75、ルークの帰還
今回はうまくお話を切り上げられなくて、キリの良いところまでにしたらやや長めになりました。
日々寒さが増しておりますが、皆様も何卒ご自愛下さいませ〜♪
おねむな愛娘をお昼寝へ送り出した後、地階の工房から図書室に移動したアレンハワードとレオナルドは、また一つの問題に直面していた。
それは、雛が孵化してから真面に何も口径摂取をしていないという事実だ。
思い返せば孵化と同時にコニーに襲い掛かり、高次元な物質体と一緒に練り込まれた高純度の魔素と呪いを摂取し、直後劇薬を未発達と思われる消化器官へ強化した弾丸のような状態で叩き込まれ、嘔吐し衰弱した経緯がある。
幾ら強固と予想出来る古龍の雛であろうが、生物的に少々過酷過ぎる扱いで有ったのは否めない。
「い、言い訳をさせて貰うが、何もあの件についての不満は言ってなかったんだからな!」
「別に何も言ってないよ。それよりも君は父親だと称するのなら、我が子が何を食べるのかきちんと把握しないと」
先輩パパからの耳の痛い指摘に、うっと言葉を詰まらせる。
「大体生後四日以上、水分以外の物質的な食事を摂らせた事が無かったなんて‥‥」
はぁっと分かり易く溜息を吐き、アイスブルーの冷ややかな瞳が更に温度を下げてレオナルドを見る。
「エレンがそれを全部魔力変換してたって、私も気付くの遅れたから何とも言えないけど。君は唯一雛と『会話』可能だろう?姿に拘ってないできちんとお世話しないと」
そんな説教をしながらも、一緒に古龍に纏わる文献や参考になる多種族の新生児の生態が書かれた書物を探している辺り、知らずにいたとは言えルーナエレンにだけ負担を強いていたのが堪えているのだろう。
乳母としてドライアドを用意するものの、古龍の育児に関する知識があるかも定かではない。
何故ならば古龍の雛自体が存在するのが初めてで、ドライアドも同時に実際の外界は初めてなのだから。
「気は進まないけれど、メルヴィン呼んでおいた方がいいのかな」
「あ」
分担して書棚から関連しそうな書物を引き抜いては手早く目を通し、深く読み込む内容がありそうなら持ち出すつもりだったが、なかなか有意義な情報が載った書籍は見つからない。
背後で同じ作業をしていた筈のレオナルドから間の抜けた「あ」という、何かしらに気付いたらしい声が漏れたのを聞いたアレンハワードは、経験則からまた何か問題かと再び軽く息を吐く。
「今度は何」
「お、おこら‥‥」
「早く言え」
「アレンお前最近怖い!!」
「言え」
少々声に感情が篭っていないだけであり、別段怒っている訳ではない。現段階では、だが。
だが、怒らないで聞いて欲しいと言う振りをしようとした辺り、何かを忘れていた若しくは放置していたのを思い出したといった類であると予想がつく。
アレンハワードにしろレオナルドにしろ、基本ルーナエレンが一番であり最重要なので、それ以外は少々思考回路から意図的に外してしまいがちなのは同じで、それでも一応アレンハワードの方が良心的で引き受けた依頼に関する事象であれば、比較的手早く諸々の処置や処理を行う傾向にあるだけで。
本人的にはお互い似ている自覚があり、人との関わりという人生経験が辛うじて先輩にあたるアレンハワードが仕方なくフォローするのが常なのだ。
「メルヴィンのついでにルーク締め出したままにしてました」
「えー‥‥‥」
ほぼ一週間。
思い出してみれば雛の孵化の時、咄嗟にメルヴィンごと地上に強制送還し、その後もアレンハワードはレオナルドに愛娘の機嫌が直るまで帰還許可を出さなかった。
その間のレオナルド側の人員は、そういえば把握していなかったなぁと、現実逃避気味に考える。
「梟の翁が国に戻ったのだけしか把握してなかった」
「‥‥‥なぁ、エレンまだオレの事怒ってると思う?」
「‥‥‥‥‥‥」
「黙ったまま怖い!」
「謝ってないから‥‥」
「うあぁぁぁぁぁやっぱりかぁあぁぁ」
「それもだけど、せめてルークに状況伝えてる?」
「あ"あ"ぁー聞きたくないい"ー」
やれやれとまた溜息を零し、アレンハワードは軽い動きでがしりとレオナルドの頭を鷲掴みにした。
一瞬電撃で軽く焼かれたのを思い出したのかレオナルドの身体がびくりと震えたが、直ぐに違った意図で自分に触れたのだと理解する。
「ルーク」
優しい声音で名を紡ぐと、図書室に突如突風が吹き荒れる。
「ルーク、悪かったよ。エレンが心配だったよね?」
吹き荒れる嵐が一層強くなり、図書室の書棚に保護魔術がなければここは大惨事だったに違いない程、暴風となる。
「みんな無事だよ。コニーも修復出来たし雛もドライアドの姉も生きている」
そろそろ立っているのが辛い程の暴風が、次第に目の前に凝縮されていく様を見ながら、それでもアレンハワードの表情も声も優しいままで。
「だから、エレンは傷付かずに居るから。ルーク、有難う。お疲れ様」
レオナルドの頭から手を離し、吹き荒れる暴風もものともせず優しく凝縮された『風』の気配の前で両手を広げる。
ばちんと激しい炸裂音がした瞬間、薄黄色の髪色と同色の狼の耳と尻尾を生やした状態のルディ姿のルークが顕れ、アレンハワードの胸に飛び込んで来た。
『バカー!!!!』
「ごめんごめん、頑張ったねルーク。有難う」
『バカー!!!!!!ウワァァン!!!』
生まれてあまり時間を経ていないとはいえ進化も遂げた高位の精霊だと言うのに、随分と憑依者の年齢と意識に引き摺られている様だ。
ルークの今の在り様もまた、自分達と深く関わってしまったが故の特異性でもあるのだろうが、こんなにも感情的で可愛らしい姿を晒してくれた事に、アレンハワードは少し嬉しく感じてしまう。
飛びついてわんわんと泣きじゃくる狼少年の背中をポンポンと優しく叩きながら宥める先輩パパの姿を観察しながら、レオナルドはちょっぴりアレンハワードの父性を尊敬し直したのだった。
* * * * *
本来はルークにルディの進捗具合を聞き取りしなくてはならないのだが、今回の放置に関する特別報酬として、ルーナエレンのお昼寝タイムに混ざるという権利を与えられたルークは、今二階の暖炉の前で仔狼姿で丸まっている。
そして同じく放置されていたメルヴィンに関しては、今まさにレオナルドがアレンハワードの監視の元、屋敷の外庭にある東屋にてお互いの近況報告会らしきものを執り行っていた。
ちなみにその東屋は裏庭に一番近く、恐らくコニーがメルヴィンの姉を埋めた現場に程近い筈である。
『もう、もうこれ以上は、ご勘弁下さいませぇぇぇ〜!!』
「‥‥‥‥」
開口一番のギブアップ発言に、アレンハワードの表情が無に限りなく近くなる。
後処理をレオナルドに丸投げしたのは確かに自分だが、彼は一体メルヴィンにどんな無茶振りをしたのかと、顳顬にズキズキと痛みを覚える。
それぞれが違う内容ではあるが黙したまま考え込んで返事を返さないので、メルヴィンは益々顔面が水浸しになる。
幾ら外側が美女であったとしても、中身を知っている二人には言葉は悪いが残念なモノにしか見えない。
それはこの二人の美醜の基準が最上級の環境であるが故なのだが、悲しいかなその基準はかなり箱庭の規格外なので、メルヴィン側としてもいっそ繕わなくてもいいと判断しているのかも知れない。
「泣く程過酷なお仕事振ったの?レオナルド」
「いや?今までのサボりが還って来ただけじゃないか?」
『うぅぅうぅ』
一人着座を赦されないまま床に膝を付き、項垂れてべしょべしょと泣き濡れるメルヴィンを視界の端に捉えながら、アレンハワードの問うような視線に肩を竦めてレオナルドはざっと説明をする。
曰くルークを憑依させたままのルディの一時帰宅による記憶の揺さぶりと、メルヴィンの姉が支えていた地中深くの掌握、滝のある菩提樹付近のみに抑えられていた地脈からの純度の高い魔素の分配の管理だとか、付近の精霊や妖精の管理であるとか意識改善など。
「特に難しい課題は無かったと思うが?」
簡単そうに言い放つが、後半の意識改善に関しては一方方向ではどうしようもない。対話するにしても、人側にも修錬や知識が圧倒的に足りていない。
とはいえ、メルヴィンは幸運にも高位の精霊との連携も、人側の権力を持つ人物も身近に存在している。
始めるに遅過ぎるなどという事はないので、是非とも改善に力を注いで欲しいところなのだ。
そして、恐らくだがメルヴィンが一番参ってしまっている部分というのが、ルディの身体で中身がルークという御すには難しい相手を、己の契約者と会わせて対話させる機会を持ってしまったからに他ならない。
どうやらここでもまた、彼の騎士団長が口を滑らせてしまった様子で、当主本人に直接会わせる予定が無かったにも関わらず、ルークが制御するルディの擬似先祖返りの力について暑苦しく熱弁を奮い、強引にルディを引っ張り出して対面させてしまったらしい。
「まぁ、確かに私達には勘弁してあげられる問題じゃあないね。再教育は実兄である現当主様とご家族に、くれぐれもしっかりして貰うようにとお願いするしか」
『もぅ嫌あぁぁ!何で引っ掻き回すのよぉアイツうぅ!!』
「後、そいつの手綱握れそうな相手探すとか、だろうなぁ」
毎度期待を裏切らず、要らない方向に予想外の問題を引き起こす騎士団長の後始末をする必要に駆られるモルガン家関係者に、流石に少々同情を禁じ得ない二人だった。
お読み頂き有難うございます٩( ᐛ )و
もう本当にスタック無くなってきました。。。
冬休みに入れば、なかなか執筆時間が取れなくなりそうです_:(´ཀ`」 ∠):
引き続き、地道に頑張って執筆して参りますので、今後ともよろしくお願い致します!( ※´ ▽ ` )




