80、ルーナエレンの小瓶
10年に1度の寒波とか、自宅待機とか、まだ2023年始まったばっかりなのに慌ただしくて目が回り中です_:(´ཀ`」 ∠):
き、気合いいぃぃ!!(がくり
毛足の長い絨毯へ転がり落ちた小瓶は音も無くすぐに動きを止めたが、同じくそれぞれに思わずと言った声を漏らした三人も、しばし動きを止めていた。
数瞬の静けさの中で暖炉の薪がパチリと爆ぜる音だけが響き、膝に思考停止しているであろう愛娘を抱えたまま、アレンハワードは先ほどの現象とレオナルドの声の響きを思い返す。
愛らしい小さな両の手のひらに包まれた、彼女の小さな手には収まり切らないがそれ程大きくも無い小瓶に三者の視線は向いているが、その間にもカーターが戸惑いつつも素早く絨毯に転がった小瓶を回収し、再びローテーブルの上へ戻している。
そしてその動きを視界の外で認めたからなのか、躊躇いがちにルーナエレンも手の中の小瓶をそっとローテーブルに置いた。
自分が不用意に小瓶に触れてしまったが故に、この事態が起きたのだと理解したのだろう。
サリヴァン親娘の脳裏には、クローゼットの『過保護』現象が呼び覚まされていた。
おろおろと視線を彷徨わせ、若干潤んだ紫水晶の瞳でレオナルドを見上げてしまう。
「れ、レオナぁ‥‥」
「あ!エレンは何も悪くないぞ?!泣く必要なんて本当にないから!!」
「レオナルド、これは‥‥?」
「ええと‥‥」
返答に少し困った様子を見せたレオナルドだったが、意を決した様にローテーブルの上の濃い色の結晶が詰まった方の小瓶を手に取り、そっとルーナエレンに差し出した。
そして戸惑いつつもそれを彼女が受け取ると、再び小瓶がぽろりと分裂を起こして更に色の濃くなった結晶の詰まった小瓶が、絨毯にまろび落ちる。
渡された小瓶はルーナエレンの手の中にまだきちんと存在しており、中の結晶の色は輝きは薄くなって乳白色となっていた。
「うん、何というか‥‥もう、過保護発動としか言えない‥‥かな?」
「「‥‥‥」」
何とも言えない複雑な心境をそっくりな表情で如実に浮かべている親娘の正面で、今度はレオナルドが青の視線を彷徨わせる。
「と、取り敢えずこれは素材だと言っていたけど、具体的には魔素の結晶という認識で合ってる?」
「う‥‥細かいコトをすっ飛ばせば、まぁ‥‥」
「‥‥細かい、事?」
片や古からの魔素の豊富な土地を長年守り蓄えて来たであろう大妖精の力の結晶でもあり、片や地中深くで永い時間を古龍の雛と共に耐え、新たに進化と上位世界に関わる魔素までその身に宿した緑の女王の力の結晶。
それらを一緒くたに吸い上げミックスした状態で結晶化したのが、更に超常の存在であるレオナルドの眷属コニーであり、そのコニーの誕生にもこの空間の『過保護』が既に大きく関わっているのだ。
そして、それを他でもないルーナエレンが強く興味を惹かれ嗜好の琴線に触れた様子を見せた事が、この結果を招いたのだが、それを引き起こされた理由を一部の記憶を失くしたアレンハワードへ、明確に説明するのは無理と言える。
だが、何となくではあるが現象の中に潜んだ意思を、どうしてもレオナルドは無碍に出来なかった。
「はぁぁ、仕方ねぇな!」
少し乱暴に思える溜息を吐いてから勢いよく何かを振り切るように大きな声で言い切ると、レオナルドは立ち上がって一番最初にルーナエレンが手に取り、後に挙動不審気味にテーブルに戻した一際輝きの強い結晶ばかりが入った小瓶をひょいとテーブルの上から取り上げる。
「これは一旦オレが預かる。今エレンが手に持っている二個目の小瓶は、エレンのだから好きにしていい。三つ目のは‥‥そうだな、アレンが工房で管理してくれ」
「分かった」
「レオナ‥‥これ、またポロってなる‥‥?」
物心ついた時からこの不可思議な環境にあり続けているルーナエレンだが、精霊や妖精もしくは魔術式を介していない無機物そのものが理解不能の分裂を起こし、自分がそれに触れたからその現象が起きたのだとほぼ断定出来てしまった事態に、初めて純粋に怯えを見せていた。
不安気に大きな瞳を揺らして見上げてくるルーナエレンの様子が、不謹慎ながら悶えそうになる程可愛いのだが、そのニヤついている心のうちを悟られまいと必死で表情を引き締めたレオナルドは、お姫様のご希望通りに『ポロっと』分裂をしない様に、小さなお手手に包まれた小瓶に自分の手を翳して小瓶ごと『固定』を施す。
そして『固定』と同時に小瓶を女の子が好みそうな、それでいてルーナエレンでも取り落とさないよう持ち易い大きさと形をした、可愛らしい化粧瓶に整形し直すというサービスも忘れない。
あっという間に自分の不安に対処した上、更にちょっとした贈り物のような小瓶にしてもらったルーナエレンの紫水晶の瞳は、もう憂いの彩は無い。
もしかしたらちょっと違う方向で『過保護』がこれからも小瓶に発動するかもしれないが、少なくともルーナエレンが怯えた現象は一応今手にしている小瓶には起こらないだろう。
* * * * *
その後おっかなびっくりながらも、ルーナエレンの手で固定を施した小瓶の扱いについて幾つか実験をしてみたのだが、収納に入れてもそこに繋がるポケットに入れても、あの分裂は起こらなかったし同様な異変も特に起きていない。
結果に十分納得してから、ようやく安心したのかより可愛らしい装丁になった小瓶を、お気に入りとして持ち歩き眺める様になっていた。
暖炉の前のクッションに囲まれながら膝の上に丸まった雛を載せ、背中には同じくクッションに埋もれその一部と化した子犬もとい仔狼状態のルークがぴとりと寝そべったままくっついている。
小瓶の中の小振な花の結晶は、レオナルドが保管すると言っていた物より少し淡い色合いであるものの、キラキラと光を含んで室内にありながらもとても美しい。
それに心なしかほんのりと甘い香りを感じるし、結晶自体の質感も硬質なつるりとした鉱物というより、何処となく厨房の調味料の棚の奥に取り置いている岩塩に近い気がする。
特にレオナルドやアレンハワードから注意を受けていないが、鉱物によっては毒になる事も知識として持っているルーナエレンは小瓶から結晶を取り出すのを躊躇っている。
が、非常に興味が惹かれるのも事実。
後ろから顔だけを覗かせてきたルークが、ルーナエレンの肘の下に額を擦り付けながら声をかける。
『姫、ナンダカ甘クテ旨ソウ!』
「‥‥ルークも、そうおもう?」
『スゴイ良イ匂イ‥‥俺コレ好キダ!姫ミタイナ匂イ!』
「ええ?あ、でもたしか『ドライアド』さんたちから、コニーがあつめたって」
『ウーン、アイツラノ匂イ‥‥トハ違ウ』
「そうなの?」
魔素の纏う匂いや其処から種族を特定出来る差異まではルーナエレンには理解出来ないが、高位の雷精であり現在憑依中の守護狼(仔状態)の嗅覚も手伝っているのか、ピスピスと鼻を鳴らしながら言うので彼女はちょっと首を傾げつつ柔らかな薄黄色の毛並みの鼻先を撫でてやる。
興味は尽きないし、どんな素材なのか気になって仕方ないルーナエレンはふかふかもふもふに包まれつつ、考える。
この空間魔法に在って自分達を害する物は、大抵その効果を発揮する前にどうなるか考えるまでもない。経験則として場所にもルーナエレン自身にも物理的に鉄壁な魔術が保護者達によって施されているのを知っているので、この小瓶の中をどう扱うかは恐らくルーナエレンの好きに出来るに違いない。
例え鉱物らしき特性を持っていて、鉱物毒などが万が一含まれていたとしても、ルーナエレン自身がそれによって害される事はない。
傲慢な考えかもしれないが、自分達に対しての害意がこの空間に限っては本当に存在を許されていないのだから。
ただ、それでもこれだけ慎重に小瓶の中の結晶の扱いを悩むのは、自分には扱い切れない場合を考えているから。
このお家がある理由も、ほぼルーナエレンという存在を外の世界から隔離し隠す為であると気付いている。
ふと夢見心地の中で聞いた、優しい女性の声を思い出す。
「エレンがしたいように、ほんとうに、していい‥‥の?」
そうすればレオナルドが叶えると、あの美しい声は言っていた。
「ほんとう?レオナ」
「ん?呼んだ?」
思わず溢れ出した小さな独り言だったのだが、階段を獣の足音を立ててゆっくりと優雅に上がってきた大きな艶やかな黒い毛並みの獣が、機嫌良さそうにゆらりゆらりと尻尾を揺らし、歩み寄ってちびっこ三名を纏めて包むように身を寄せ横になった。
お読み頂き、有難うございます٩( 'ω' )و
拙作にアクセス頂く数がたまーにびっくりする事が、昨年末から有難い事に増えてきました(๑>◡<๑)
本当に有り難い限りです!嬉しいイィぃぃ☆
ぼちぼちですが、これを糧に頑張りまーす!!




