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呪われ魔導師と秘密の至宝  作者: 七縁ささみ
一章
71/150

71、お説教

 

 近頃すっかりと正座の姿勢も様になってきたレオナルドを目の前にして、アレンハワードはついつい深い溜息を吐きたくなる。


「君と良く似た純粋な黒が、丁度君が()()()に雛からも滲み出して視えたんだけど、どういう事?色々と、本当に色々と包み隠さず全ての企みを含めて、きちんと説明してくれないかな?脅す訳じゃあないけれど、私の心の内に僅かでも、君に対する不信感があるとエレンが感じたら、どうなるかは想像に難くないよね?」


 お手柔らかにと釘を刺したのにも関わらず、話し合いと言いつつ雛の精神体を閉じ込めて圧迫面接をやらかしたレオナルドに対して、アレンハワードは複雑な心境と狂気を感じて正直ドン引きしていた。


 かれこれ共に過ごす様になって二年半。


 箱庭の常識など欠片も興味がないレオナルドだが、ルーナエレンに対しての執着だけは本物であり純粋である為、何処までも過保護になれるし過激になれるのを、実体験として箱庭に存在する誰よりも理解しているのはアレンハワードである。

 そして、今現在ルーナエレンが未だ箱庭に肯定的である事も、レオナルドの過激な行動を抑制する良い原材料である事も理解している。


 結局のところ、超常の存在でありながらレオナルドが自分(アレンハワード)個人に寛容なのは、ルーナエレンが在っての事である。彼女を健やかに育む手段であるが故に、実父であるアレンハワードにも親愛の情を配分し側に存在を許している。


 そして彼女の育成環境として、少しずつ味方というか手駒と影響力をこっそりと増やしているのだろう。


 ただ、今回雛が原始の重要な本物の始祖でありながら種として初見である為、その生態情報が余りにも無さすぎな上、孵化までに要した規格外な時間とエネルギーによって性質や力量の変質であったり、また孵化したばかりではあるが精神の成長具合を慎重に確認しなければならなかった。


 呪いの影響に長時間晒されていた事も含めて上記の調査を行い、それらを全て含めて今後の育成環境、教育の方針も諸々と調査と試行錯誤が必要になるので、本来いきなりではなく事前にある程度の相談は当然である筈だ。


 何よりも雛はこの箱庭に欠かせない要素であるだろう事は、アレンハワードにも十二分に理解出来ている。


 理解は出来ていても、愛娘至上主義を全力で歩む現在のアレンハワードには、依頼を受けたから少し手助けするだけのつもりだったのに、この調子では何処まで深く関わらなくてはならないのか、それが気掛かりで仕方がない。


 自分の残り少ない時間は、ほぼ全てルーナエレンの為にだけ向けたいのが本音中の本音であり、愛娘が苦労するかも知れない事象を近くに態々招いてまで置きたくない。


 レオナルドが雛を深く繋いだのだと直感的に理解してしまって、生来身勝手である彼に憤るのはお門違いではあるのだが、この状況に心が冷え込んでしまったのだ。


 自分の心と精神のバランスを欠くと、抑制している膨大な魔力のぎりぎりの均衡が大きく崩れ、肉体と精神体の器を傷付けてしまう。


 先日の怨嗟を身に受けてからずっと両眼の奥が熱を持ち、脳へと直接熱した針を突き刺すような痛みがアレンハワードを苛んでいるのも、ここまで心を乱してしまう一因となっているのだ。


 ルーナエレンが渾身の力作である護符を贈ってくれなければ、取り繕う事は出来なかった程に。


 それら諸々の負荷と感情が、氷のオーラとなってアレンハワードからどうしようもなく溢れてしまっていた。

 唯ならぬ鬼気迫る凍気に、思わずレオナルドも身を震わせる。


「そ、相談しなかったのは、本当に悪かった‥‥です」

「本当に悪かった、ね。それで?」


 つい最近同じ様な台詞を聞いたばかりだと凍てついた微笑みを浮かべ、言い訳がましい言葉を復唱して見せた姿に、今現在もゆるゆると彼の機嫌が降下中だと気付いたレオナルドは、不意に情けない程に視線を泳がせたかと思うと、数度躊躇うように口を開け閉めし、一度きゅっと固く唇を噛み締めた。


 そして、恐る恐ると言った風に話し始める。


「怒らないで聞いて欲しい、というのは図々しいのは解っているんだが‥‥」


 既に怒っている相手に叱られるのが確定しているにも関わらず言う前置きでは無い。ので、その言葉に対する返事は祖国ネヴァンにある北の極寒地帯にあたる山麓よりも冷ややかだ。


「聞くだけ聞こう」


 ごくりと喉を鳴らし、レオナルドは目を逸らすようやや俯きながら、それでも意を決して話し出した。


「‥‥雛をオレの最上位の眷属にした。言うなれば、これは神格を以てしての親子となった、と思ってくれればいい」

「ちょっと待て、それは」

「あれは始祖だ、しかも原始の。限りなく箱庭に於いて、無垢な力であり長年歪んだ影響が無意識下に蓄積された雛だ。エレンが箱庭を諦めない限りは、必要な存在だ。そうだろう?」

「‥‥‥」


 痛いほどの凍えた空気と沈黙の中、カーターは身動ぎも出来ないまま重い話題と雰囲気に、ピシリと伸ばした背中に冷汗が伝う感覚を、どこか遠くを見るようにしてやり過ごす。


 今の自分は、只管に居ない者として振る舞う。

 ただそれだけに集中しつつ、その上で話の内容も何とか記憶に留めるように努めた。


 暫く工房内には沈黙が続いたが、それに耐えかねたのか再び口火を切ったのはまたもレオナルドの方。


「幸いにもあの雛は、力関係を初見で測れる聡い頭脳と冷静さを持っていたし、オレをほぼ正しく認識している!これで親としてオレが雛の手綱を握れば、抑止力にも牽制にも守護にもなれる。何よりもあの雛の感じからすると、孵化する以前からの外界の情報も薄らだが、蓄積されていると推測される。これは、サリヴァンが有する記憶継承とかなり近い状態とも言えるんじゃないか?という事は、同年代としてエレンの側に置いても、知的感覚は他の有象無象よりも遥かに相応しいのではないかとオレは思う!」


 次第に調子付くように捲し立て、熱弁を振るうレオナルドに、アレンハワードのアイスブルーの視線は限りなく冷えて行く。

 アレンハワードの直感が、碌でもない何かをそれらしい言の葉の裏に隠していると告げていた。


「‥‥‥本音は?」

「エレンにお義父さんって言われたいっ」

「レオナルドぉぉっ!!」

「お、怒らないでって言ったじゃないかぁ!」

「図々しいって自覚してた奴が何を言う!!!」


 本音をぶちまけた段階で、アレンハワードはゆらりと立ち上がって残念な黒獅子少女へと音もなく歩み寄り、ぎちぎちと小振りな可愛らしい頭を鷲掴みにして、瞬時に魔力だけで掴んだ頭部を凍らせて行く。

 ギャアギャアとレオナルドが喚いて抗議するも、普段温厚で穏やかなアレンハワードの、地を這う様な低い美声はそれだけで重力を以て対象者を地面へ減り込ませる。


「だ!いだだだ!!!やめてっ!頭欠ける!!ちょっと、洒落にならないからってば!」

「洒落で言うレベルを超えてるから、怒ってるんだろう!!!」

「だってほら!エレンの親ポジションはママ枠無理なんだから仕方ないだろ!!!」

「当たり前だ!!!」

「あーー!!!待て待って無理ちょ‥‥‥」


 ママ枠という言葉がレオナルドの口から滑り出た瞬間、アレンハワードの掌から全身にあった怨嗟の痛みがバチりと電気を帯びて走り、意図せぬままにレオナルドの方へと駆け抜けた。


 途端に、びくん!っと身体を震わせたレオナルドの頭から、プスプスと煙が燻る様に微かに立ち上り、がくりと力を無くした上体が横倒しになる。


 アレンハワードの手は先程の謎の放電と共に、自然と(レオナルド)の頭から外れており、そのまま暫く無表情で倒れたレオナルドを黙って見下ろしていたが、はぁ〜っと溜息を軽く吐いてから壁際に控えていたカーターへと視線を巡らせた。


 その表情は、若干硬いものの既にいつもの穏やかさを讃えたアレンハワードそのもので、カーターは漸く詰めていた息をひっそりと吐き出しす事が出来た。


「吃驚したでしょう、カーターさん。()()は暫く放置しておいて大丈夫です」

「え、ええ。畏まりました‥‥」


 放置を推奨されたものの、実際はどうしたものかと内心でオロオロとするカーターに対して、アレンハワードはにこやかに低い声で「どうせエレンが起きれば復活しますから」と告げると、上階の図書室へと静かに歩き出す。


 その後ろ姿を見送りながら、カーターはこの場で繰り広げられた、深刻なのか冗談なのかいまいち釈然としない混沌としたやり取りの内容を思い返し、自分の中で分析整理を朝食の後にでもしようと考え、移動を開始したのだった。





お読み頂き、有難うございます٩( ᐛ )و


メルヴィンさんがイロモノとして出てこないせいなのか、レオナルドさんが最近弾けて困ってます。

困ってるのは専ら、アレンハワードとカーターさんですが_(:3 」∠)_


勝手に電撃は、ママンの仕業。


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