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呪われ魔導師と秘密の至宝  作者: 七縁ささみ
一章
81/150

81、対面

 

 暖かな暖炉の前で、膝と脇と背中がそれぞれ極上のもふもふに包まれる。


 空間魔法(おうち)があるこの場所自体が既に特殊である為、北に位置するアレンハワードの祖国(ネヴァン)程の厳しい冬の環境ではないが、朝晩はそれなりに薄く氷が張る程度には四季があり、現在は秋の終わり晩秋の月もそろそろ終わろうという頃だ。


 ここの処グッと冷え込む様になってきたのは、もしかしたらレオナルドやアレンハワードの無意識下でのストレスが原因かも知れないが、愛娘が暖炉に火を入れる様になって喜んでいたのである程度相殺されている。


「それで?何がしたい?」

「ええとね、このなかのおはな、ルークがあまいにおいがするっていうの」


 小さな両の掌で小瓶を少し光にかざすようにして、ルーナエレンはその光の小さな乱反射を楽しむ。


「たべられるかなぁって、おもって」

「ぷはっ!」

「‥‥‥レオナ?」

「ああ、悪い」


 ぴんと髭を立て耳を寝かせた状態で、レオナルドは喉の奥でくくっと笑う。


「エレンがしたいようにしていいんだせ?まぁ、ちょっとした懸念はあるが‥‥」

「ええ、やっぱり?」

「用法容量を守って正しくご利用下さいって処だな」

「むぅ」


 可愛らしく唇を尖らせてぽふりとレオナルドへ凭れ掛かると、そのまま小瓶を見つめて考え込む。


「エレンがこれをたべたら、ええとパワーアップ?」

「ははっ!そうそう」

「エレンだけ?」

「ん〜、アレンもいける、かなぁ」

「そっかぁ‥‥‥じゃあ、このこは?」


 そしてゆるゆると視線を自分の膝の上で丸まっている雛へと移し、可愛らしく小首を傾げる。


「あー、かなり薄めたら何とかいける、か?」

「じゃあ、あっためたやぎさんのミルクにひとついれてみるとか」

「なるほど〜、エレンは天才だな!」

「ルークが、エレンとにたにおいがするっていってたから、それで」

「へぇ、なかなかの嗅覚だ」


 浄化を付与した護符の腕輪を着けた後は、徐々にルーナエレンの魔力で補う部分は減っているものの、未だ雛の口に糧となる何かを水以外与えられていない。

 しかもその水にしても、あの爆弾で荒れたであろう口内や消化器官の洗浄が目的であり、ルーナエレンが雛を膝に抱えたまま水の精霊と協力をして、治療の一環として微弱な癒しの水の膜を巡らせているに過ぎない。


 亜人種が多いこのマルティエの文献を主にアレンハワードと探してはいるが、ワイバーンなどの亜竜種ですらもう遥か古代の滅んだ種と言われている。


 まぁ要するに、その時代に本来龍種の始祖が根付く筈であったのだとレオナルドには理解出来るが、敢えて今言う話でもない。


 サリヴァン親娘に合わせて雛に与える食事について資料を探し考えてみたものの、結局龍種にそんな繊細な配慮が必要なのか甚だ疑問を感じているレオナルドは、結局のところ決定権を新人ドライアドに丸投げし、さっさと育児放棄の汚名を晴らしたいだけだったりする。


「エレンがあんなのつっこんじゃったから‥‥」

「?!いや、ほら!だって、コニたんパクーってやっちゃったし?!」

「うん‥‥」


 そして思っていたよりも、彼女の罪悪感は根強かったらしい。

 早い処ルーナエレンが提案した結晶の運用を試すべく、レオナルドはコニーに新人研修を急がせる事にした。







 * * * * *






 コニーに容赦なく衣装を剥がれて新人研修という名の渾身の頭突きを心得としてその身に叩き込まれたメイヴィスは、レオナルドに引き上げて貰った外見の年齢通りおよそ十歳程度の姿のおっとりとした少女の形状をとっており、彼女はようやく訪れた可愛らしい主人に対面出来るのだという得も言われぬ高揚感を、その華奢な胸に秘め深呼吸をしていた。


 今身につけている衣装もコニーが淡々としかし超速で用意してくれた、臙脂色のクラシカルな踝近くまであるスカート丈のエプロンドレスで、身に付けてみると少し質素過ぎる程の袖口や襟に自分の髪色と同じ糸で表情豊かな緑のモチーフの刺繍が美しい。


 きっともう直ぐ素晴らしいスタートが切れるに違いないと、多少乱暴な取り扱いを受けても心を持ち直していた矢先。


 少々気を抜いていた処、急に背後に顕れたコニーのふわふわの手が、メイヴィスの華奢な首根っこをガシッと掴んだ。

 ダメなパターンだと瞬時に感じて身を固くしたつもりのメイヴィスだったが、ちりっとした微かな痛みと首の皮膚の下を不回避な信号が走り抜けたような気がして、思わず若草色の瞳を瞬いてしまう。

 皮膚の下など、自分の感覚としては異質な実感なのに、と。


 だが、そんな疑問について呑気に思考を巡らせる事は許されなかった。


 屋敷の東側に面した奥の一角に薬草園の用意を至急で手配させ、メイヴィス個人のスペースをその近くに広めに確保してやると、レオナルドは口内炎や胃腸炎に効く薬効の薬草を夕刻までの課題とし、それを以てルーナエレンの前に出る事を許す旨コニーを通して通達する。


 だが、メイヴィス自身も存在の始まりから永い時間地上の世界に触れていない。元から持っている権能も満足に使った経験が無く、この屋敷に来るに当たり得た能力は全くと言って良い程把握出来ていない。


 屋敷の東側に広がる森の裾野をある程度の広さに切り取り、指示にあった以上の可能な限りの薬草を網羅した状態の薬草園を創造する。


 今まで使用する機会に恵まれなかったもののドライアドの能力を持ってすれば、本来生育する環境では無い種類や滅んだ幻影種と呼ばれるような種についても栽培を可能にする事は理論上出来るだろう。そして今の自分であればそれらは完全に生成が可能になっているが、この屋敷のある『空間』の特殊性というか特異性というべきか、『外』の世界の理に縛られず品種改良まで出来てしまうのが恐ろしい。


 取り敢えず課題にされていた薬効の薬草を数種類、繋ぎに使えそうな数種類の植物やハーブティーに良さそうな薬草、そして茶葉にブレンド出来そうな果樹や果物も次々と準備する。


 思いの外楽しくなっていたメイヴィスは、無意識の内に緑を寿ぐ歌を、でも怒られた時の恐怖からか小声で口遊みながら植物の育成を促していると、背後からふわりと柔らかく芳しい風が舞った気がして振り返った。


 そして、しばし彫刻のようにびしりと硬直する。


「わぁ、おねえさんすごい。みどりがげんきになるおうた?」

『はひぃ!』


 想像していたよりも幼い言葉遣いながら、愛らしく高く澄んだ声が微風になって視えた気がした。

 キラキラと光っている声と魔力が乗ったそれに、相手の素性をメイヴィスは察知する。


 その可愛らしく小さな手にある籠にはサラダに使う葉野菜や、食後に供するらしき果実が幾つか収穫されたばかりの様子で、きっと夕食の手伝いに出てこちらに気付いてやってきたのだと想像が出来る。


 そして彼女を視て終えばこの『空間』の存在意義を正確に理解出来てしまう。


 何も隠さず自然のままの状態の『銀の雫の姫』の為、そして本来の主となる筈だった御子の為にも自分の出来るあらゆる事を二人の為に使いたい。

 その為だけに、自分はこんなに永らえたのだとメイヴィスは確信する。


 自然な動きで左胸に手を当てて片膝をつき、優雅に上品に礼を執った。


『姫さま、お初にお目にかかります。わたくし、ドライアドのメイヴィスと申します。姫さまにお許し頂きますれば、幾久しく御身のお側に置いて頂きたく存じます』

「あっ、えっと」


 急にやってきて声をかけてしまった挙句驚かせ、そんな相手からこんなに丁寧に礼を尽くされ、更に思っていたよりとても大人びた挨拶を受けてルーナエレンはどぎまぎと胸を抑え、呼吸を整える。


 あの花の核と同じ気配なのが理解出来るから、初めましてではあるけれど忌諱感は感じない。


 その自己紹介を受けた幼い主は、蕾が綻ぶようにふわりと微笑む。


「ルーナエレン、です。よろしく、おねがいします」




 











お読み頂き有難うございます٩( 'ω' )و


エレンちゃんは自由人過ぎて、勝手にフラフラ出歩くので筆者なのに予想外の流れになってしまいます_(:3 」∠)_

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