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呪われ魔導師と秘密の至宝  作者: 七縁ささみ
一章
9/150

9、情報収集と氷の魔王

 メルヴィンから語られた内容に、悠久の時を生きる超越者であるレオナですら一瞬目を瞬かせる。

 一番最初に強力な始祖の流れを創る筈であった存在が、原始の時より未だ世に生まれ出ていなかったとは流石に思わなかったのである。しかも、レオナルドが調停者として幾度もこの世界を滅ぼして来たにも関わらず、龍脈に近い地下深くで息付いていて今もまだ其処に居るというのだから。


「それはまた‥‥えらく呑気というか豪気というか。この流れ的には、地龍の眷属といった処か?」

『姉に地下の事は任せているから、私もはっきりとは‥‥でも、恐らく』

「だが、今更そんなの出て来てどうするんだ。仮にも帝国って国が始祖抜きに成り立ってるからには、帝位を始祖って理由だけで(あがな)う訳にもいかないし。かといって、龍の背骨や寝所の恩恵を受けている事実もある訳だから、放置も無理だろうし。帝位の正統性や能力を主張して争うにしても、本物の眷属とは力の違いが有り過ぎだろ‥‥」

『‥‥‥』

「それにだ、無事に帝国で認知されたとしても、ここまで現存の魔力持ちの種族との力が隔絶してれば、後継者で必ず問題が起こるだろ。始祖そのものと、今の地上の種族でまともに子孫が成せる相手なぞ、そうそう居ない」


 末神の裔や聖霊たちと地上の種族が交わって生まれた始祖も、能力の高い方の種族が遺伝する傾向があり、またそれを育む母体は能力の継承に大きく関わる為、少なくとも同等よりほんの下位の力量がある種族から上位の種族でなければ、正しく力ある種族として繁栄出来なかった。

 それ以外であった場合、例えば男女が逆であった場合などは、何処かしら遺伝的に歪みが生まれてしまうのだ。

 鷹の翼の裔がその最たる例であるとは、神々及びレオナルドのような存在しか知らないだろう。


 メルヴィンとしては先細っていく世界の魔力では、姉が長年懸命に守って来た御子を外界に出られる迄成長させられない為、ルーナエレンの『特異性』を本能的に感じて期待していた訳だが、レオナの示唆した具体的な少し先の話は、無視出来ない内容だった。


「というか、孵化してないんじゃないか?そこまで魔力が必要とも思えないし、下手したらソイツの所為でここいらの含有魔力全部消費してそうだし。おい、お前の片割れは何年、その『御子』とやらにくっつんてんだ?」

『‥‥え‥、えっと、山の裔神が全て神の世界に御渡りになって、現帝国が樹立する以前の淘汰の頃からだから‥‥‥』


 まだ、レオナの話について行けていないものの、質問された内容を懸命に思い出しつつ応える。

 回答に上がった時代に思い当たったのか、レオナは少し視線を上げると感心した様な声音になった。


「へぇ、お前意外と強い古の妖精なんだな。同等の眷属なんて、現存しているのはなかなか居なさそうなのに。ざっと二千年は超えてるなら、お前の片割れは、採用してやっても良い」

『ねぇ、何で私は全否定?!』

「牡だから」


 彼の『銀』の彩に惹かれるのは、魔力を魂に多く持つ古の存在であればどうしようもない本能なのだ。同等の存在の姉は逢ってすらいないのに、その幸運に恵まれるなんて。

 あまりの悔しさに唇を噛み、若干の涙目で(こら)えながらメルヴィンは即答否定という視えない拳に耐える。


「牡で納得いかないなら教えてやる。お前が領主の契約妖精だからだ。眷属が統治していない国の一領地の領主なんて小さな存在が、オレの『執着』を横取りしようとしたり害意を持つのが面倒だからだ。お前もそれなりに長生きしてんなら、鷹の翼の裔は解るだろう。オレが共に旅をしているのは、その親子であり先祖返りで二人とも純度の高い『銀』の彩を持っている。お前のいうところの夜の雫の姫は、本物の『銀の雫』だ」


 未だ原始の始祖の孵化がどうだと言っていた自分ですら十分常軌を逸している自覚があるが、目の前の黒い獣の口から出た本物の『銀の雫』という響きは、メルヴィンの思考の処理能力を大きく超えてしまっていた。

 暫く深緑の瞳を見開き、喉の奥も凍り付いたかのように声も出ない。身体も精神も時間すらも、完全に固まってしまって動く概念すら忘れてしまった。

 それ以上の話し合いは無理だと判断したレオナは、ようやく樹の幹に突き立てていた鋭い爪を引きゆっくりと立ち上がると地に降り立った。復活していないメルヴィンの内情などお構いなしで、立ち去り際に念の為の確認を口にする。


「ここからはオレ一人じゃ決められないからな。アレンと擦り合わせをしないとならないから、また後で話す事にする。あ、後お前領主に要らない事吹き込んでないだろうな?」

『‥‥‥へ?』

「だから、魔力豊富な親子が居るとか、お前が言ってた別れ話とか」

『あ‥‥‥‥』

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ほぅ?」


 晩秋の昼の高い晴れ渡った青空に、その地を長く護ってきた古の妖精の断末魔(?)の渇いた悲鳴が木霊したが、幸か不幸かその声を聴く事が出来る者は、この要塞には居なかった。




 * * * * *



 ドライアドのオネエさんに厳しいお仕置きをしたレオナは、再びエプロンドレスの少女の姿を取って客室に居た。その額には、不自然な汗がじわりと浮かび、若干の上目遣いで両手を膝に綺麗に揃えて床に正座をしている。

 その視線の先のいるのは、氷の魔王の様な限りなく冷ややかで妖艶な微笑を浮かべ、アイスブルーの瞳から永久凍土よりも底知れない深い深い怒りを滲ませているアレンハワードである。風も無いのに彼の青銀の長い髪が、ゆらりと揺れている。

 出会ってから三年以上常に寝食を共に過ごして来たレオナだが、ここまでの激しく明らかな怒りの感情を見た事がない。

 心根の優しい青年だと、正直ちょっと舐めていたかも知れない。


「情報を垂れ流して来た言い訳は聞かない。結果を出してくれるんだよね?愛しいエレンの為だもの」


 氷の魔王と化したアレンハワードは、美しい立ち姿のままレオナですら圧死しそうな不機嫌オーラで威圧してくる。頼みの綱である彼の愛娘は、未だ空間魔法(おうち)のベッドでもう少しだけ微睡んでいたいようだ。


 何より、客室に戻って来た途端この状況になった。理解が追いつかないレオナは、疑問を口にしたくても怒れる美貌の氷の魔王のブリザードに、有無を言わさぬ正座へと雰囲気で流れ着いた。

 いつの間に、先程迄のドライアドとの会話が伝わったのか。存在を意識してから今まで、一度も誰かに叱責された事など無いだけに、青い瞳は少し可哀想になる程泳いでいた。


「そろそろ時間も無い事だし一気に言うよ。雀鷹の知らせでは、本日の昼食会で領主の使者が同席。昼食会自体は、今から半刻程先。使者自体は普通の人間で魔力はあるが、辺境の騎士団の精鋭といった所だろう。領主は現在エレンに見合うような年齢の子息を二人連れて、魔馬仕立ての足の速い馬車でここに向かって来ている。見たところ狼の聖獣か何かの眷属の末裔だね。帝国内の彼の影響力発言力は、この周辺の風の小精霊の話では意外とありそうで、帝都にも優秀な騎士を輩出しているそうだよ。ただし、この流れで解るだろうけど、影響力発言力は『武』寄りである為、文官や執政に関しては別の駒を用意しないといけなくなるだろうな」


 アレンハワードの調べ上げた情報を正座で背筋を伸ばし聞いていたレオナだが、元来存在自体が話し合いで解決よりも破壊で解決が信条なのだ。脳筋では無いが、そういう定められた役割を担っているので、何処かでスイッチが入ってしまっても後味が悪い思いをするのは恐らくアレンハワード一人である。


 そこまで思い至ってしまったアレンハワードは、軽く嘆息してから付け加えた。


「君が最後にドライアドにお仕置きしたようだから、これ以上『鷹の翼の裔』だとか『銀の雫』の話は彼からは拡がらないだろう。でも、他の精霊や妖精で影響力のある者は君が目を光らせて監視して欲しい。正統な始祖については、まだ世に出ていないし状態が解らない。現段階でどうにか出来る話ではないので、先延ばし且つこの帝国の問題なので当人達に丸投げにする。使者への対応はエレンを隠して基本私は話を合わせるだけ、手合わせや実力を測るような意図を察した場合は、豹聖獣(セイクリットパンサー)とでも名乗って、その姿で耳と尻尾出して暴れて良いよ。その後はどうせ領主が来るまで足止めだろうから、ドライアドに責任、じゃなくて共に会議と摺り合わせってところかな」


 そこまで話してやれやれと腰に手を当てたアレンハワードの表情は、いつの間にか普段の穏やかなものになっていた。

 面倒な事態には変わりないが、今は護るべきルーナエレンが居て。

 共にルーナエレンを大事にしてくれるレオナルドが居る。

 五年前に一人きりで逃げ出した時の自分とは比較も出来ない程、出来る事は確実に増えているのだ。

 ルーナエレンの笑顔を護る為、二人の保護者は同じ想いを胸に抱き、視線を合わせると頷き合った。



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