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呪われ魔導師と秘密の至宝  作者: 七縁ささみ
一章
8/150

8、古き双子の妖精

更新と新年のご挨拶がすっかり遅くなってしまいました。。。

明けましておめでとうございます。

今年もぼちぼちと更新頑張ります!

 微睡む幼子が起き出すか昼食の知らせに誰かが部屋を訪れる迄にと、二人はもう一度話を戻す。


「朝食の席でのここの上層部の話では、今日の午後には領主の配下の者が代理として要塞に到着すると知らされたが‥‥恐らくそれだけでは済まない気がする。先刻のドライアドが領主に何か伝えるかも知れないし」

「あぁ‥‥別れ話されて飛んでくるかも知れないしな。この辺りではかなり古くて強い妖精だからな、アレ」

「‥‥厄介な。招きを受けている以上、自力では探れないし。この辺りの風の眷属は、何が居る?」


 レオナは少し視線を上げ、微かに鼻をヒクリとさせる。

 大陸の南寄りの地域に来ているが、龍の背骨の背後には高い山脈がある。冬に向かって渡る鳥が通るには少し早いが、彼らを運ぶ風は居るだろう。

 地域的には地龍と縁の深い土地だ。国境に近いので、カルトボルグの風やフェイトリネアの妖精も多少、地龍の恵みである魔力を求めてやって来ているようだ。

 その中でアレンハワードと縁を結んでいるものは居なさそうだが、鳥の種類ならば幾つかありそうだ。


「難しい事言わなくても、鷹でも呼び出して偵察なり監視なりしたらいいじゃないか。この辺りでも普通に生息してるぞ」

「如何にもすぎないか、正体言いふらしてるみたいだ‥‥‥」

「どうせドライアドには薄々伝わってるだろ。後でちょっと話つけてくるか」


 青い瞳をすぅっと細めると、薄紅の綺麗な唇が弧を描く。美少女の残忍な気配を感じ、はぁっと軽く息を吐くアレンハワードだった。


「もう一つ確認したいのは、あれは双子の筈だろう?片割れはどうして居ない。エレンを契約者にしたいのは、その辺りに理由があるのではないのか?」

「微かにしか感知出来ないな。だが居るはずだ。その辺りもついでに話を聞くだけ聞いてこよう。面倒事しかないと思うけどな」


 やおら立ち上がったレオナは片手を上げ、姿を消す。

 アレンハワードは外の状況に変化がないのを一度確認してから、子供部屋の真ん中にあるテーブルの上に羊皮紙を広げ、人差し指の指先に魔力を集めて魔法陣を幾つか書き連ねた。インクもないのにその描かれた魔法陣は、アレンハワードの魔力の軌跡を淡く浮き上がらせて、そこに存在した。

 ふぅっと羊皮紙に息を吹きかけると同時に、術式が発動して紙の上から宙にふわりと浮かび、複雑に何層にも重なって強く輝きを放つと同時に、腕に一羽の雀鷹(ツミ)が顕われた。

 青味がかった淡い灰色の羽毛と、紅玉のような鋭い目をした最小の鷹が、アレンハワードに向かって誇らしげに白い羽毛に覆われた胸を張っている。


「もう渡る時期なのに、すまない。私たちを助けてくれると嬉しい」


 密やかに眼を借りる契約を元からの絆に撚り合わせ、まだ光っている魔法陣に向けて鷹を載せた腕を伸ばす。

 飛び立つことを促されたが、首を傾げてアレンハワードを振り返ってきた。


 つられて少し首を傾げ、何気なく小さな雀鷹(ツミ)の頭をそっと撫でる。羽毛が、擽ったい。


「‥‥頼んだ」


 思ったより優しい声音で、腕に留まっていた眷属を魔法陣に送り出す。数度羽ばたいてから、鷹は魔法陣に向かって飛び込むと、魔法陣と共に消えた。




 * * * * *



 子供部屋から再び菩提樹の元に姿を見せたレオナは、不機嫌さを隠す事なく大きな幹の上の立派な枝の根本に居た。

 いつもの姿ではなく、ルーナエレンに見せている黒い子猫の姿でもない。本来の姿は封じている為、黒豹の姿をしていた。

 太くて大きな前足から凶悪な爪を出し、樹の幹に突き立てる。


『痛い痛い痛い!!!ちょっとぉ!?』


 フンと鼻を鳴らして青い瞳が睨みつけると、メルヴィンは気圧されたように涙目ながらも押し黙った。


「お前、片割れはどうした」


 片割れと言われたメルヴィンは、一瞬目を見開きややあって僅かに警戒する様に目を細める。


「別に言えないならそれでもいい。ああ、確かここは地龍と‥‥シエラとかいった山のが居たか。ざっと見た所、帝国の上層部には眷属が居るようには見えないが」


 メルヴィンの深緑の瞳に得体の知れない上位の存在への畏怖の色が浮かび、身動(みじろ)ぎすら怖くて出来ない。先刻の少女の姿の時とは違って、目前の存在は纏う空気が気安いやり取りなど微塵も考えられない程無意識の威圧を感じる。

 そもこの國が成り立つより遥か昔のこの地の始祖の一柱であろう御名を、気安く口にしていながら不遜な態度を崩さない目前の相手は何者なのか。帝国になる以前からの歴史を識っている古き妖精でありながら、彼の者の名前は知らないし例え識っていてもとても口には出せない。

 圧倒的な上位者の名前そのものにも力がある故に、その力と自身の力が隔絶していると『呪』となる。

 強すぎる祝福が災いとなるのだ。

 その限りではなく、然もその名を口にして平然としているのだから、同等かそれ以上か。

 そんな存在が、今のこの世界に居るはずはないというのに。


「オレはこの世界がどうなろうと、あまり興味はない。エレンを煩わせるなら、滅ぼすのも躊躇わないがアレンが言うには、それじゃエレンは笑顔になれないらしい」


 畏怖を抱かずには居られない雰囲気のまま、黒い獣はふぅと溜息を吐き出す。


「お前、エレンを先刻『夜の雫の姫』と呼んだな。何を何処まで知っている?返答次第では、オレが直々に問題の排除をしなくてはな」


 ニヤリと口の端を歪め、鋭い牙がその表情を獰猛に彩る。

 哀れなドライアドは自身の依代(よりしろ)に爪を立てられたまま、涙目になりつつ懸命に事情を話し始めた。

 どちらにしろ、このまま静かに滅びを迎えるのか上位者の機嫌を損ねて滅びるかの違いなのだから。


『まずは、姫様とお呼びしたのは、やはり(いろ)からです。古から私たち妖精、まして精霊ですら焦がれる『銀』の彩を身に宿しているのは、血族である証。その御力も、龍の背骨にいらっしゃってすぐ国境沿い付近の種族を問わずの同胞達が騒ぎ出した程ですもの。本当に古からの始祖の眷属の姫なのでしょう?』


 品定めをするかのような何処か温度の低い青い眼が、淡く透き通ったメルヴィンから外される事はない。

 視線を逸らす事も許されない緊張感の中、賢明に自分の予想の範疇であるルーナエレンがどんな存在であるかを言葉にし、目前の黒い獣の反応を伺いみる。


「‥‥まぁ、大きくは外れていない。だが、今の人の世には過ぎた秘宝であり、オレの『執着』する存在だ。」


 ゴクリと喉を鳴らし、メルヴィンが言葉を重ねないよう気を付けながら続ける。


『では、私が新しくお守りする為の力となります!秘宝と称されるような姫ならば、我等のようなものが必要でしょう?』


 少しでも自分を売り込もうとするかのような言葉に、メルヴィンに向けられていた青い瞳から温度がなくなった。不機嫌を隠しもしない黒い獣は樹の幹に立てたままにしていた鋭い爪に、力を込める。


「面倒しかなさそうなお前は却下だと言っているだろう。何より牡はいらん。片割れを出せ」

『‥‥‥姉は、此処に居ないわ。龍脈深く、根に沿って深く深く潜ってしまっているから』

「ほう、それがお前がエレンに何かをさせようとしている理由か?」


 何処まで見通されているのだろう。話さない選択肢などこちらには元より無いけれど、思わず息を詰めるように押し黙るメルヴィンに、レオナは不敵な笑みを浮かべて顎をしゃくると先を促した。


『先程、この帝国の上層部に眷属の気配がないと仰いましたが、正しくその事で姫にお縋りしたく。この地を統べるべく古の地龍と、山脈に宿る女神の裔との間に御子が出来ましたが、龍と山の裔ですので御生れになる為の地力も魔力も途方も無かったのです。時の流れとともにこの地ですら御子にとっては魔力が足りず、命を繋ぐだけで手一杯で、姉が地中に潜って御子に魔力をお渡ししてお守りしているのです』



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