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呪われ魔導師と秘密の至宝  作者: 七縁ささみ
一章
74/150

74、緑の女王?

 

 小さな掌を翳して真っ先に視えた感情は、雛が無事に孵化出来た事への喜びであり、それが一際大きかった。そして『黒』から解放されたという歓喜、この地への侵食を抑え切れたのだという、心よりの安堵が滲んで視えた。


 次いでアレンハワードに花の種類についても尋ねられていたので、ルーナエレンは核に刻まれた力とそれに連なるあらゆる植物を辿り始める。


 ただ、それを視ようと集中すると、途端に眩暈がしそうな程に眩しい光景が脳裏に直接流れ込んで来て、ルーナエレンは一瞬で意識を持っていかれそうになる。

 咄嗟に呼吸も止めてしまっていた様で、テーブルを挟んだ向かい側から、大きな掌が頭をゆるりと撫でた所で惹き込まれそうになっていた光景から、現実に戻る事が出来た。


 微かに震えるルーナエレンの様子と手を出してきたレオナルドに、アレンハワードはすぐに核の載ったトレーをテーブルに戻し、愛娘を抱きしめた。


「ああ、エレン。無理を‥‥させてしまったね。ごめん、有難う」

「頑張ったな、エレン」


 二人が代わる代わる労り優しくルーナエレンを落ち着かせている間に、カーターは静かに席を立ち、作業台からメモを取れるよう繰り返し使える筆記用の魔道具を取りに行き、静かに戻って来ていた。


 そして、レオナルドが立ち上がってアレンハワードの横に移動し、テーブルを挟んだ向かいのソファーが空いたのでそこに座って手早く持って来た筆記具の準備を整える。

 いつの間にか工房から辞していたコニーが、再び暖かい飲み物をワゴンに用意して戻って来る頃には、ルーナエレンの様子も幾分か落ち着いていた。


 可愛らしい小さな桜色の唇から、貰ったホットミルクの湯気と一緒に小さく息を吐き、ルーナエレンは話し始める。


「おねえさんのおはなのしゅるいは、ええとね、つながってたの。いっぱい、いーっぱいつながってて」


 自分の視えたモノを言語化するのに、思い返しながら整理しながら、懸命に語る。


「どんどん、たくさんのみどりが、つながればつながっただけ、キラキラがまぶしくてながれがはやくなって、みてるエレンもいっしょに、どんどんうえにつれていかれそうになっちゃったの」


 『視』ても普段は自分自身まで巻き込まれる事など無かったのだろう。

 初めて起きたその状態に思わず恐怖し、納得行くまできちんと視る事が出来なかったのが悔しい様子だ。


 言葉を待ちながらもアレンハワードは、思わず俯き具合で沈む様子の愛娘のまろい頭を、慰める様に優しく撫でる。


「‥‥その流れの先、エレンは何か見たか感じるかしたか?例えば、銀色の樹の幹の林とか」


 口振りからは、彼女が視た景色というか情景に予想がついている様に思われるレオナルドの問いかけに、アレンハワードは何も言わない。


「いったことないくらい、うえにながされたから、こわくなって‥‥そこでみるの、やめちゃったの。でも、おねえさんはもうすこしうえまで、のぼったんだとおもう。き?は、まぶしくてしろっぽかった、とおもう」

「成程な‥‥大体理解した。エレンが怖がって引き返してくれて良かったというか、後が怖いっていうか‥‥」


 後半はやや独り言なのか、レオナルドも誰に聞かせる訳でも無い言葉であるが故の呟きだった為、その場に居た誰もが納得した様子以外を気に留めない。

 理解したと発言したからには、恐らくドライアドとしての格やその核が変化した先の花との関連も、一応回答を得たと取って良いのだろう。


 ルーナエレンもレオナルドが大体とはいえ理解したと言葉に出した事で、何処かほっとした様子で、まだ暖かいミルクの入ったマグカップを小さな掌で抱え持ち、少しだけアレンハワードの上体に背中を預けてから、ややあって他にも視えた感情や属性などを思い起こして頭の中で整理をし、再び話し始めた。


「それからたまごがちゃんと、ふか?したのを、とってもよろこんでたの。くろからの、ええと、この『しんじょ』もひなもおねえさんも、かいほうされてすごくほっとしていたのが、エレンにもすごく‥‥つたわったの」


 核を視て触れた喜びや安堵の感情を思い出したのだろう。


 彼女の幼く愛らしい顔に自然と花が綻ぶ様な笑みがふんわりと浮かび、それを周りの保護者達がほっこりとした気持ちで見守る。


「あ!あとは、はじめから、もりとじめんがとってもつよかったみたい。それと、ええと‥‥くうきをふるわせる?のがとくいって」

「んん?空気?風は呪いがあるくらいだから無理だし、振るわせる?」

「空気と振動‥‥音や、例えば歌?」

「うた‥‥あのちかで、そういえばきこえてた」


「ドライアドの歌‥‥」と呟きを漏らしたアレンハワードは、継承されている記憶も含め過去に読み解いた文献や専門書を脳内で辿る。


 カーターがふと筆記具から視線を上げたのを見て、思い出した様に問いかける。


「カーターさんは、このモルガンでそんな伝承や詳しい方の話を、耳にした事は?」

「‥‥ええ、遥か過去に緑の女王の歌についての、歴代当主様保有の資料がございました。ただ、現当主様は現役の契約者でございますが、歌についてわたくしめは聞いた事がございませんね」


 アレンハワードの問い掛けにカーターがそう答えた途端、けろりとした口調でレオナルドが爆弾を落とす。


「当たり前だ、女王ってんだからメルヴィンに出来るわきゃ無いだろ?」

「?!」


 言葉を投下した本人は気にも留めて居ないが、カーターは聞いてはいけない秘密を知ってしまった気分になる。

 幾らもう主従関係は解消したとはいえ、彼の当主が幼少の(みぎり)に初めての熱病に罹り、未だ本気かどうかは判断出来ないが会話の前後の挨拶の様に、メルヴィンの美を褒め讃えその流れで口説くのを、長年傍に仕えながら見守り続けて来たのだから。


 そして綺麗に表情を取り繕ったまま内心で少なからず動揺しているカーターを、レオナルドは首を一瞬傾げただけで無情にも終わらせてしまう。


「まぁ何にせよ、割と本気で進化してしまったみたいだから、他の要素はあんまり気にしなくていいだろ」


 レオナルドの無責任な言い分に、アレンハワードは一瞬上位世界のパワーバランスを気にしなくて良いのかと突っ込みたくなったが、それを問うたとてきっと彼にとって無価値と断じるのを理解しているので、そのまま沈黙を守りつつ膝の上の愛娘の頭を撫でながら、頷いて同意を示しておく。


 そうして大人達の会話が途切れるのを待っていたルーナエレンが、こてりと小首を傾げて問いかけた。


「じゃあ、エレンがこねこね?」

「いやいやいや、そんな高待遇は必要ない。脅威も取り除いてやって、栄養もぐんぐん吸って、この上エレンに捏ねて貰おうなんざ、舐めてんのかって話だから」


 可愛い問い掛けに返されたレオナルドの声が、成人男性の姿を取っている為もあるのかも知れないが本当に低い。

 そして機嫌も低くなっている様子で、彼は雑に核を摘むと席を立ちズンズンとコニーに歩み寄る。


「コニー。裏庭の隅っこの方、陽の当たらないとこに適当に埋めて来い!」

「え、急に雑!」

「緑の女王なのですよね?!」


 今度は突っ込まずにはいられなかったのか、アレンハワードのツッコミと息の合った追撃がカーターからも上がる。


 けれど、コニーは心得た様子ですぐ様トレーに核を受け取って載せると、猛ダッシュで図書室へ駆け上がり裏庭の方へと消えてしまった。


「ええ?本当に、緑の女王ですよね?!」

「だからと言って、この屋敷では乳母扱いと決定済みだ!カーター、同僚で然も後輩だぞ!?そんな単語なんて忘れてしまえ!」

「えぇ‥‥」


 カーターにとっては何とも恐れ多い事なのだが、生憎この場にいる誰一人として反論も異論も口にしない。


 出来る元侍従長は、早々に未だ見ぬ同僚兼後輩の立場改善を諦め、魔道具製作だけではなくレオナルドの行動原理やパターンをなるべく早急に理解すべく、より努力しようと考えを切り替える。


 短い間ながらもそこにカーターの逡巡があり、何を思ったのか手に取る様に理解出来てしまったアレンハワードは、思わず苦笑いを浮かべた。


 そして先程のこねこね発言の後から、膝の上で自分に持たれる様に身を任せたまま一言も発しない愛娘の身体が、おねむモードでほかほかし始めているのを感じ、アレンハワードはカーターに微笑み視線で愛娘のお昼寝タイムをお願いする。


 ついでに彼も、少し現在の状況を考える時間も持てるだろう。


 眠ってしまったルーナエレンを起こさぬよう膝からそっと抱き上げ、図書室の二階の扉から暖炉の前へ向かう事にしたカーターを見送りながら、もう既に(カーター)を身内として自身も自然と把握しているのだと改めて自覚したアレンハワードは、くすりと笑った。





お読み頂き、有難うございます٩( ᐛ )و


ルークとルディの扱いを今後どうしようかと悩んでおります。

こんな雰囲気にしよう!と思ってても、書いてる途中で大脱線や大暴投を始める人達。。。


シリアスってどうするんだっけ?_(:3 」∠)_

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