83、ルークとルディ
更新が隔週になってしまい、申し訳ありません。・゜・(ノ∀`)・゜・。
前半はルークside、後半はルディsideとなっております。
ルーナエレンとメイヴィスが出来たての東の薬草園にて初対面を果たしていた頃、屋敷の二階の暖炉の前でルーナエレンを介して寄り添って眠っていたルークと雛は、心地良い幼児特有の柔らかさと温もりが抜け出した事によって、自然と互いに身を寄せ合っていた。
そこに留守を任された暖炉に宿った火の小精霊の見守りもあった為か、綿毛の様なふわふわな毛並みの雛とその身体に凭れられている、やや短毛ながらも密度が高くもふもふで子供特有の毛の柔らかさを誇る守護狼の仔姿のルークは、相変わらずすやすやと眠っている。
それは一見とても和やかで穏やかで暖かな光景だったが、人知れずそして意図的ではない偶然が作用した結果と言える。
ルークは地中深くに潜っての諸々から数日間、彼の中で何より大事な存在であるルーナエレンの状態について何も知らされず、只管にルディの身体の管理と要塞砦に残り報告を待っていた領主の対応等、本来やる必要のない苦労をさせられた為に、精神的に疲労が溜まった状態でこの屋敷へ帰還を許され、生まれて初めて感情を大爆発させた。
ルーナエレンの側という安心感とこの屋敷に満ち満ちた神聖で清浄な魔力は、魔素が比較的豊かなこの帝国内でも考えられない程上質で、一度爆発して優しく受け止められ身も心も浄化される様な心地だった。
そして宿っている身体の持ち主であるルディの精神も、憑依してから今までで一番安定したからこそルークの気も緩んだし、何よりもここには警戒すべきものが存在出来ない空間であるというのが、最大の安心感の理由でもあった。
ドライアドの本体である依代の菩提樹の大樹でルディに出会った時には、まだルーナエレンに出逢えて居なかったルークだったが、今は触れ合う程近く感じられる距離に共に居られるのがとんでもなく嬉しい。
そんなルークの心を圧倒的な喜色で染め上げる存在を、同じ身体を共有し微睡みながらもルディも感じている様子が伝わって来るので、余計に誇らしく思っていた。
憑依によってルディが新しく得た守護狼の肉体との順応を、体内の魔力循環を代行してやる事で定着と安定を促している状態だが、帰還後ルークの歓喜の感情の起伏も共有される事により、少しずつではあるがルディの精神が引き篭もった状態から現実という外への関心を示す様子が見られる。
なので、そろそろこんな自由もなく面倒極まりない調整任務は終わるのではないかと、のんびりとした気分で心地良い暖かい空間で、惰眠を享受しているルークだったのだが。
クッションの山で横たわり、雛が背中をこちらの腹にくっつけて頭を押し付けて来た拍子に。眠ったままのルークが小さな違和感を感じた瞬間、ばちんっと何かが切り替わった。
慌てて身を起こそうとしたルークだったが、身体の制御が出来ずピクリとも動かす事が出来なくて、何が起こったのか咄嗟には理解が及ばない。
宿主の五感に頼らなくても本来は高位の精霊であるルークには、この空間自体の魔力が豊富であるが故に、魔力感知によってほぼ把握出来ない事は無い筈なのに、外の様子が全くと言って良い程掴めない。
その段階で既に冷静では無かったのだろう。
真っ先に試すべきなのは命名によりサリヴァン親娘と繋がりを辿り、状況の説明が出来か否かなのにも関わらず、そちらに報せを飛ばす事に考えが及ばなかったルークは必死に今の状況を探ろうと、肉体のあらゆる感覚から入ってくるであろう情報を集めようと意識を巡らせ始める。
結果的に幾重にも何かがルークとルディの肉体の統制を邪魔するような感覚のみしか探れなかった。
どうやら本来の宿主であるルディと主導権が入れ替わっただけでなく、現在のルークは守護狼の擬似的な先祖帰りをした物質的な肉体に縛られ、封じられてしまっている様だった。
とは言え、場所がこの空間魔法の、しかも屋敷の中だ。
ルーナエレンの身に何かしらの危機が迫っているという事は現実問題としてほぼあり得ないのが現状なのだし、この仔狼の姿がルークの思惑と違う言動や挙動が屋敷内の誰かしらが目にすれば、自分よりも遥かに実力がある者ばかりなのでその内の誰かの口から、『雷の上位精霊』の名前が出るだろうと思い至り、暫く様子を伺う事に決める。
そうして、最近すっかり習慣付いていた体内の魔力循環も出来ない状況に若干の不安を覚えながら、不測の事態に備えて己の魔力を内部で丁寧に練り上げつつ、全方向へ意識を巡らせていた。
* * * * *
唐突に意識が浮上したルディは、酷く寝過ごして変な時間に目が覚めてしまった様な感覚でぼうっとしていた。しっかりと覚醒しきっていない狭い視界は、僅かに霞んだようにぼやけていて何とも言えない違和感が湧く。
ベッドではない、しかし柔らかな場所で暖炉の心地良い薪の爆ぜる音が耳に届く中、徐々に自分は知らない場所にいる様だと漠然と理解する。
それでも何処か呑気にぼんやりしたまま、幸せそのものの微睡と自分の身体に触れているらしき他者の温もりが、ルディの意識を浮上させた要因の様だと察する。
力強くて慕わしい、それでいて危うい気配。
菩提樹の側で生まれて初めて感じた、柔らかで儚げな印象の小さな妖精や小精霊達とは全くの別次元の力量でありながら、どちらかといえば現世の側の存在。
不思議な引力を感じる理由は、この身体の違和感に由来している気がして、ふわふわとした頭をおぼつかないままそっと持ち上げ、自らの横たえた身体を緩く振り返る。
視界に入ってくる身体の大きさや毛皮の色合いは何も変わっていないものの、心無しか毛艶が良くなって質感が何処となく上質になっているし、狼の脚も見間違いでなければ随分と立派な太さになっている気がする。
そこまで認識すると一気に意識は覚醒するが、自分の身に何が起こって今の状況にあるの上手く把握出来ず、内心でパニックを起こし自分の身体を思ったように動かせず、余計に混乱してしまった喉から殆ど声も出せない。
バクバクと心拍数ばかりが上がるこの身体は、自分だけの肉体の構成では無いと本能が告げてくる。
呼吸も忘れたルディが、自身が覚えている最後の記憶を辿ろうと視線を少し落としたその時。
視界に自分に凭れ掛かる、自分ではない灰色掛かった毛並みをした生き物の、知性を宿したエメラルドグリーンの瞳にじっと見つめられている事に気付く。
実際に互いの視線が交差したのは一呼吸もないくらいの時間であったが、どういう訳かルディには永遠にも感じられるものだった。
いつ何処で見た光景なのかはっきりと思い出せないものの、心に焼きつく程の美しい彩をした鳥を必死に駆けて追った記憶や、要塞砦の奥にあった巨大な菩提樹と薄く淡く色取り取りの柔らかな光が舞う姿、初めて体験した大きな魔馬が引く黒くて立派な領主専用の馬車の飛ぶような速さも。
様々な心を揺さぶられた光景が浮かんでは消え、ルディははっきりとこれらの自分が体験してきた光景を、大好きな母上に教えてあげたいと心底思った。
そしてそこでふと、幾つか本来知らない光景が混じっている事に思い当たったが、その謎について考えを巡らせる前に、軽い足音がしたと思うとふわりと甘い匂いとサラサラと柔らかそうな、青銀と淡紫が混じった髪を揺らして自分の顔を覗き込む、物語や神話に出て来るのではないかと思う程に愛らしく容姿の整った幼い女の子の大きな瞳に、全身を雷に撃ち抜かれた様な衝撃を受ける。
無意識にぶわりと毛が逆立ち、尻尾も制御不能な程揺れてしまっていた。
「ただいま。おなか、すいた?カーターさん、もうくるからね」
「ふぉぉお?!」
「‥‥え?だいじょうぶ?」
「え!!俺!?」
まるで小さな女神様の様に美しく愛らしい女の子は、声までもルディの小さな世界の最高峰を軽く超えて心を鷲掴みにしてくるらしく、反射的に先程までは身動きが上手く出来なかった筈の身体をガバリと勢いよく起こしてしまう。
女神の不意打ちの攻撃力の余りの高さに、上擦った声が予想より大きく出てしまったが、自分を気にかけてくれているらしい様子がどうしようもなく嬉しくて、一気に寝起きからテンションが爆上がりした結果。
少し立派になった尻尾が、より制御不能な程に高速で左右に振れて周囲のクッションを道連れに風を巻き起こす。
目の前の幼い女神様の様な女の子が、身体をびくりと震わせ身を固くした事には、全く気付けない。
「‥‥‥ルーク?」
恐怖を感じているのが明らかな震えるか細い女の子の声が、不安げに頼りなさそうに自分ではない別の誰かの名前を呼んだ途端。
ルディの意識は再びぶつりと暗転した。
お読み頂き、有難うです♪٩( 'ω' )و
ルディくんは、筆者にあまり尻尾を振ってくれないので、とても書きにくいキャラクターと言えるのデス_(:3」z)_
元気でやんちゃ気味な幼い男の子というもののモデリングが漠然とし過ぎていて、全く筆が進みませんでした。
今後のルディくんの扱いも迷ってますが、ぼちぼち他のキャラクターが動くのを見ながら、方向指示器出していきたいと思っております。
嗚呼、早よ雛の名前付けねば。。。




