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呪われ魔導師と秘密の至宝  作者: 七縁ささみ
一章
67/150

67、繭の中 其の3

更新が大変遅くなり、申し訳ありません。


少し、短めです。


 

 轟音の後、濛々(もうもう)と土埃や飛び散ったと思われる外壁の細かい破片が視界を覆い隠す。


 不気味で巨大な根が暴れ回り壁を抉るような衝突をしていた時ですら、多少の擦れた程度の痕跡しか出来ていなかったのを思うに、コニーの渾身の蹴りの破壊力はアレンハワードの整った容貌をほんの少し引き攣らせるに十分だった。


「うわぁ、えっぐ」

「‥‥あれ、口っぽいとこに命中してた、よね?」


 二人が目にした衝撃映像は、孵化したばかり?の御子(仮)の異形へと変形途中の口内へ、愛娘が用意した木の実爆弾(詳細不明)をコニーが全力の一蹴りで叩き込み、その破格の動力のまま異形の身体を壁まで吹っ飛ばし、更にとても頑丈(だと思われる)な壁にめり込ませたというもの。


 一見サイズも見た目も可愛らしいコニーの、しかも手負い状態での破壊力に、思考能力が若干現実逃避をしてしまったのも仕方ない。


 脅威は反対側の壁に叩きつけた事により一応は遠去かっているのだが、保護者二人が若干引いている間にルーナエレンは身を起こし、渾身の蹴りを放ったものの反動で転がってしまったコニーの元へ向かっていた。


「ちょっと疑問なんだけどさ、いくら古龍の雛でも‥‥口内や内臓への直接攻撃は、割とダメージやばいよな?」

「え?竜種なんて、会った事無いけど多分‥‥。エレンが出したのって、ケッシュの実‥‥と、何?」

「分からん、でも、どっちも生だったな‥‥」


 ようやくある程度見渡せる様になった視界の端で、壁から剥がれ落ちた古龍の雛を注意しながらも、コニーの元まで無事辿り着きひっしとふわふわを抱き締める愛娘を見て。

 レオナルドとアレンハワードはつい、すごい勢いでルーナエレンが用意したあの豪速球の正体を推測し合う。


 二人とも愛娘が初めて見せる剣幕と勢いに呑まれて、彼女が取り出した木の実が何であったのかという印象が、余り残っていない。


 辛うじて手製の魔術式で効果を強くした薬の生成の知識を持つアレンハワードが推測したのは、分厚い緑色の皮のケッシュという子供の拳よりやや大きい木の実で、実の部分自体は生食には向かない程口内の奥に直接働きかける強い酸味とえぐ味が特徴の木の実であり、温暖な気候の水が多い場所が原産の植物だ。


 本来であれば実の分厚い外皮に多く含まれる爽やかな香りがする油分が、単品でも炎症を抑える応急手当てに足る効果を持っており、内側の実には余り需要はない。

 アレンハワードはその油分を薬効の一部利用だけではなく、独自に自宅用の身の回りの洗剤類にも良く調合して利用しているのである種サリヴァン家ではお馴染みの木の実でもある。


 そして生食に向かない内側の果実の部分は、纏めて絞って数年単位で発酵させ、粘度がやや増した原液を数滴畑にやる水に混ぜて作物全体に噴霧すると、花や作物についた虫や雑菌を駆除出来る、所謂有機農薬となる。


 そのどちらもアレンハワードが頻繁に作る為、確かに収納にも大量に貯蔵しているのでルーナエレンが取り出したのはそれなのだろう。


 だが、もう一つの木の実の印象が、二人ともに余り残っていない。


 どちらにせよ、きちんとした生き物で内臓が機能するのであれば、ケッシュの実の生状態でフリーズドライしたものが丸々一個、ダイレクトで丸っと消化器官に入ったと予測出来る状態で。


「もしかして、時限式の嫌がらせ?いや、エレンがそんな悪意なんて」

「コニーの足を食べたから、なのかも‥‥」

「ああ、確かにそれなら吐き出すか」


 もう一つの木の実についてはまだ不明だが、何となく保護者二人はルーナエレンの意図する爆弾の効果の一端を解明して嘆息した。








 * * * * *






 碌に戦闘らしい戦闘を経ないまま、古龍の雛らしき存在は拘束されて床に転がっていた。


 全身柔らかい産毛らしき濃い灰色の毛に覆われ、短めの尻尾の先まで入れると三歳の女児であるルーナエレンより少しばかり小さい程度の体躯であり、龍の口にしては小振りで小さな口ではあるが、既にぎっしりと鋭い乳歯が生えており、全体的に小さいが爪もかなりの脅威と予測出来る代物だった。


 だが、それらの脅威を振るえない様に全身の各所を、即席であの抱っこ紐を応用した魔道具でもって拘束したのは、保護者達でもカーターでもメルヴィンでも無く、ルーナエレンであった。


 あの木の実爆弾?を作った時と同様の手際の良さだったのが、彼女の本気を窺わせる。


「かはっ!ゲェっ!ガッ‥‥ガハッ!!」

「おぉぅ‥‥」


 体内しかも消化器官へのダイレクトな多段物理攻撃を受けてか、雛はしきりに青緑の大きな眼に生理的な涙を浮かべつつ、苦しげに胃の内容物を吐出していた。

 木の実の効果なのか、プルプルと身体を震わせ噎せている姿は哀れでしかない。


 レオナルドが若干引き気味に様子を見る間にも、変形し始めていた雛の体毛が少しずつ少しずつ、歪に歪んだ姿が小さく落ち着き更に色が薄くなって行くのが見てとれた。


 そして最後に一頻り激しく嘔吐した後、雛は動かなくなってしまった。


「エレン?」


 心配そうな声音で父親に呼びかけられたルーナエレンは、きゅっと可愛らしい眉を寄せてコニーを抱きしめたまま、とととっと保護者二人の元に戻って来る。


「とうさま、あのこのからだ、あらえる?」

「ああ、お安い御用だよ。もう、近付いても平気?」

「うん、あ!あのおちてるの、しろいひで、やいてほしいの」


 どうやら雛の身体を洗浄し、吐瀉物も超高温で灼き尽くす事をお望みの様だ。


「コニーのあし、はんぶんとけちゃったみたい。でも、それでくろいの、はがせたの」

「ああ、成る程。じゃあここはどうする?消すか?」


 雛の身体をアレンハワードが少し風で浮かせて水の魔術で洗浄し、レオナルドがすかさず温風をかけて濡れた体毛を乾燥させる。

 その流作業ですぐさま地面も注文通りの処理を終え、レオナルドが周囲を仰ぎ見ながらぎらりと青い目を光らせたが、ルーナエレンはふるふると小さく首を振ると大きく息を吸い込んだ。


 そして僅かばかりの灰というよりも煤の跡が残っただけの地面すぐ近くまで再び戻り、小さな両手を翳して呟く。


「ちゃんと、かえって。また、あえる」


 願いと魔力と希望を道標にするように、コニーの素となった魔素の清廉さもルーナエレンの浄化の魔術も、混ざり合い織り重なって眩く白く光って舞い始める。


 何となく、この場所はもう大丈夫だと、アレンハワードは理解した。


「じゃあ、地上へ戻ろうか」

「うん、まだもうちょっと、てあてしないと‥‥」


 先程までの張り詰めた雰囲気がすっかり元に戻った愛娘ではあったが、今度は幾分言葉に詰まりながら可愛らしい紫水晶の瞳を泳がせている。


 これはきっと爆弾成分の容赦の無さからくる後めたさなのだろうと合点が行くが、珍しい表情についつい微笑ましくなって追求を後回しにして撤収を開始する事にする。


「はは!古龍をもノックダウンする爆弾レシピ、後世にちゃんと残さないとな!」

「し!レオナルド!」


 自らの腕の中に掬い上げた愛娘がしっかりとしがみついて顔を隠すので、声が笑ってしまわないよう相棒を咎めるものの、どうしても締まらない空気になってしまう。


「はぁ、なんかめっちゃ拍子抜け。帰ろー」

「いやいや、準備も万端で手数も充実させて来たからね」

「エレンに最後、全部持って行かれたけどな!」

「‥‥はは」


 しがみつく手の力が一瞬強くなったのを感じて、アレンハワードは敢えて曖昧に乾いた笑いのみを返したのだった。

















 

お読み頂き、有難うございます٩( ᐛ )و



急に秋が深まって来ましたね。

皆様も、体調にはくれぐれもお気を付けてお過ごし下さいませ( ´ ▽ ` )


ぴーたんは、活躍するはずだったんだけど嘔吐促進剤と麻痺薬(クソ不味い劇薬)みたいなの盛られたと思って下さいませ。

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