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呪われ魔導師と秘密の至宝  作者: 七縁ささみ
一章
78/150

78、白き弾丸

 

 結局のところ、三歳児と孵化したばかりの幼体古龍の世話をするのが、ほぼ同じ位の外見の幼体の妖精というのはかなり無理がある。やってやれない訳ではないが、後々ルーナエレンの認識が常識から外れてしまうという意味と、保護者である自分達が目にするであろう環境として、遠慮したいという事情も含めてレオナルドは介入に乗り出したのだ。


 アレンハワードとルーナエレンの側近くに制限を無意識に強いたであろう存在の心境を慮り、レオナルドは相手の許容出来る範囲を導き出す。


「一応オレがとってた姿くらいが限界だろうなぁ‥‥」


 アレンハワードを背後に残したまま、怯えた彩で近付く自分を見上げる二対の緑の眼を眺め、二人の直ぐ側まで歩み寄り、ひょいと屈んで姉弟を見る。


 先程メルヴィンが自分の記憶を姉と共有させたのは見て気付いていたので、揃ったように怯えた眼を向けられる事は何とも思わない。

 改めて、もうメルヴィンも下手な野望は持てないし、その愚かさを正しく理解している様子の姉は言わずもがな。


「エレンの為に、姿の制限を少しだけ緩めてやる。とは言えお前の雇い主が誰なのか、薄々気付いているんだろう?」


 メルヴィンを無視して幼女姿のメイヴィスへ、正しく存在を理解していない者が見ればたちまち魅了されてしまう微笑みを浮かべるレオナルドだが、その青い瞳は酷薄そうな彩が浮かんでいる。

 間近でそれらに宛てられたメイヴィスが華奢な肩をブルリと振るわせて息を呑み、大急ぎで壊れたように何度も首を縦に大きく振った。


「ふふ、なかなか聡いじゃないか。まぁオレだってそこまで薄情じゃないから、恋愛するなとは別に言わないぜ?ただ、己に課せられた使命が何かを履き違えず、うちのアレンや可愛い可愛いお姫様に悪影響を与えなければ、一々とやかく言うつもりは無いし」


 そう言いつつもこの環境下に慣れて仕舞えば、恐らくメイヴィスの審美眼も理想も上がるばかりだし、自身もこの環境の『過保護』の影響を多大に受けて大妖精の中でも高位になっている。

 外の世界に彼女が求めるような出会いが早々に転がっているとは思えないのだが、そんな容易に想像出来る未来予想は黙って胸の内に仕舞っておく。


「直接の上司はさっきの魔導人形のコニたん。一応、オレの眷属だから。後、同僚は魔道具職人を兼業してる、モルガン辺境伯家の元侍従長、ロマンスグレーの素敵紳士カーター。こっちはお前の弟の記憶で分かるだろう。ルークは元雷精で将来有望だが、今はちびっ子狼に憑依中。エレンとお前達の御子は、お昼寝から起きた時に対面させよう」


 未だ身体を起こせない双子を無視し、レオナルドは簡素且つ大雑把な紹介を語り始め、がしりとメイヴィスの頭を鷲掴みにして持ち上げる。


 雑な動きで頭を掴まれて引っ張り起こされ、宙にぶらりと浮く程に小さな幼女のメイヴィスの身体が、ほんの数秒で十歳程度の少女の姿に成長を遂げる。


『ふおぉぉぉ!!!』


 驚き喜色に満ちた声を上げるメイヴィスだったが、それを下から見上げる双子の弟はやはり憐れみをその深緑の眼に浮かべている。

 姉が血涙を流さんばかりに固執していた『女性らしさ』には、まだまだ遠い。遥か彼方だと言っていい程に。

 何よりも、メルヴィンから見ても断然『ロリバ○ア』のゾーンから脱却不可能の範囲なのだ。


 先程レオナルドが示唆したお外で恋愛しても良いという発言も、この姿で引っかかる相手が地雷である可能性が高いと自分の経験則が判断するが、果たして世間知らずの姉にそれが分かっているのか。


 それら全てを内包した憐れみの視線なのだが、レオナルドも分かった上で放置して来ているので声にはしない。


「お前の業務内容は、雛の世話も勿論だがエレンに女性としての知識や相談に乗ってくれる存在になってもらいたい。後は癒しが得意なエレンへ、適正のある魔術や技を教えてくれると助かる」

『その‥‥お嬢様、の適正は?』

「きっちりと確認はしていないが、洗礼の時期をいつにするかまだ(アレン)と相談中なんだ。でも、遺伝として確定してる部分は風と水それから光。やれば何でも出来そうだが、まぁ、オレはあまり表に出すつもりが無い」

『レ、レオナルド様は、と言いますと‥‥その、』

「ああ、アレンは娘が望むなら何でも叶えようとするだろうな。時間も限られているし」

『‥‥‥サリヴァンだと、仰いましたね。なるほど‥‥彼の方が、魔導師‥‥』

「うちのお姫様も、記憶継承を持っているからな。不用意な発言は即、お前の身に還ると思え」

『う、つまり‥‥幼いとはいえサリヴァンであると』

「そゆこと。だから、お前が差し出せる固有の能力‥‥そうだな、『ドライアドの歌』か。その路線がまぁ、無難か」

『無難‥‥』


 提示された情報から、自分がどの様にここで立ち回るべきなのか、それを頭を鷲掴みにされ足先がぶらりと浮いた状態のまま、腕を組んで考える。


 ドライアドの女王の固有能力である歌は、この箱庭に産まれた時から既に持っている。

 そうでなければきっとこの永劫とも思える時を、御子を護りながら生き永らえる事は不可能だったに違いない。


 そして、耐え切ったからこそ今この奇跡があり、自分の身に恐れ多い恩寵が与えられたのだから。


 メイヴィスはかっと若草色の眼を大きく開き、力強く拳を握って決意する。


『わかりました!わたくし、歌のお姉さんで行きます!!』

「ほぉ、ちなみにどんな自己紹介をする気だ?」

『それはですね!』


 鼻息も荒く自信満々でキラキラと瞳を輝かせるメイヴィスは、まだレオナルドの為人を正しく理解出来ていない。


 別視点のメルヴィンからは、姉に見えない角度で悪い笑みを薄らと浮かべるレオナルドが視えているが、あまりに悪い笑顔すぎて経験則から身体が凍りついた様に動かなかった。


(くっ!私には止められない‥‥無理!!)


 片割れである姉を止めるべきなのにも関わらず、恐怖に身が凍りついて声さえ出せないメルヴィンは心の中で激しい葛藤と戦っていたが、何一つ成せないまま。


 視界が一瞬眩く光ったかと思ったら、メイヴィスが衣装変更(コスチュームチェンジ)を終え、くるくると緩く巻かれたツインテールで決めポーズをしていた。

 レオナルドに頭を鷲掴みにされたままの状態で、大きく息を吸い込み腹式呼吸で溜めを作った後。


『ご〜きげ〜んよ〜ぅ!歌の!!メイお姉さんですよぉ〜!!』


 先程までのクラシカルな膝丈の花を逆さまにした様なワンピース姿が、過剰な程に大きくひらひらなリボンが沢山ついた、かぼちゃパンツ付きの超ミニスカートになっており、上半身は透けるレース生地で葉っぱを連ねたデザインのリボンで、背中に大きな腸蝶結びが靡いているではないか。


 一つ一つは割と完成度が高い気もするが、上半身は昼日中で子供を相手にしてはいけない部類の透け感だし丈の長さで、それ以外はあざとさを押し出し過ぎでリボンもフリルも多過ぎる。


 本人の中の大人の女性としての矜持と目指す姿が、絶賛戦闘中なのではないだろうか。


 死んだ魚のような眼で痛々しい姉の変身を見上げるメルヴィンの目前で、レオナルドが肩を震わせながら僅かに手を緩めた瞬間。


 白いもふもふな弾丸が、メイヴィスの腹部目掛けて突っ込んできた。


『かふっ‥‥』

「ブッフォ!!!ぐっ‥‥あっはは!!!!」

「くぅ‥‥‥」


 大音声で決め台詞を放った後に突っ込まれたせいで、(メイヴィス)はか細い息を漏らして弾丸の勢いに飛ばされ、視えない壁に縫い付けられる。


 すぐに耐えきれず吹き出したレオナルドの後の、空気が漏れるような声に反応をしたメルヴィンは、ノロノロと視線を離れた場所で見守っていた筈のアレンハワードへ向けた。


 すると、そこにはそっと顔を逸らして口元を覆い、肩を微かに震わせている麗しの氷の魔王が何処か雪解けの気配を纏っているではないか。


 雪解けは願望と眼の錯覚かも知れないが、目の前のレオナルドは取り繕いもせず転がって大爆笑をしており、メルヴィンは自分達双子の首はこの笑いによって何とか繋がったのだと実感した。






お読み頂き、有難うございます٩( ᐛ )و


うまい具合に話を端折って進行させるべきなのに、変なところでちまちましてしまう癖なのか本当にお話が進まないデス_:(´ཀ`」 ∠):

雛の名前はまだ無い。。。。


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