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呪われ魔導師と秘密の至宝  作者: 七縁ささみ
一章
89/150

89、雛、溶ける

本日、少し短めです( ´ ▽ ` )

 

 一粒だけと固く約束を交わしてからすぐ、ルーナエレンは自分の小さな掌の上でとろりとした薬液と極小の花の結晶の塊を、浄化と治癒を意識しながら何とか楕円に近い球体にまとめ、同時にアレンハワードの魔術でその球体を凍らせて貰う。


 ベースの薬液の効能を壊さないよう凍る速度を調整するアレンハワードの魔術に合わせ、凍らせる方の薬液の球体を内部でせっせと攪拌した。


 親娘の息の合った魔術の行使により、かなり滑らかな口溶けが叶ったと思われる。


 暖炉の前のクッション群の真ん中で、身を横たえたままその様子を上目遣いで静かに見ていた雛が、側で座って作業をしていたルーナエレンの膝へと身を寄せて、少しだけ顎を上げるようにしてちょこんと顔を乗せる。


 小さな掌の上で体温で溶けてしまわないよう、ルーナエレンは自分の魔力で包んだ一粒の薬を、そっと雛の口元へ差し出す。

 目の前の薬の匂いに若干の怯えを滲ませた雛だったが、その反応に少し眉尻を下げ動きをじっと待つルーナエレンの様子に、意思を固めた様だった。


 そっと口を小さく開いて、紅葉の様な小さく可愛い掌の上からゆるゆるとした動きで薬を含み、一瞬だけぴくりと身体を震わせてルーナエレンの膝から顔を下ろし、再びクッション群へと埋もれて花緑青の目を閉じる。


「‥‥いたいのいたいの、このままとけちゃいますように〜」


 雛の産毛に覆われたまろい鼻先を優しく撫でて小さく呟くルーナエレンの声に、保護者二人は目を見張る。


「おいアレン、溶けてる様に視えるんだが?オレだけ?」

「‥‥えぇぇ??ちょっと、こんな症例ある?え?レオナルド?」

「いやいやいや、こいつ自体が始祖だから症例も何も」

「は?‥‥‥‥‥君は親として、後できちんと聞き取りをすべきだと、私は思う」

「あ〜‥‥‥‥‥うん、了解」


 ルーナエレンの労りの言葉に乗った魔力と蕾の結晶が由来なのだと、アレンハワードもレオナルドも漠然と判断しているが、内部のあらゆる粘膜の炎症の鎮静だけでは無く、二人の目には微弱に残っていた『黒』の呪いがサラサラと溶け出しているのが視えたのと同時に、雛自身の鋭い爪や産毛に覆われていないであろう手足の爪や硬そうな顎ライン等、明らかに元のフォルムと違った全体的によりまろい『獣』寄りな姿へと目の前で変化して行っているのが視えていた。


 しかも本質自体が変化していないからなのか、心配の彩を大きな紫水晶の瞳に浮かべる愛娘は、雛の痛みの感情の様子を懸命に診ていて、身体的な変化には一切意識に上っていないらしい。


「もしかして、エレンの『痛いの痛いの〜』ってのが、ポイントなの、か?」

「まぁ、愛娘(エレン)のすぐ側にあれだけの凶器を常設させるのは、私も心配ではあったけれど」

「‥‥‥お前、割と今動転してるだろ?」

「そういうレオナルドだって」

「いやぁ、過保護の集大成ってすげーな?」


 実際にはレオナルドの与えた眷属としての加護と、『彼女』の父娘に対する深い愛と言う名の過保護と、進化したメイヴィスから搾取した蕾の結晶とが重ね掛けどころか相乗効果の倍々ゲームで、更に当人の意志もあった故の変化と思われる。


 ぬいぐるみポシェットが魔導人形になってこの場に存在しているのも十分に非現実的な奇跡なのにも関わらず、更なる規格外が目の前で起こっている為、流石のレオナルドも若干引き攣った様な笑みしか浮かばないようだ。


「もうすっかり大きめの毛玉としか言い様が無い姿になってるんだがうちの息子」

「‥‥‥‥‥」

「こうやって見ると、こにたんの毛並みと良く似た産毛だよなぁ?」

「‥‥摂取したから?」

「あ、それだ」


 何処か投げやりで論点もおかしな事になっているが、幸いな事にルーナエレンに聞こえない程度の内緒話の距離感だったらしい。


 溶け出た呪いもすっかり無くなり傷もある程度癒えたのか、ぷうぷうと寝息を立てる雛を見守るルーナエレンの眼差しには、やっと安堵が浮かんでいた。







 * * * * *





 雛の内側が癒えた事により、ようやくしっかり眠った様子が見て取れた為、コニーと暖炉の小精霊にその場を再び任せて表向きには日常に其々が戻った。


 だが、屋敷の二階の暖炉前から解散になり愛娘を一旦メイヴィスに任せたものの、頭痛を堪える様な苦い表情での無言の圧力をアレンハワードから感じたレオナルドは、その圧の余りの冷え具合に頬を引き攣らせてこくこくと頷く他無かった。


「‥‥もう私自身も世の中の常識なんて忘れて久しい環境に置かれているけれど、お願いだからエレンの今後の人生が脅かされたりするような事態は、受け入れ難いからね?責任ある対応や処置を、くれぐれも、本当にくれぐれもお願いするからね?親になったレオナルドの立派な姿を、切に願うよ?」

「う、いくらオレでも初めての事態だし‥‥。古龍の雛が龍種の初代始祖なんだから、そこから何とか纏める様には頑張るけど‥‥‥」


 困った様に頬を掻きながら意外な程に真面に応えたレオナルドの言葉が、アレンハワードの琴線に触れるのは仕方の無い事で、狙った訳では無いが話を聞く体制になった相棒にレオナルドは僅かに笑ってしまう。


「言ってみればこの雛は、物質的(マテリアル)な親の要素は永い眠りで消費し切っていた状態だった。そこへ澱んだ魔力や呪いが溜まってじっくり馴染んだ処で、灼かれてドライアドだのオレやアレンとエレンの魔力、それに対する過保護も含めた加護まで詰め込まれた訳だろ?」

「‥‥ふむ」

「属性だけで言っても、最初から持っていると思われる土と水。そこから火から風から浄化や癒しも混ざってる。その属性を今後雛が扱えるかどうかはまだ未知だが、オレと過保護な加護が関わっている以上、無いとは言い切れない。こにたんだって、何気に全部網羅してる」

「‥‥‥はぁ」


 今の溜め息は恐らく世界共通の認識と言っていい魔導師の定義を、我が家の魔導人形が既に超えてしまっている上に、至極身近な存在であると再認識してしまっているからだろう。


「エレンの場合は魔素を魔力に変換するとか意識してないし、勝手に精霊なり妖精なりが手助けして来るだろ?だから、同じ体質だって風に誤魔化すのは一応出来るんじゃ無いかと考えてるわけだが」

「成程、あくまでも『人』としてのエレンなら厳しくても、『龍族』の始祖であればそれが押し通せる訳か」

「取り敢えず、その路線でどうよ」

「‥‥‥雛を表に出して、エレンの盾にして良い、と?」

「ご褒美は必要だろうが、エレンの為になる事であれば、当人も否はないと思うぞ?」

「‥‥‥‥」


 返事がないのは『ご褒美』について考えを巡らせているのだろうと推測出来るが、こればかりは雛に確認する必要があるとも思っているのだろう。


「まぁ、ちょっと本人と話し合い、だな。行ってくるわ〜」

「‥‥ああ、宜しく頼むよ」


 軽い口調で再び暖炉の前の雛へと向かうレオナルドの背中を見送ってから、アレンハワードは階段を降りて行く。


 雛の事はある程度レオナルドに任せても今の所大丈夫な筈なので、現在残っている懸念を洗い直すべくカーターと共に再び資料を探そうと考える。


 アレンハワードは厨房に顔を出してカーターを呼ぶと、認識阻害の魔道具の改良について模索している内情を話すべく工房へと足を向けた。


 カーター自身も彼にとって新しい魔道具の話であり、改良や別素材による配合の研究は大好物。


 嬉々としてアレンハワードと共に、膨大な資料の中からマルティエ内特有種の素材やその効果など、アレンハワードの知識にも無い様な希少な現地ならではの話を、沢山披露してくれたのだった。





 

 お読み頂き、有難うございます٩( 'ω' )و


溶けた、だと?!

ちょっと自分で書いてて意味わからんかったです_:(´ཀ`」 ∠):


次はレオナルド義親子の内緒話という名の密談というか談合というか取引というか(ゴニョゴニョ


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