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呪われ魔導師と秘密の至宝  作者: 七縁ささみ
一章
70/150

70、密談(報連相)其の2

引き続き前半はピータンあらため、雛(名前はまだない)視点です。

後半ちょろっとからは通常に戻しております。




 

 ボクの意識がはっきりとした時、再びあの時と同じ圧倒的な力に『隔離』されていた。


 外の世界に漸く出られたと思った矢先、あらゆる感覚が無い上に今までの薄暗く霞んだ思考が無くなっているものの、其処に存在すると学んだ筈の大地や空気、生き物の気配も温もりも、逆に寒さすら感じる事が出来ない現状に、徐々に不安が心にじわりじわりと染み入ってくる。


 そんな不安に思わずきょとりと周囲を見回すも、白なのか黒なのかも分からない空間でボクは唯独り、孤独に存在している自分自身にいよいよ混乱し始めた頃。


 ふと、上の方から低く心地良い声がボクに向けられた。


「寝坊助め、やっと起きたか」

『?!』


 吃驚して息を呑み、顔を上げたつもりだったが何も起こらない事にボクは益々混乱を深めたが、声の主が思い出したように事情を軽く説明してくれた。


「オレの空間に、お前の精神だけをちょっと呼び出した」

『!!!』


 その声を認識した途端目の前に顕れたのは、身の危険を感じる程の圧倒的な存在感の黒い獅子。

 精神だけとなっているからこそ直接『本質』を叩き込まれる、姿が視界ではなく存在自体を強制的に知覚させられる。


 古龍の雛であるボクよりも遥かに高位にある存在だと、本能が警鐘を鳴らす。


「流石にようやく孵った山と古龍の雛に手を出すつもりは特にない。‥‥とはいえ、それもお前次第だ」


 ニヤリと器用に口の端を歪め、鋭い牙を覗かせながら獰猛に嗤う黒い獅子。


 あのじわじわと侵食して来ていた『黒』とは格が明らかに違う、本当の最高級の『黒』さの権化が、目の前でボクに向かって手を差し出した。


「なんだ、孵化して間もないと、まだこの状態では話せないのか?」


 そう言って無造作にボクに向かって大きな手を翳し、瞬間全身に耐え難いほどの痺れが走る。


 一体どれくらいの時間が流れたのか、それともほんの数秒なのか分からなかったが、ボクの中の何かが著しく書き換えられた様な感覚を覚える。


 痛い、苦しい、痺れる。此処には、肉体は無いと言われたのにも関わらず、容赦のない苦痛がボクを満遍なく襲う。


『なにを、したのですか』

「んん?お前とちょっと話がしたくてな。それによって、オレが何をどうすべきかが変わるから」


 穏やかな低い声だが、少しも気を抜けない様な威圧感がある。

 全身に走る痺れも、ちっとも回復しないままだ。


 これはきっと、この目の前の上位者の警告であり、ボクが従わなかった場合に対する明確な指標なのだろう。


「あ、何か勘違いしてるみたいだけど()()な?精神体の時間をちょっとだけ巻き戻してやっただけなんだ。あの後の状態、オレ見れなかったからさぁ」

『?!?!』

「まぁいい、続けよう。お前、国は欲しいか?」

『くに?‥‥いいえ、とくには』

「ふぅん。じゃあ、お前にとって今、一番大事な存在は居るか?」

『‥‥‥たい、せつ』


 ボクはまだその姿を目に映してはいないし、その存在を遠くから感じただけ。

 性別も、名前も、何も知らない。

 だけど、あのどうしようもなく惹かれる魂だけは鮮烈に覚えている。


 どう答えたら良いのか分からず、うまく言葉に出来ないままのボクを見つめる冷たい青い眼を、必死に見上げる事しか出来ない。


「ふむ、じゃあもう一つ。お前をずっと護っていた存在はどうだ?覚えているか?」

『おぼえて、います』


 今度はすんなりと答えたボクを、黒い獅子は面白そうに嗤った。


『あなたは、あのとき『黒』いなにかから、かいほうしてくれた方なのですか?』

「まぁ、オレもその時居た内の一人では、ある」

『ありがとうございます。あのままではボクはきっと、その、たいせつ?をこわしていました』

「ほぉ、自覚はあったのか」


 全身の痺れがより一層強くなり、ボクは目の前の存在の所謂逆鱗に関する話題に触れたのだと自覚する。

 でもボクはどうしても、あの時のボクを止めてくれた目の前の黒い獅子に、最上の礼を尽くさなければならないと思ったのだ。


『はい、そうなっていればもう、ボクはうまれたいみなど、なくなってしまっていたから』

「‥‥なかなかに情熱的な台詞だな。機会があれば、オレも使ってみるか」

『こうえい、です』


 軽口を叩きくすくすと笑いを漏らす獅子は、先程の返答に少しだけ機嫌を上げた様子で、それだけでボクの全身に走る激しい痺れがほんの僅かに緩くなった。


「思ってたよりお前、見所ありそうだ」

『‥‥ほんとう、ですか?』


 こんな風に認められるなんて思ってもいなかったからか、少し誇らしく感じる。


 本来途轍もなくプライドが高いはずの『古龍』の雛であるボクに、こんな感情を抱かせるこの獅子は。

 きっと最上位に近しい神に違いないと確信を持つ。


 だって不思議と反抗心は起きないし、逆らおうとも思わない。


「ふっ、何だよエラく可愛らしいじゃないか。これならオレが育ててやっても良いかも知れないなぁ?」

『え?』

「腹黒さも見えるが、こうやって力の上下がきちんと測れてるし、自分よりも上位の者に対する態度がもうきちんと取れている。お前の頑張り次第では、オレも正真正銘の義理の父親ポジション取れそうだし」


 獅子の言葉は褒め言葉とは一般的に言われない部分もあったが、ボクには全てが褒め言葉だと思えたし、全体的に話している内容の具体的な意味は分からなかったが、本能的に全肯定すべき言葉だと感じたので、咄嗟に口を突いて出た単語だったが後悔は無かった。


『ち、ちちうえ』


 ピクリと黒い獅子の耳が揺れたのを、ボクは見逃さなかった。


「お前、オレの事を父と呼ぶのか?」

『さきほど、ボクをそだててくださると。ならばちちうえと、およびすべきでしょう?』

「なかなかあざとい雛だな、お前。その調子で上手く立ち回りが出来れば、良い線行けそうだし‥‥‥ふむ、多少叱られるのは覚悟するとして」


 否定的な言葉が出ない事に、ボクは徐々に身体の力を抜いて行き、結果身を苛んでいた痺れも次第に和らいでゆく。


「オレの魂と魔力で、お前を眷属最上位として絆を結んでやろう。‥‥これで正式に、お前はオレの子だ。肉体的生物学上のお前の両親も、歓迎こそすれ拒否はすまいよ。有難く思えよ?」


 ボクの額に黒い獅子の額がコツリと当たり、同時に膨大な魔力と何かが流れ込んでくる。


 否応なしに意識が膨大な力の激流に飲み込まれ、ボクはニヤリと嗤った黒い獅子の存在の前から、木の葉のように流れに弄ばれながら遥か遠くに流される様な錯覚に陥り、再び意識を手放してしまった。









 * * * * *







 お話し合いと施術を終えたレオナルドが、暖炉の前で仲良く眠っている幼子と雛からそっと離れようと立ち上がった瞬間、音も立てずにカーターが背後から声を潜めて用件を告げて来た。


「レオナルド様、アレンハワード様が地階作業室にてお待ちでございます」

「ひぃ」


 カーターは驚き飛び上がるように振り返った口の悪い少女に、ほんの少しだけ困った様な表情を見せる。


 もうそれだけでこの場に居ない相棒の、現在のご機嫌も押し図る事が出来てしまったし、自分の身にお説教がすぐ其処まで迫っているのだと理解出来てしまった。


「今、いきまーす‥‥。んん、カーターも?」

「共に報連相、と伺っております」


 トボトボと歩き始めたレオナルドの背後に、カーターが静かに付き従うよう歩いてくるので思わず聞くと、同行と言われて若干項垂れてしまう。


「まぁカーターには元所属国で関係ある話な訳だし‥‥、もううちの身内、だもんな」

「光栄にございます」


 柔らかく好々爺然と笑まれては、溜息しか出ない。

 彼は彼なりに、もう色々と覚悟を持っているのだろう。


 コニーが相変わらず暖炉の前では控えているので、まだ目覚めていない幼い二人にも特に問題は無いだろう。

 今や同じ眷属になったのだから、喰われた片脚の報復などは無い、と思いたい。


 観念したレオナルドは重い足取りで、カーターを従えて一階の図書室の扉を潜り、そのまま地階へ降りて行った。


 そして、作業机ではなく横に設られた休憩スペースへ視線を巡らせ、一瞬で身を固く凍らせる。


「お帰り、レオナルド。床に正座の意味、分かるよね?」

「かしこまりぃ」


 世にも美しい氷の大魔王の微笑みは、今現在この箱庭のどんな存在よりも神々しくも恐ろしく、また最凶なのだとカーターも魂に刻む程だったとは、後の彼の言である。





お読み頂き、ありがとうございます٩( ᐛ )و


次回。

雰囲気的には


「わんこ拾った!飼っていい?!」

「落ち着け」


みたいな感じかも?

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