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呪われ魔導師と秘密の至宝  作者: 七縁ささみ
一章
86/150

86、新しい朝の予感

 

 この空間魔法(おうち)の不思議仕様は、レオナルドとアレンハワードの過保護という名の元に、ルーナエレンの教育の為もあって気温の上下の厳しさは緩和されているものの、季節による日の出日の入りや日照の具合に至るまで、滞在してると想定している現地と近しい環境になるよう設定されている。


 もう冬も目の前となった日の早朝、未だ明け始めた薄闇色の空が薄いレースのカーテン越しに見える中、ルーナエレンは起き抜けのお目目を擦りながら、自室のベッドで小さなその身をゆっくりと起こす。


 昨日はルーナエレン史上一番夜更かしをした日であり、側に侍るようになったメイヴィスと一緒に、雛に飲ませる為の粘膜の治癒を目的とした、赤子の胃にも優しい液薬を無事に開発する事が出来た。


 念の為、アレンハワードとレオナルドにもその薬液を確認して貰い、そうして許可が降りた薬は匂いも苦味も抑えられていたので、雛が温めたヤギのミルクを受け付けられるのであればまずはそこに薬を混ぜ、その後の様子次第で薄めたミルク粥を食べられるかなど、今日の朝食時を皮切りに少しずつ段階を踏んで与える予定となっている。


 調薬作業中にレオナルドがこっそりと、抗炎症作用を期待する原料としてケッシュの実を作業台の上の素材群に紛れ込ませて置いていたので、結果的に仄かに爽やかな香りが混じっていたりする。


 メイヴィスは雛のお口に爆弾投下事件の事情は知らないし、アレンハワードはまさかそんな嫌がらせに近い素材選びはしないと信じていたので(信じたかったので)、指摘はしていない。

 カーターはこの辺りのパワーバランスや人物像を早くもしっかりと把握しているのか、これまた口を貝にしているのが現状である。


 だがそんな大人気ない悪戯が仕込まれていた等思いも寄らないルーナエレンは、手早くベッドから降りると自分のサイズに合うように設えらえた可愛らしい鏡台とその横に置かれた揃いの小さめのキャビネットに向かう。

 その上に置かれた小さな水色のボウルの縁を、小さな指先でちょんちょんと突く。


 明確な音声ではないが小さく嬉しげな思念がそれに応え、水色の小指の先程の小魚がヒラヒラとやや長い尾鰭を揺らして顕れると、ボウルの真上で両手を受け皿のように差し出したルーナエレンの手の上に、薄い厚みの水のタオルを作り出す。


「おはよ、ありがとう〜」


 小魚に向かって毎朝の挨拶とお礼を伝えてから、ぱちゃぱちゃと顔を洗い終える頃になると、最近ではコニーがやって来てふんわりとしたタオルで拭いてくれるのだが、今日からメイヴィスが担当してくれる。


『姫ぇ、お早うございま〜す!お早いお目覚めですねぇ』

「おはよう〜おねえさん」

『グフっ!か、かわ‥‥!名前、名前を呼んで欲しいですぅ』


 テキパキとタオルを回収し着替えを用意し身支度を手伝いながら、メイヴィスはやや起き抜けの雰囲気を滲ませた可愛らしい女の子を、だらしない表情のまま見ている。

 後半の欲望を聞いたルーナエレンは、ほんの少しだけ可愛らしく小首を傾げて何処か困ったような表情になる。


「でも、おなまえはだいじって、レオナもとうさまもいつもいうから。ごめんね?」

『はぅっ!なんて万全のガード!!わたくしめげない!』


 昨夜の調薬作業前に、レオナルドからメイヴィスに対する取扱説明が若干入っており、同席していたアレンハワードも特に異を唱えていなかった。

 実質ガッチガチにレオナルドとサリヴァン親娘に従属を望んだメイヴィスなので、ルーナエレンの気持ち次第で『名前』を上書きする予定ではあるのだが、本来の主であるべき『御子』こと雛がまだしっかりとした自我を発揮出来ていない為の措置でもあったりする。


 因みに出逢いの時に一度、名前を呼ぶように請われたものの、『メイヴィスおねえさん』が一息で紡がれていた事が幸いした、というレオナルドの強引な解釈によってギリギリルーナエレン個人との契約は不成立と見做された。


 その際にカーターさんが遠い目をして「カイゴロシ」と呟いていたが、その意味については分からなかったし父親(アレンハワード)もその横で複雑そうな表情をしていたので、賢い三歳児は聞かなかった事にしてある。


『良くお似合いですぅ!歌いたくなる程に!!』

「ええ?それ、どんなおうた?」

『あ!早朝から失礼しました!リストに残して、後でご披露致しますねぇ!』

「‥‥いいの?」

『勿論ですとも!』


 雰囲気はまだ少しルーナエレン側に遠慮があるものの、やはり同性で見た目が大人よりはまだ少女然としているメイヴィスの事は、ややぐいぐい来るけれど苦手では無かった様で、一夜明けた今も特に遣り取りに違和感は見られない。


 二人は連れ立って廊下に出ると、プスプスと寝息を立てている雛と仔狼の様子をチラリと見てから、そっと厨房へと足を向けた。







 * * * * *






 魔道具がふんだんにあるサリヴァン邸の厨房には、下処理を済ませた食材も多く取り置かれている。


 それでも食材の組み合わせや調味料、調理方法は作り手によるのだが、ルーナエレンが厨房でお手伝いを率先してやる様になってから、更に調理器具や保管庫や器など、この半年くらいでグッと種類が増えていた。


 ルーナエレンが厨房に入ると、竈門に居た小さな火の精霊が燻っていた状態から一気に勢いよく燃え始め、はしゃいだ様な雰囲気が暖められた空気と広がって来て、思わず笑顔になってしまう。


「おはよう〜。きょうも、よろしくね」


 相手の存在を明確に感じ取れるからこその、挨拶と感謝を当たり前に告げる。

 大きな鍋を調理台の下から取り出して抱え、ルーナエレンのサイズに合わせた低めのテーブルに乗せ、踏み台に乗せて貰って下処理された野菜を多めに入れていく。


 今日から雛にお薬や食事を試す予定を聞いているので、スープはミルクベースの少し甘味があって煮溶けてしまう様な野菜のスープはどうだろうと考えたのだ。

 スープが大丈夫であれば、スクランブルエッグだとかプレーンオムレツ、ほろほろに蒸して仕上げた鶏肉もどうだろう。


 何時もレオナルドやアレンハワード、そしてコニーもカーターも当たり前の様に美味しい食事やお菓子を用意してくれる。

 ルーナエレン自身はまだまだ料理の種類や口にした食材の知識は少ないものの、自分の魂に蓄積された記憶や情報とアレンハワードの過保護魔道具達のお陰で、臆せず色んな挑戦が出来るのがとても楽しかった。


 そして次々とメニューに必要な素材をメイヴィスに頼み、スープが粗方出来上がる頃、厨房にアレンハワードがやって来た。


「お早うエレン。今日は早いね」

「おはよ!とうさま」


 踏み台に立ち作業台に向かっていたルーナエレンが振り返り、穏やかな父の呼びかけに答える。今日も元気な愛娘の様子を、心底嬉しそうなふわりとした微笑みが美貌の氷の魔王の表情を彩り、こっそりと歌のお姉さんが被弾するもこれが通常運転の親娘は気付かぬまま。


 歩み寄ったアレンハワードが身を屈め、愛娘のまろい額にちゅっとお早うのキスをする。


「へえ、ミルクスープと、これはスクランブルエッグにするのかな?ベーコンステーキは大人用?」

「うん!もしだいじょうぶそうなら、むしたホロホロのとりにくから、どうかな?」

「いいね、無理ない範囲で色々準備してごらん?味付けも、まだしない方が良いかもだね」

「スープには、ちょっとだけおしおいれちゃったの‥‥」

「うん?‥‥これくらいなら、大丈夫じゃないかな?上手に出来ているよエレン」

「やったぁ」


 いちゃいちゃする麗しい親娘の様子に、メイヴィスはそっとその場で両手を胸の前に組んだ状態の彫刻になり、若草色の眼をかっ開いて瞬きもせずに脳内録画モードに徹している。

 そして目の前で次々と他のメニューも決まって、調理にアレンハワードも加わると、すぐに朝食の用意が整った。


「お、もう準備終わってたか。わり」

「お早うございます、アレンハワード様、お嬢様、メイヴィス殿」


 今し方厨房にやって来たらしきレオナルドと、いつの間にそこにいたのか不明でありながらお茶の準備を終えているカーターが、作業がひと段落したのを見計らったように声を掛けて来たので、そのまま食堂へ配膳をして揃って朝食にする。


 そして朝食を終える頃には、この後の雛への投薬の流れを色んなパターンに分けながら、想定して対応する流れが話し合われていた。






お読み頂き、有難うございます٩( 'ω' )و


久々にスルッと書けた回。

ただ単にエレンちゃんとパパのイチャイチャがしたかった。

そして即デレしたメイヴィスさんの二面性。

変な扉を開きつつある様です?_(:3 」∠)_

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