97、閑話・ルディの旅立ち
更新が一週遅れてしまい、申し訳ありませんでした。
これにて、一章閑話終了です。
ルークは自分が憑依している身体の本来の持ち主である、ルディの意識が表面に戻りつつあると感じる出来事があってから、自主的に屋敷の庭へ一人で出る時間が増えていた。
アレンハワードとレオナルドも本来のモルガン家三男としての意識が戻ったなら、ルーナエレンとの接触はなるべく避けて様子を見た後、彼を家に返すかどうかを考えなくてはならないという姿勢をとっている。
元よりモルガン辺境伯家は武官の血筋、本来の肉体の基礎能力もこねこねした守護狼の聖獣の要素も、かなりのポテンシャルに違いないが故に、今後本来の気質がどういったものか見極めなければ毒にもなりかねない。
何せ、今の所顔合わせをしたモルガン家のツートップが、片や巧妙なオネェに気付かず初恋を拗らせていたり、若干暴走気味な上ロリM性癖疑惑を匂わせていたりするのだ。
幾ら幼いとはいえそこの前者の三男坊。
大事な愛娘が苦手とするタイプの雰囲気を察知しているだけに、高位精霊妖精含めた保護者達が慎重になるのも仕方が無い事である。
姫のお役に立てているのならと、頑張って扱い辛く慣れない肉体に憑依して体内の魔力を丁寧に循環させてやっているけれど、ルークは次第に姫に会うゆとりがなかなか持てない現在の状況が、徐々に不満となって心に薄く昏く降り積もっていた。
そんな折に、つい先日の突然の体内隔離である。
当人の意識の覚醒の兆しだったとしても、はっきり言って不快でしかなかった。
箱庭で意識を持つようになってからまだかなり浅く、素質を持っていたとしても幼いまま上位精霊へと進化し、自分で把握しているよりも己の持つ権能がかなり強い存在なのだが、身近に居る者がほぼ規格外という異常な環境が当たり前だったルークは、ある意味ルーナエレンと同様に生粋と言える程の世間知らずの箱入り精霊である。
二人とも幼い見かけ通りではないのだけれど、それでも幸いにもルーナエレンがとても小さく愛らしい庇護対象として存在していたので、辛うじてお兄ちゃんポジションで見栄を張り懸命に頑張っていたのだ。
本心ではまだまだ屋敷の二階の暖炉の前で、ルーナエレンとぴっとりとくっついて丸まっていたかったのだ。
だが、自分のその欲求のまま行動した場合、再び先日の状況に陥ったとしたら。
結果、自分の意識が戻った時に姫に怯えられる自分を想像しただけで、ぎゅっと心核が縮み上がる気がする。
そうしてルークは誰にもこの不満や不快をぶつける事も出来ず、やや不貞腐れた状態で日当たりのより良い場所を探しながら、屋敷の外で日向ぼっこに興じていた。
うつらうつらと転寝をしていると、サクサクと庭の緑の絨毯を踏み締める足音が耳に入り、勝手にピクリと狼の耳が音の元へ向かう。
「ルーク」
姫とは若干違うけれど、実質彼の魔力が自分のルーツだと本能が告げている。
故に、どうしても慕わしい感情が胸に広がる。
そっと頭を撫でられて、触れられるその大きな掌と魔力に、ささくれ立った心が少しだけ慰められた気がした。
「さっきね、少しエレンと荷物の整理をしていたんだよ」
不貞寝を決め込んでいたというのに、彼の穏やかで静かな声に不思議と素直に顔が上がり、アイスブルーの瞳を上目遣いに見上げる。
全体的にはネヴァンの氷の精霊王と言いたくなる様な麗しい容貌の青年は、柔らかく暖かな微笑みでルークの前に幾つかの見慣れない小さな菓子が幾つか入った器をそっと置いた。
「クローゼットの収納が出来る前、旅先で採取した他国の果物が材料なんだけど、メイヴィスと苗木にする実を分けてたら、商品化する厨房の魔道具選びでエレンが焼き菓子作りに利用してね。ルークに食べて欲しいって」
『姫ノ手作リ‥‥!?』
「ふふ、ちょっと野生味が強くて甘味が少ない分、素朴で優しい味に仕上がっているよ」
目の前に出された浅めの器に、やや大ぶりに切られた果物がゴロリと入ったカントリーケーキが一切れと、生地自体に潰した果物を練り込んだような鮮やかなオレンジの色合いのミニカップケーキが入っている。
視覚からも嗅覚からも、その素朴さと素材の果物の持つ色合いが優しくて、ついつい拗ねてやや鬱屈していた気持ちが和らいで解けてゆくのが自分でも分かる。
ルークは立ち上がって身を起こし、照れ臭そうにアレンハワードに礼を述べて口を付ける。
あっという間に目の前にあった器に盛られた焼き菓子はルークの胃に収まり、その頃には身を屈めてこちらを見守ってくれていたアレンハワードに向かって何処か興奮した様子で感想を述べる。
『姫天才!スッゴク美味シイ!』
「はは、ルークも気に入ったんだ」
『毎日食ベタイ!!』
「伝えておくよ」
と、そんな風に昼下がりの裏庭に、少しだけ優しい時間が流れる。
ルークもこの差し入れによって大幅に気分を持ち直したのか、そこで先程ふと気付いたというか気になった事を、纏まらないながらも思い付くままつらつらと話し始めた。
* * * * *
ルークから聞き取った話をアレンハワードは図書室の地階工房で箇条書きに纏めた後、レオナルドとカーター、そしてメイヴィスを呼び出して、ルークに聞かされた気付きについて報告した上で同時に相談をする。
時間は幼いルーナエレンを寝かし付けた、宵二刻(午後十九時半)よりやや早いくらい。
中央の作業台にはマルティエでは見られない、幾つかの果物や食材がトレー載せられて置かれている。
「これはこの屋敷のエレンのクローゼット収納が出来る前、経由した国で採集した食材の一部なんだ」
そう前置を述べた後、アレンハワードはルークの話からルディの意識はもう覚醒一歩手前と言える程に近付いていて、きっかけとなり得るのがこの空間やサリヴァン親娘と関わらない食材や材料による料理が有効だと感じたと、ルークに言われたと語った。
恐らくこの空間やレオナルドを始めとする異常な程の純度と濃度の高い魔素に馴染み切れず、反発が起きてそれを落ち着かせる為に余計に目醒められない可能性が高いらしい。
よって、味覚と視覚双方に訴えかけて幼い少年の記憶と感情に感動で波紋を起こし、更には過剰摂取していた可能性が憂慮される高濃度高純度の源から少し離してやれば、存外すぐに目醒めるのではないか。
その為には一旦この空間魔法から外界に出て、濃縮状態の体内魔素を整えたり感情面での上下に対応出来得る人材を選出し、その上でその後の様子見を一日程度取って帰宅させる必要がある。
後日に何かあった時の為にも、モルガンやマルティエに属さずまたアレンハワード達とも明確な契約関係が無い強過ぎない精霊なり妖精が目付として様子を見て欲しいところだ。
属性としては森が多い土地柄、火の属性は少々大惨事が予想出来てしまうので、水寄りの氷が好ましいと意見が集まったのだが、氷といえばアレンハワードとなってしまう。
実際この温暖な土地にちらほらと氷の小さな精霊は生まれてしまっているし、契約自体は結んでいない状態だ。
この屋敷の近くの川の上流にも、自然と氷の幼い妖精が既に生息しており、どの個体もアレンハワードやルーナエレンに協力的な様子を見せている。
その中でマルティエの魔の森に存在しても違和感がなく、また狼気質なモルガンにも引けを取らずサリヴァン親娘を彷彿とさせないとなると、次第に選択肢は限られていく。
「じゃあさ、外界に小僧を連れてくのはカーターとメイヴィスとこにたんで。カーターならすぐこっちに戻って来れるだろうし、モルガンとの話し合いや送り届ける際にも揉めないだろうし」
「そうだね、ルークはどの段階で彼から離れるんだい?」
「んー、こっから出る時でいいんじゃね?メルヴィンの本体の中とかで実験して、本体側にある滝の裏にでも洞窟掘って氷狐のちっこいの数匹放し飼いしてさ。地中の水脈辿って警備も監視も行けるだろうし、メルヴィンにもお仕置きが必要なら立地も能力も相性バッチリ!」
ニコニコと眩しい笑顔で語られる内容は、完全にモルガンの全ての頭をガッチリと上から掴んで抑える気満々で。
アレンハワードは無意識に顳顬に長い指を揃えて当て、何処か痛みを堪える様に押しながら仕方ないとばかりに頷いて見せる。
「あ、因みにあの氷狐の妖精な?子育てママンなんだわ。今ちょっと本人に確認取ったらさ、このままここに居たいのも山々だけど、強くなり過ぎちゃうから引っ越しは有難いってよ。これ、小僧が起きたらそのまま弟子入りでもさせたら、面白そうだろ?」
「‥‥本人がそれで良いと言っているのなら、良いんじゃ無いかな」
「オッケ!じゃあこにたん出す必要無くなったな!」
結局、翌朝ルーナエレンが起き出す前に、ルディはルークの庇護下から離され、カーターとメイヴィスと狐のママンと小狐ちゃん三匹を共に、空間魔法から外界へと出立した。
尚、その一行の最後尾を行く若草色のツインテールの少女の肩は、小刻みに震えていたらしい。
お読み頂き、有難うございます٩( 'ω' )و
結局ルーナエレン至上主義なパパずによって、ルディ君は一旦放逐です。
態々メルヴィンとメイヴィスの属性に相性の良い氷の妖精で、若干の乗っ取りをこっそりやらかす過保護なレオナルドさん。
尚、氷のお狐様にまたもやモルガンの直系男子は、性癖を歪められるんだろうなぁとか思ってます(ボソ
ここまでで一章完結とさせて頂きます。
まだ出しただけで活躍出来なかったキャラがいるので、頑張って二章も執筆していく所存です。
ただ、本当に遅筆なので少々この後の更新が不定期になる事を、ここでお詫びさせて頂きます_:(´ཀ`」 ∠):
それにしても、一章だけでダラダラ長くてごめんなさいぃぃぃ!!!




