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呪われ魔導師と秘密の至宝  作者: 七縁ささみ
一章
84/150

84、ちびっ子狼への事情聴取

 

 ふぉんふぉんと勢い良く左右に振れている尻尾が惰性で勢いを保ったまま揺れていたのだが、今目の前に居るルーナエレンが、どうにも自分に対して何処か怯えた様子であるのが見て取れて、ルークは酷くショックを受けた。


 自分がこの守護狼の幼体であるルディの身体の制御を失っている間に、一体何をしでかしてしまったのだろうと必死に周囲の様子も探りつつ、一番大事な姫の状態もつぶさに確認をする。


 制御を失う直前は確か、雛と寄り添うように暖炉前のクッションの群の中で仲良く埋まって眠っていた筈なのに、今の自分は立ち上がって尻尾で豪快に周囲のクッションを掃き散らし、その直後かどうかは定かではないが寝ている雛とほんの少しだけ距離がある状態。


 そして自分達が眠っている間に夕食や用事を粗方済ませたのだろうと伺える、部屋用の楽なワンピース姿で目の前に立つルーナエレンは、潤んだ大きな紫水晶の瞳でルークを不安そうに上目遣いで見上げている。


 非常にけしからん級に可愛らしい姫の様子なのだが、その潤んだ瞳の中に若干の恐れが見て取れる上、胸の前で可愛らしい両の掌をギュッと握り締めて身体を強張らせているではないか。


 寝たままの雛と、一方では立ち上がって興奮した状態の自分。


 幾ら自分の意識が無かったとしても、この身体が大切な姫を怯えさせたというのはすぐに分かってしまう。


 そう結論が導き出された結果、ルークはしおしおと身を伏せ耳をしょげさせ情けなさげにピスピスと鼻を鳴らして伏せの体勢を取り、鼻先を両前脚で押さえ目まで伏せてしまった。


『姫ェ‥‥』


 今にも泣きそうな、それも先程とは声の響きが違っており、しかも幼い女の子を姫と呼ばう事からその個人を的確に判じたルーナエレンは、纏わせた緊張を解いてトトトっと駆け寄ってくる。


 自分の怯えた様子を理解したルークが、目に見えて落ち込んだのが申し訳なく思ったのだろう。ルーナエレンがすぐ側に膝をついてよしよしと小さな手で頭を撫でていると、階段を上がって来たレオナルドとコニーが顔を覗かせた。


「エ〜レン!」


 しょげているルークをせっせと慰めていたルーナエレンに嬉々として近付いて行ったレオナルドは、ひょいと幼い女の子の小さな身体を抱き上げると、声を弾ませながらくるりと回ってから身を伏せ縮こまっている仔狼を悠然と見下ろし、戯けた口調で言葉をかける。


「はーい事情聴取にご案内〜。ルークとっととついて来〜い」

「あ、えと」

「コニー!カーターとここ頼むわ」


 楽しげに連行を告げながらも軽い足取りで階段へと向かうレオナルドは、抱き上げたルーナエレンの戸惑いを含んだ声を敢えて聞き流し、再びこの場に残す雛への配慮を告げる。


 すると間を置かず階下から軽く小走りの様な足音が近付き、コニーがしゅたっと片手を上げてレオナルドの依頼に対しての了承を表した。


 そして一階に着いた所で一度は下げていたルーク用の夕食を運ぼうとしていたカーターに行き合ったのだが、彼はレオナルドに連行されて尻尾を垂らしている仔狼の姿を見て、素早く状況を理解したらしい。


 時戻しの術式布をかけたトレーを持ってレオナルドに続いて工房へ入り、休憩用のテーブルへとトレーを置いて静かに一礼し、カーターは退室して行った。


 作業台の方では、調薬談義に花を咲かせていたアレンハワードとメイヴィスも何事かとレオナルド達を見ているが、状況を理解出来ていないメイヴィスはキョトンとしているのとは対照的に、アレンハワードの方は愛娘へと心配そうな気遣わしげな彩をそのアイスブルーの瞳に滲ませている。


「は〜い重大発表!この狼小僧は覚醒後は屋敷に入れず、万が一飼うとしてもお外飼い決定でーす」

「え?何があって、ペット枠に?」

『あれ?でもモルガンの直系ですよね?この仔』


 今まで接してきたルークの人格(?)であれば、ルーナエレンも何の憂いもなく一緒に過ごす事が出来ていたのだが、先程チラッと二階で垣間見た様子は本来の身体の持ち主の挙動なり言動が出たと思われた。


 そのきっかけに関しては謎のままでありながら、その折ルーナエレンの人見知りが発動したのは間違いないだろうと判断して告げた言葉だ。


「恐らく、本体のルディとやらは我らが姫には相応しくない振る舞いをするちびっ子の様だからね」

「え、怖かったのエレン?大丈夫かい?」


 そして父の問いかけに小さくこくりと頷くや否や、あっと言う間にアレンハワードの腕に閉じ込められる。


 正直な所、家族以外の青年期以上の男性や声が大きい人、落ち着きが無かったり話がうまく通じない相手を本能的に怖がってしまうルーナエレンが怯えるなど、この空間に存在するのかと言う疑問をレオナルドに視線のみで投げかける。


 その視線を受けて、レオナルドは足元で項垂れて身体を小さくしている仔狼にチラリと視線を送った。








 * * * * * 






 カーターもコニーも二階に行ってしまったので、必然的に工房でアレンハワードと調薬していたメイヴィスが給仕を買って出た。


 休憩用のテーブルに置かれたルーク用の食事を、トレーから下ろして時戻しの術式布に魔力を流して適温に戻してから、所在なさげに俯く人型の姿を取ったルークの座るソファーの前に配膳し、メルヴィンはそのソファーの後ろへと控える。


 他人事なので特に何も言及しないが、この状況で食事を摂れというのは一種のいじめの様でもあった。


 レオナルドの表情からはそれを敢えて強いている気もするが、サリヴァン親娘はその状況があまり好ましいものでは無かったのだろう。


 ルーナエレンがそっと自分を抱きしめている父の腕をちょんちょんとつつき、少し悲しげな視線を上目遣いで送ると、無言で応える様にアレンハワードが一度だけ頷いた。


 するりと父親の膝から降り、ルークの横にちょこんと座って隣のしょげ返った俯いた顔を覗き込む。


「ルーク、たべよ?」

『ウゥ、姫ェ』

「そうだぞ、早く食べて事情聴取終わらせないと、エレンのおねむタイムに猶予があまりなんだからな」

「レオナルド。あまり圧をかけない」


 アレンハワードの促しもレオナルドの圧も、きっと側でルーナエレンに優しく食事を勧めらる以外は時間の無駄になったに違いない。


 サリヴァン親娘とレオナルドに見られながら食事を摂るルークは、ややぎこちないながらも下品ではない範囲で急ぎ食事を終わらせる。


 その間に両者の話を確認すべく、ルーナエレンがまず先に二階で自分が感じた事を話し始めた。


「‥‥さっきね、ルークじゃなかったの。こえも、すごくおおきくて‥‥ちょっとこわかったし」

「ほぉお」

「ん?エレンが離れた時は、ルークだったんだよね?」

「うん、だけどエレンがうえにもどったときには、おきてて。もうそのときは、ルークじゃなかったから、びっくりして‥‥こわくなって、なまえをよんだの」


 考えながら言葉を探して話すルーナエレンの様子を見守りつつ、食事を終えたルークにアレンハワードは視線を移す。


「ルークの所感も聞きたいな」

「そうだな、暖炉の小精霊は何も言ってなかったからなぁ」


 アレンハワードとレオナルドから話すように水を向けられ、ルークは再びしおしおと項垂れる。


『姫ガ離レタノハ、何トナク覚エテル。デモ俺、イツモヨリ気ガ抜ケテテ、キッカケガ分カラナイ‥‥』


 黙って話を聞いている大人達に先を促され、ルークは何かしらのきっかけで主導権が恐らくルディに渡たり、その際に少しばかり内部に隔離された感覚があったと述べる。


『デモ、俺ノ名前姫ガクレタカラ特別。呼バレレバ戻レルト思ッテ、待ッテタ』

「ふむ‥‥憑依を解除ではなく、内部に隔離とは‥‥」

「へぇ‥‥そろそろ寝坊助が起きる頃なのかもな」


 ルークが語った現象について考えを巡らせ始めたアレンハワードに続いて、レオナルドもルディの覚醒が近付いている可能性について述べるものの、その視線はどこか意味ありげにメイヴィスにチラリと向けられたが、その視線を受けたメイヴィス自身は、ルディについても守護狼に関してもあまり意識していない様子で、ほんの少し首を傾げただけ。

 レオナルドの確認したかった意図については、あまり分かっていないようだ。


 それらを踏まえてレオナルドは、メルヴィンをここに呼び出すよりも後で自分が確認に出向き、ついでに少しばかりストレス発散でもして来ようかな、などと考えていた。





お読み頂き、有難うございます٩( 'ω' )و


メイヴィスお姉さん、こっそり馴染んでしまってる上にオネエな弟よりは空気が読めるタイプのようです。

そろそろお寝坊さんを叩き起こし、雛の名付けや治療も完了させたい今日この頃_(:3 」∠)_


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