うむ……痛いな……」


 痛い……と言うことは夢じゃないらしい。

 さて……そうなると、俺の取る行動は一つだ。


「人を探しに行くか……」


 まずは人の居るところを探そう。

 この世界についての知識が欲しい。

 情報が無いままだと、このまま野垂れ死ぬ恐れもある。

 俺はそう考え、とりあえず森の中を進んでみる事にした。

 少し歩くと何やら人の声が聞こえてきた。


「ん? 誰か居るのか?」


 俺は走って声の聞こえた方に向かう。

 林を抜け、俺は開けた場所に出た。

 

「殺せぇぇぇ!! 皆殺しだぁぁぁぁ!!」


「ひゃっはぁぁぁぁぁぁ!! 一人も生かして帰すんじゃねぇぇぇ!!」


 俺は林を抜けて驚きのあまり言葉を失った。 なんだこの世紀末……。

 そんな事を考えながら、俺はすぐに茂みの中に戻った。


「なんだ! なんなんだよ!!」


 殺し合いをしていた。

 どんな理由でやっているのかはわからないが、明らかに殺し合いをしていた。

 血が飛び散り、数多くのしたいが地面に転がっていた。

 なんなんだこの世界は!!

 俺がそんな事を思っていると、誰かかから首根っこを掴まれて、茂みの中から引っ張り出された。


「うわっ!!」


 一体何があったんだ!?

 俺はそんな事を考えながら、俺を引っ張った張本人を見る。


「お前……人間族だな……」


「へ? いや……俺は……」


 俺を引っ張ったのは、女の子だった。

 頭にはヤギの角のような物がついており、後ろからは尻尾が生えていた。

 明らかに人間ではない……。


「つ、角!? はうっ…………」


「なんだ……こいつ?」


 首筋に衝撃が走り、俺は意識を失った。





 夢を見ていた。

 いつもの通り朝起きて、いつもどおり学校に向かう風景だ。

 あぁ、早く起きて学校に行かなきゃなぁ……明日はテストが……。


「……きろ……」


 なんだ?

 誰かが俺を呼んでる?

 まぁ良いか……もう少し寝ていたい……。


「お……ろ………」


 うるさいなぁ……もう朝か?

 母さんも今日はしつこいなぁ……。


「えぇい! 起きろ!!」


「うがっ!! い、いてぇ……」


 俺は腹を蹴られて目を覚ました。

 最悪の目覚めだ。

 母さん今朝は随分酷い起こし方をしやがる……。


「え……な、なんだここ!!」


 俺が目を覚ましたのは牢屋だった。

 石で出来た壁に鉄格子がハマっている。

 牢屋の中には、俺の首根っこを引っ張った女の子が、俺を見下ろす形で立っていた。

 白髪の長い髪の少女で、髪を後ろで束ねている。

 目をキッとつり上げ、俺の事を睨んでいた。 鎧のような物を身に付け、右手には大きな槍を持っている。


「お前……なんであんなところにいた」


「え? いや……俺にもわからないし……そもそもここどこ?」


「とぼけるな!!」


「うぐっ!!」


 少女は再び俺の腹を蹴り飛ばした。

 こいつ……可愛い顔して凶暴だぞ……。

 俺は危機感のようなものを感じた。


「あそこで何をしていた! 言え! お前が我々を陥れたのか!!」


「だ、だから何の話しをしてるんだよ……俺は何も……」


「嘘をつくな!!」


「あがっ!!」


 またしても少女は俺の腹を蹴ってきた。

 こいつ……どんだけ蹴ってくるんだよ……。

「まぁ良い……いずれは自分から喋りたくなるだろう……」


「あがっ!! ま……まぁ良いなら蹴らなくても……」


 最後の一発と言わんばかりに、少女は俺を蹴り飛ばして牢屋から出た。

 牢屋の扉に鍵を掛けると、少女は階段を上ってどこかに行ってしまった。


「はぁ……なんなんだよ……もう……」


 誰も居なくなった牢屋で、俺は寝転がりながら考えていた。

 角の生えた少女に、殺し合い。

 見たことも無い動物や昆虫。

 漫画や小説なんかである異世界転送ってやつか?

 だとしたら俺は帰る事が出来るのだろうか?

 

「はぁ……そんな事よりも今はこの状況をどうするかだよなぁ……」


 てか、普通こういう時って、なんかチート級の能力とか貰って、可愛い女の子にモテまくるんじゃないの!?

 俺、今のところ気を失って、女の子から蹴られまくっただけなんだけど!!


「はぁ……そんな事考えてる場合じゃないか……」


 俺がそんな事を考えていると、少女が上って行った階段の方から、ぴとぴとと水が跳ねるような音が聞こえてきた。

 また誰かきたのだろうか?


「ん、お前が捕虜か……なんかパッとしないやつだなぁ……ほら、飯だ食え」


「………」


「なんだ、お前? そんなジッと俺を見て……」


「す………」


「す?」


「スライムだぁぁぁぁぁ!!!!」


 食事を持ってきたのは、青くて丸いモンスタースライムだった。

 いや、このいつがスライムなのかはわからない。

 しかし、名前を付けるのであればこいつはスライムだ。

 頭の上にお盆を乗せて、俺の食事を運んできた。

 

「いきなり大声出すんじゃねーよ!! うるせぇな!! スライムなんてそんな珍しくねーだろ!!」


「いやいや、珍しいってか……存在してたのか? 俺は初めて見たぞ!!」


「お前……どんなだけ田舎から来たんだよ……てかお前、捕虜なんだぞ! 少しは捕虜らしくしてろよな!」


「捕虜? 俺が? なんで?」


「なんでって……お前が人間族だからだよ……今は戦争中だろ?」


「戦争!? え、どことどこが!?」


「は? いや、俺ら魔族とお前達人間族だろ? 本当に何言ってんだ?」


「なんで戦争してるんだ?」


「そんなの人間が俺たちを殺そうとしてくるからだろ? 俺達は身を守る為に戦ってるんだよ。ただ殺されるなんていやだろ?」


「ま、まぁそうだけど……戦争はどれくらい続いてるんだ?」


「もう何百年……って何俺は丁寧に答えてんだ!! お前捕虜だろ!! 黙って飯食ってろ!!」


「あ、おい!!」


 スライムはそう言うと、階段脇にある藁の束の上で丸まってしまった。

 俺は出された食事を見てため息を吐く。


「パンと木の実だけ……マジかよ」


 パンは堅いし、木の実はただ酸っぱいだけだし……。

 はぁ……でも腹が減っていたからか、少しだけ美味しく感じた。


「なぁ……」


「………」


「なぁ……スライム」


「………」


「なぁって……もっと話し聞かせてくれよ」


「………」


「おい、すら太郎!」


「誰がすら太郎だ!! 俺はそんな変な名前じゃない! ベリムだ!!」


「お、やっと喋った……」


「はっ!! しまった……」


「なぁなぁ! お前ってどうやって喋ってるんだ? 体は何で出来てるんだ?」


「お前……スライム見るの本当に初めてなのか? どこ出身だよ……」


「俺か? 俺は日本の……」


「にほん? 聞いたことの無い地名だな……どこなんだ?」


 俺はスライムに自分の国の話しをした。

 

「くるま? スマホ? お前の話出てくる道具を俺はどれも知らないぞ?」


「まぁ……多分世界が違うしな……あ、スマホなら今持ってるぞ……ほら」


「これで、遠くの人間と交信が出来るのか?」


「あぁ、まぁ今は出来ないけど……」


「へぇ………うお!! いきなり光りだした!!」


「あぁ、ライト機能だよ……このスマホもいつバッテリーが切れるかわからないけど……」


「ばってりー? なんだそれ? もっと教えろよ」


「おいおい、俺の質問にもそろそろ答えてくれよ」


「む……まぁ、確かにこちらが聞いてばかりじゃ不公平か……よし、教えてやろう」


 俺はスライムのベリムからこの世界の話しを聞いた。

 この世界には人間族、魔族、獣人族、エルフ族が存在しているらしい。

 魔族はその中の人間族と獣人族の連合軍と戦争をしているらしい。

 

「まぁ……俺たち魔族がこの前の戦いで人間族の罠にはめられてな……今結構ヤバイ状況なんだよ……」


「ふーん……大変なんだな……」


「まぁな……俺はあんまり戦闘に参加出来ないから、こうやって捕虜の見張りをしてるんだけどな」


「それは何となく知ってた、弱そうだしな」


「おい、お前失礼だな」


「お前じゃねー、俺は健吾だ」


「健吾……変な名前」


「うっせぇ! お前も失礼だろ!!」


「お前には言われたくねぇんだよ!! スライム舐めんなよ! 顔に取り付いて窒息させるくらいは出来るんだぞ!!」


「うわ、なにそれ……結構怖い」


「フッフッフ……そうだろう……」


 俺はベリムから色々な話しを聞き、この世界の事が少しわかってきた。

 でも……なんで俺はこの世界に来たのだろうか?


「そう言えば、さっきの女の子は何なんだ? 随分偉そうだったけど」


「ん? あぁ、アーリス様か……」


「アーリス?」


「あぁ、魔王様の娘で魔王軍の幹部の一人だよ……かなり強いぞ、しかも美人だ」


「確かにそうだったな……胸もデカかった」


「人間はメスの胸が好きだよな? なんでだ?」


「それは……男のロマンだからだ」


「ふーん……あんなの俺の体より堅いぞ?」


「そう言うことじゃねーんだよ」


 まったく、スライムにはわからないだろうな……女性の胸の良さは……。


「ん? てか、お前らスライムにも性別とかあるのか?」


「ん? 性別の概念は無いが……俺は一応オスとして生きてるぞ!」


「あぁ、思い込み次第ってことか……」


「まぁ、そんな感じだな。てか、お前よく呑気に話してられるな?」


「え? そうか?」


「あぁ、普通人間なら俺みたいなスライムを見たら驚いて逃げていくぞ?」


「いやぁ……なんか衝撃的な事の連続でな……てか、リアルスライムに会えたことが一番嬉しいかも……俺、ド〇クエ派だったから」


「なんだ? ドラ〇エって?」


 俺とベリムがそんな話しをしていると、再び階段の方から下に下りてくる足音が聞こえてきた。

 

「あ、アーリスさま!!」


「ベリム、見張りご苦労。今からこいつの尋問を始める」


「は、はい!!」


「え、尋問?」


 俺は牢屋から出され、別な部屋に連れて行かれた。

 

「なんだ……この部屋は………」


 その部屋は先程と同じように石の壁に鉄格子がある牢屋だった。

 しかし、大きく違ったのは、その部屋の至る所に鎖や刃物、その他物騒な物が数多く並べられていた。


「な、なに……この部屋……」


「座れ」


「え?」


「さっさと座れ!!」


「いでっ!!」


 俺は木製の椅子に座らせられ、腕と足を拘束された。

 あぁ、絶対にヤバイことが始まる気がする……。

 変な汗まで出てきた……。


「では質問を始めよう」


 アーリスは俺の目の前に机を出し、その机の上に紫色の丸い玉を置いた。

 

「まずは最初の質問だ……あそこで何をしていた?」


「え? いや何も……」


 俺がそう言うと、紫の色の玉がどんどん白くなっていった。


「……本当か……では、貴様は帝国軍の騎士か?」


「は? いや、違いますけど……」


 またしても玉は白くなった。

 

「これも本当? じゃ、じゃあ……貴方が私たち魔族陥れたの?」


「いや、俺はそんな事出来ない……」


 またしても玉が白くなった。

 アーリスはその玉を見ながら、眉間にシワを寄せて何かをブツブツ呟き始める。


「まさか……いや……でも……」


「な、なんだよ……」


 アーリスは俺の顔をじーっと見て一言。


「まぁ、確かに戦士の顔つきじゃないし……むしろパッとしない……」


「余計なお世話だ!!」


「あなた、本当にあそこに居たのは偶然なの?」


「だから、そう言ってるだろ?」


「じゃあ、なんであんなところに?」


「だから、歩いてたらいつの間にかあそこに……」


「………」


 アーリスは何か考えながら、立ち上がり俺の手足の拘束を解いた。

 

「え?」


 もしかして助けてくれる?

 そんな事を期待しているとアーリスは俺に槍を突き立ててきた。


「へ?」


「お前の話しが本当なのは認めよう……しかし、人間族は敵!」


「いやいや待って待って! なんで俺殺されなきゃいけないの!! 何もしてない事がわかったんじゃないの!! その変な玉で!」


「あぁ、あれは相手の嘘を見抜く魔道具よ、嘘をつくと黒色になるけれど、残念ながらずっと真っ白だったわ」


「だから、俺の言ってることが本当だってわかったんだろ!!」


「それでも……人間族は敵!」


「待って! え? 何!? 俺が人間だから殺すの!?」


「そうだ!」


「理不尽!!」


「ええい! 良いからもう死ね!!」


「ぎゃぁぁぁ殺されるぅぅぅ!!」


 アーリスが槍を振りかぶった瞬間、俺は死ぬのだと思った。

 これまでの出来事が走馬灯のように頭に流れてくるのがわかった。

 あぁ……俺は死ぬ、死ぬんだ…………って死ぬの遅くない?

 そう思って俺が目を開けると、がたいの大きな魔族の男性がアーリスの槍を握り、俺の目の前で止めていた。


「ダルフ! なぜ止める!」


「アーリス、少し落ちつけ」


「し、しかし!!」


「罪も無い人間を傷つけたら……人間族と同じだぞ……」


「………」


 がたいの大きい魔族の男性がそう言うと、アーリスは槍を下ろした。

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