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呪われ魔導師と秘密の至宝  作者: 七縁ささみ
二章
99/150

99、不穏な火

 

 余りの光景にはっと息を呑んだグランジエールだったが、瞬時に魂に刻まれた絆を経由してレオナルドに必死に呼びかける。


『ちちうえ!!』


 想像以上に義理の息子として可愛がられている自覚はある。直様応えてくれると確信と信頼がある為、呼ばうと同時に炎の中に身を躍らせる。


 神経を集中させて魔力の揺らぎ、少しの違和感も見逃さないようにしつつ、直感に任せて走り出す。

 火の属性に親和性が高いとされるドワーフの集落でありながら、ここまでの大規模な火災など異常でしかない。


 生存者は僅かではあるが居ると感じるので、必死に探し出しては灼熱の空間から隔てるようラッピングする様にして隔離し、比較的炎が廻っていない場所へと引っ張って行く。


 忙しなく走り回っている間に、レオナルドが義息子の逼迫した声に応えて姿を顕した。


「おぅ、どした焦った声出して‥‥って、ぅ熱っちぃ!!」

『ちちうえ!せいぞんしゃをかくりしたので、はこんでください!ボクでは、ちょっとてがたりません!』

「おぉう、任せろ!」


 いきなりの凄惨な火災現場に驚きながらも、義息子の的確な対処と要請に即座に応え、まとめてまだ息のある者達を自らの領域空間へ隔離して護ってくれる。


 瞬時に対応して貰えた事に安堵しつつ、疑問に思った点についてグランジエールは水を向けてみる事にした。


『ちちうえ、もくざいがねんりょうていどしかないドワーフのしゅうらくで、かさいなんて、へんです』

「そうだな、見たところ耐熱耐火仕様の集落自体に、竈付近も耐火の魔術式も簡単ではあるが施されてるっぽい。調べる為にも、一度鎮火させるべきだ。出来るか?」

『はい、ええと、このじょうたいでみずは、そとじゃないからダメで‥‥うん、やってみます』

「おう」


 遺跡であり洞窟の中という閉鎖された空間である事を踏まえ、安全な消火策を懸命に考えるグランジエールを微笑ましげに見やり、レオナルドは頷いて見せる。


 大失敗でもしない限り、何を試したとしてもフォローは自分がしてやるのだ。何でも試して失敗したとしてもそこから学んでくれればそれで良いと、無自覚ながらもすっかり義理の息子を甘やかしてしまう。


 そして温かい眼差しを背中に受けながら、最近の獣姿の義父に比べればまさしく仔猫程の身体の胸を凛々しく張り、太めの前後の両脚をしっかりと踏み締めたグランジエールは、細く長く一度息を吐き出した後。


 くわっと口を大きく開けると息を吸い込み始めた。


(お?冷却ブレスとか‥‥じゃない?)


 グランジエールが何を始めたのか見守っていたレオナルドは、想定していたのとは違う挙動と事態に興味深げな笑みを浮かべる。例え洞窟の密閉空間で消火の為に大量に放水魔術を行使された処で、水蒸気爆発を起そうとも集落全体を永久凍土にしようとも如才なく対処する算段はつけていた。


 だが、眼前に拡がる炎を自然現象と捉えず魔素を介した現象と本能で理解したのだろうか。


 グランジエールは炎を炎たらしめている魔素を、属性も熱量諸共、その仔猫が大欠伸している様にしか見えない口に猛然と吸い込み続ける。


 魔素を吸い込んでいるので厳密には肺活量と関係はないのだが、ついつい心配になるくらいの吸引力の勢いと速さで、結果然程時間をかけずに集落全体を覆っていた熱量と炎を吸い込み終えそうだ。


 視界の半分以上を覆って激しく燃え盛っていた炎は、残す所出火原因と思しき存在がある付近のみになり、グランジエールはこれで仕上げとばかりに一層強く魔素の吸引をその場所へかけ、黒ずんだ何かの塊がずるりと連なって吸い込まれて行く。


 その塊を眼にしたレオナルドがはっと青い瞳を見開き、咄嗟に義息子の口に飛び込むそれらを取り上げたが、残念な事に最後の一つの尻尾らしき部分のみしかその手の中には無かった為、無造作に白練色の首根っこを後ろからむんずと引っ掴んだ。


「こら、変なもん食べたらダメだろ!ぺってしろ!!」

『ぐ、グゥ』


 ほぼ魔素とはいえ勢い良く吸い込んでいる最中に首を後ろから掴まれた為、喉が詰まって情けなくも変な音が零れ落ちる。

 だが、レオナルドは情け容赦なくグランジエールの首を掴んだまま持ち上げると、ガッと口に手を突っ込み、辛うじて最後の一つを掴んで引っ張り出した。


「今呑んだのがどう見ても元凶だろうが!一個くらい残せ!」

『ガハッ‥‥ケフっ‥‥はぃ、ごめんなさいちちうえ‥‥』

「‥‥よろしい。んで?この黒いのついてる炭みたいなの、お前平気なの?」

ぶっしつたい(マテリアルボディ)にようやくなじんできたので‥‥やみとくうかんで』

「ふぅん‥‥‥んで?成功したのか?」

『‥‥‥‥‥‥‥』


 長身の美丈夫が仔猫を持ち上げて視線を合わせるが、花緑青の瞳が逃げるようについっと逸らされる。


 以前この元雛の特性をアレンハワードと語った時、現時点で発現していない属性でも恐らく取り込めばその属性も有する可能性が高いと双方が認識していたのだが、どうやら自分でもそれに気付いてこの一人旅で実践して廻る魂胆の様だ。


「能力を上げるのに貪欲なのは良い事だが‥‥。まぁ、エレンに悪食って認識されたくなければ、今後ちょっとは口に入れるものは選んどけよ?」

『‥‥はぃ』


 ほんの僅かな間を感じなくも無いが一応きちんと了承の返事をしたので、レオナルドはわざとらしくはぁ〜っと溜息を吐く。


「闇と空間の属性を利用した隔離なら、それに閉じ込めたモノはオレに送れるんだろ?後で確認するから繋げとけ。さて、ここの住人の治療と保護だが‥‥まだ微妙に背骨内だな。青ひよこんとこ運ぶから、転移手伝え」

『わかりました』


 集落の規模から考えると、残念ながら助けられたドワーフの数は多くない。元より小規模な集落だったのだろう。


 レオナルドが現状維持とばかりに集落のある空間そのものを『隔離』してから、一人一人保護目的でラッピングされたドワーフ計八名を、子供の大きさしかないグランジエールの背中に載せて行く。


 何も言わないのは、これくらいどうにか対応しろという無言の指示だと判断し、身体強化と重量の軽減という無属性の魔術を試しに行使して義父の後に付き従った。






 * * * * *





 『これは、爺様の時の記憶なので‥‥合っていると言い切れないですが、許して欲しいのですピヨ』


 レオナルドにすっかり調教された、帝都聖堂の地下にいる青水晶の大精霊こと青ひよこが、ちっこ青い姿のまま大真面目な顔で火災現場から持ち帰った例の炭化したモノを診て神妙な声で語り出した。


『蜂を良く捕食する鷹の一種が、背骨付近つまり国境付近に僅かに生息してるのですピヨ。これは、その雛だと思われるのですピヨ』


 青いちっこいひよこと対面しているのは、黒い大型獣姿のレオナルド。

 傍目から見れば捕食寸前で震えるひよこだが、勿論敢えてそうしているし一種の様式美とも言える。


「火の属性は何処から来てんだ」


 ただの鷹であったならば、グランジエールの火属性習得について説明がつかない。


『憶測ですがほぼ国境という地域性から、火属性の精霊か妖精の因子が混ざっているのでは無いかと思うのでピヨ』

「おぃぉぃ、それだと魔獣じゃなくて聖獣だろ。こんな簡単に火だるまになって炭化する存在じゃないぞ?」

『当代がという訳ではなくて、かなり因子が薄くなっているだけなのですピヨ。それが恐らく餌に寄生した小さい魔虫によって、暴走したのでは無いかと思うのですピヨ』


 その場にドワーフ達の治療の為に呼び出されていたメイヴィスが、治癒の調べによって怪我や火傷を逆再生の様に徐々に癒して行く傍ら、二人の話に耳を傾けている。


「魔虫‥‥どれだ」

『ええと、本当にちっこいのですピヨ。これ、なのですピヨ』


 青ひよこが炭化した雛の腹から、人間の大人の親指の第一関節未満の焦げた昆虫らしきものを、小さな足で器用に取り出す。


「んん?蜂?だよな」

『魔虫は、これに寄生したダニの方なのですピヨ。魔虫じゃなくても、このダニによって病気が広がったりもするのですピヨ』


 メイヴィスも聞こえてくる会話に思い当たる何かがあったのか、ふと手を止めると会話に加わってくる。


『藤の花が咲くと集まる大きな蜂には、この様に腹回りにコナダニという昆虫が寄生しておりますね‥‥。他の生き物に移ると発熱や爛れ、他の植物を枯らすなどの被害を引き起こす場合もございます』

「うわぁ‥‥それの魔虫?」

『恐らく‥‥』


 期せずしてこの場に南方の地域の有力な上位者が二名と頂点の筈の一人が居るが、火災や魔虫が発生している可能性が高い場所がほぼオクリウェートとの国境付近の為、どう扱ったものかと一同思わず思考を放棄したくなったのは無理もない、かも知れない。





お読み頂き、有難うございます٩( 'ω' )و


青ひよこさんの語尾の『ピヨ』は、レオナルドに「ひよこ」って呼ばれるが故に自主的に全自動で出てしまっています。

口調まで調教済み( ´ ▽ ` )b

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