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呪われ魔導師と秘密の至宝  作者: 七縁ささみ
一章
90/150

90、密談(報連相)其の3

前半のみ、雛視点です。



 

 薬品焼けと凍傷、そして澱みと浄化という相対する魔力に晒された結果、焼け爛れた様な痛みが口内から喉から胃や腸まで、全身の内側という内側に広がっており、ボクは自らの呼吸ですら身を焼く痛みとして認識していた。


 それでも、地中深く頑丈な殻の揺り籠で曖昧な自分の存在を、薄ぼんやりとした意識のまま揺蕩っていた時間の余りの長さに、膿んでいた精神状態を思えば。

 今ボクの感じている痛みは、ボクという存在を現実にしっかりと感じさせてくれるものでもあるのだ。


 そしてそれらをボクに与えてくれた、甘い香りと魔力を纏ったボクの大切な大切な女の子の姿を実際に目の前にして見て、それらの痛みは外の世界と彼女の存在を証明する一つの指標に過ぎないのだと感じた。


 それ程までの存在である可愛らしい彼女の表情が、苦しげに辛そうに、微かに歪む。そんな表情ですら、気が遠くなる程に尊く心底愛おしい。


「いたい?ごめんね、エレン、ひどいコトしちゃって‥‥」


 沈んだ声色が、少し震える言葉が、ボクの現状を慮ってくれているのが痛い程に伝わってくる。


 ああ、どうか、そんな悲しそうな顔をしないで。

 君が、謝る事なんて、本当に何一つ無いんだ。


 それなのに、彼女はボクの痛みを自分の痛みの様に感じる事が出来るのか、酷く辛そうに綺麗な薄紫色の大きな瞳を潤ませて、ボクの眼を真っ直ぐに覗き込んで来る。


 彼女を悲しませるだなんて、有ってはならない事なのに。

 そんな事態はボクにとっても、とても辛い事なのにも関わらず、その時ボクの心にはそれらとは正反対の、酷く仄暗い喜びまでもが湧き上がる。


 少しでも君を感じたくて、可愛らしい声を聞きたくて、温かな体温を感じたくて。


 同情だとしてもボクに寄り添ってくれる君が、すぐ側で膝を着いてくれるのならばと、懸命に痛みに縛られた不自由な身体を引き摺る様にして、彼女の足元へと身を寄せる。


 すると彼女は、ボクの為にと言ってその可愛らしい手で、用意してくれた薬で丁寧に更なる癒しや祝福をくれた。


 とても綺麗な魔力が目の前で薬と共に練り上げられ、何処か記憶を刺激する気がする甘い香りのする、冷んやりとした蕩ける様な『砂糖菓子』という食べ物になる。


 魔術による胃を洗浄する水でも無く、この世界に産まれて初めて口に出来る糧。


 本当は、身体の内部が焼き切れるんじゃ無いかと思う程の痛みに、現在進行形で苛まれている。

 そんな状態で、彼女から与えられるこの冷んやりとした砂糖菓子を口にする事が、更に自身の身を苛むとしても。


 ボクは、ある意味本望だったんだ。


 だから、かなりの無理を押して可愛らしい手のひらに載せられたそれを、口に含んだのだけれど。


 誇張でも何でも無くこの瞬間の為にボクは存在しているのだと、ボクの魂の全てがどうしようもなく騒ぎ立て。


 溶けて解けて、ボクの内側からあらゆる癒しと活力と希望を、身に染み付いていたあらゆる呪いや不浄や負の想いを、全部混ぜて纏めて何処かへとどんどん還してしまう。


 そんな中で、可愛らしい彼女の声が、ボクの再生を寿ぐ様に、歌う様に、ボクの心の奥深くまで届いたんだ。


「‥‥いたいのいたいの、このままとけちゃいますように〜」


 『痛い』ものは溶けて、彼女の近くにはそれらを齎す存在は要らない。


 この時のボクは、大切な君を護る為の自身の武器に関して、すっかりと忘れてしまっていたのだった。








 * * * * *





 甘くて冷たく、さらりと解けて行った砂糖菓子の様な薬と浄化と癒しによって、外界へ出てすぐからの自業自得な痛みが、信じられない位に鎮まった。


 殆ど動かず眠っていた状態だったけれども、どうしても身体の強張りや痛みに耐える内に心身共に消耗していたのだろう。


 ルーナエレンに触れたままあっという間に深い眠りに落ちてしまった雛は、すっかりまろくなってしまった自身のふわふわの首根っこを何者かに雑に掴まれた感覚に驚いた。


 古龍の雛に対してこんな行動を取る事が出来るのは、義父か眷属のふわふわ魔導人形しか思い当たらない。


 そう考えて少し周囲に視線を巡らせて探ってみると、案の定、前回の密談の際と同じく『隔離』されていた。


「いやいや、隔離っていうか別チャンネル?幾つか層を介して、時間の影響を停めてる訳」

『ちちうえ‥‥?』

「おう、お前が溶けたりするから、こっちは大慌てで調整だのの諸々を仰せつかったんでなぁ」


 彼に命令にも等しい指示が出せる相手?と考えて、雛は神妙にこくりと頷く。

 それでも義父(レオナルド)の『溶けた』という単語に理解が追い付かず、控えめに首を傾げたのだが、目の前の美丈夫は優美な眉根を寄せると無言のまま、自らの足元へと空いている左手で指し示す。


 下を見ろと示されたのだと頭を垂れると、元の次元であろう場所の暖炉前、クッションの群れの中に埋まるふわふわのやや大きめな丸っぽいフォルムのクッションが在った。


「言っとくが、あれはクッションじゃなくて、お前だ」

『‥‥‥‥‥え??あれ??』


 たっぷりの間を置いてからの、今一状況を飲み込めていない呟きを聞いて、レオナルドもハァァっと溜息を吐かざるを得ない。

 さっきまで対面していたルーナエレンは雛が溶ける衝撃の現場の一部始終を見ていた筈なのに、その実雛の機微や心情の揺れを必死に観察していたようで、その辺りが意識になかったようだ。


 アレンハワードもレオナルドもこんな衝撃映像に意識を向けなかった彼女に正直吃驚していたが、こんな部分で抜けている愛娘が同時にひどくサリヴァンの学者肌な特徴を色濃く感じ、微笑ましいとすら思っていたのだ。


 だが、強大な始祖の姿でしかも今後ルーナエレンと縁が深くなると予想に難くない存在の行く末が、溶けたというのはかなり緊急事態でもある為、レオナルドが自主的に時間に迄干渉した形で隔離というか対話と対処をする場所を設けたという事である。


「飲み込めなくても今は飲み込め。アレはお前だ。それでだ、エレンのあの薬を口にして、お前は何を想った?」


 レオナルドの力ある言葉で思考を方向付けられ、夢の様な解けたあの砂糖菓子の様な薬を口にした時の自分が何を想っていたのかを記憶を辿る。

 とは言え僅かしか時間は経っていないので、すぐに思い当たる。


『ボクは‥‥『いたい』ものはとけて、かのじょのちかくには、それらをもたらすそんざいは、いらない。と』

「‥‥‥つまり、お前自体も含まれたのか」

『そう‥‥かも、しれません』

「まじかぁ、どーすんだよお前。エレンの側に毛玉として居るつもりなのか?コニたんと被っちまうだろソレ」


 コニーを引き合いに出されてちょっと落ち込んでいる様子の雛に、レオナルドは時間を停止させた状態の密談を選択した自分を内心で褒め称える。


 自分の最上位の眷属とした始祖であり過保護の加護も持っているのだから、ある程度なら望む姿は取れる筈。


 コニーは明確なイメージを以ってルーナエレンが創造した上で、命名によりしっかりとした固定と絆が出来ている。それを前例とするなら、より自由度は上がるのではないかと踏んでいるのだが。


『ボクも、ちちうえみたいに、すがたをじゆうにできるでしょうか』

「本質は古龍だし、持って生まれた魂の姿に関する部分は変化しない。だが、義理とはいえオレの息子だからな。ある程度、というか‥‥複数の姿を持つ事は、可能だと思う。厳密に言えば違うが、人族からは亜人と区分されるお前は、恐らく人の姿も時期がくれば持てるだろうし」

『ひとのすがた‥‥いまの、ちちうえのように?』

「お前は雛だからまだ無性だがな。知能も魔力も精神も問題なさそうだから、そんなに時間はかからないだろう」

『がんばります!』


 途端にやる気に満ちた雛の姿に少し笑ったレオナルドは、先程までのアレンハワードとの遣り取りを思い出して先に雛の意思を確認する事にする。


「さて、聞くまでもない様な気もするが‥‥お前は、エレンが存在理由だと言っていたな?今も、それに変わりは無いと言い切れるか?」

『はい』

「エレンが何者であっても?」

『はい』

「もし、お前が選ばれなかったとしても?」

『はい‥‥もちろん、えらんでもらえたら、うれしいですが』

「ふむ。エレンを護る為なら、お前が全ての前面に立ち、エレンの盾に徹する事が出来るか?」

『はい』


 選ばれ無いなどと欠片も考えていないくせにしおらしく答える様に、レオナルドはその上で盾になれと告げたのだが、それに対する雛の間髪入れずの簡潔な肯定の回答に、知らずレオナルドの端正な口の端が僅かに上がった。






お読み頂き、有難うございます٩( 'ω' )و


視点変更がなかなか上手く書き分けられず、不甲斐なさに枕を濡らしちゃってます_:(´ཀ`」 ∠):

雛、思った感じに仕上がらない。

今はレオナルドパパと対面中なので、全面的に下手したてな感じです。


覚悟は十分、次はご褒美やフォルムについて引き続き密談予定(о´∀`о)


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