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呪われ魔導師と秘密の至宝  作者: 七縁ささみ
一章
64/150

64、深き地の闇へ

更新が一週間遅くなり申し訳ありません_:(´ཀ`」 ∠):

皆様も、熱中症などにくれぐれもご注意下さいね!


そして、今回も短めです。

 

 要塞砦の最奥にある、滝の飛沫が朝霧に混じる早朝。


 水場に面した巨大な菩提樹のやや湿った樹皮にメルヴィンの指先が触れると、立ち所にするすると足元から大小の根が複雑に絡み合いながら伸び上がり、大の大人二人分程の高さの重厚で歴史を思わせる荘厳な大扉が顕われる。


 指先をその大扉に触れさせたまま、メルヴィンが更にそっと両掌を揃えて表面に当てると、大扉全面に施されていたやや霞んだながらも緻密な樹木のレリーフが薄らと光を宿し、ゆっくりと優しく払い上げるような動きで左右に腕を振うと、巨大な扉が低い音を軋ませながら空間毎開かれて行く。


 これから向かう領域へ繋がる扉の解錠作業を終えたメルヴィンが、不安そうな眼差しを若干彷徨わせた後レオナルドに向ける。


「さて、行こうか」


 この先何が起こるのか、メルヴィンにも分からない。

 自分では絶望的な状況であり、自分の支配領域を自身の権能で最大限守護すべく対応している。


 それでも、これから長い永い歴史の陰で蓄積されてきた『呪い』と、それを宿してしまった始祖とその守護と相対するのだ。

 下手をしたら要塞砦が跡形も無く姿を消すだけでは終わらず、国自体の消失もあり得るかもしれない。


 縋る思いで少し離れた場所に居るアレンハワードと、その腕に抱かれ大扉の先のずっと下層を視ているらしきルーナエレンに視線を向ける。


「エレン?大丈夫かい?」

「‥‥うん」

「そう。何か聴こえたり気付いたら、父様やレオナ、それからカーターさんにちゃんと伝えて?何があってもコニーと離れたらいけないよ?」


 自分にしか聴こえなかったり視えなかったりするモノがあるのはしっかりと理解出来ているルーナエレンは、神妙な面持ちでこくりと頷いて見せると、ぎゅっと父親の首に抱き付いた。

 全身全霊で信頼していると判るその親娘の遣り取りに、横の低い場所から威勢の良い幼い声が上がる。


『俺モ!姫カラ離レナイ!』

「お前は遊撃担当」

『嫌ダ!』

「護衛ってお前が言ったんだろ?一番足が速いんだから、しっかりエレンを護る為に動け」

『遊撃ハ護衛?』

「そんな感じだ頑張れ」


 大扉を潜った先の広めのポーチに立ち入ると、緊張を解す様にルークを相手にレオナルドが軽口混じりに適当な指示を出す。

 そんな様子を横目で見ながら全員が大扉の内側に揃ったのを確認し、メルヴィンは外界からの介入が無いようにこの場に居る者の魔力以外では、大扉の開閉が一時的に出来ない様幾重にも封印を施した。


『最下層を刺激しない範囲でしか移動距離と時間は短縮は出来ませんが、工程の半分程度は距離が稼げますので私に掴まって下さい』

「あ、エレンはそのまま、アレンはオレとだ。カーターはコニたんに触れてたら平気だろ。で、ルークは一応メルヴィンと来い」

『えぇぇ‥‥』

「何だ不満そうなツラしやがって。オレが直々にお前についてってやるって言ってんだろ?」


 純粋にルーナエレンやアレンハワードに他者を触れさせたくない気持ちも大半なのだろうが、『呪い』に深く侵食された半身に何処までこちらの状況が伝わるのか、判別出来ない状況なのだ。

 そんな中で、曰くのある高魔力保持者をメルヴィンではなくより力のある者が保護し連れて行くという申出なので、それ以上誰も異論の声を挙げない。


 結局、ルディの姿をしたルークを連れたメルヴィンが、ポーチの床に溶けるように姿を消すと、カーターと二足歩行状態のコニー、そして黒い艶やかな長い尻尾をルーナエレンの小さなお手手に握らせてご満悦な獣姿のレオナルドが、相次いでふわりと姿を消していた。







 * * * * *





 薄暗く僅かに光る壁一面の苔のお陰で、冷んやりとしつつも程よい湿度と視界も確保出来ている。

 巨大な樹木の根深い場所の筈だが、全体的には仄暗い洞窟の中といったところだろうか。


 メルヴィン達が其処に顕れてから一呼吸の後、コニーとレオナルドに連れられて全員が無事同じ場所に移動を完了した。


「そうか、ここは本当に『寝所』なのか」

「ああ。直にはオレも見てなかったが、古の地龍は次代にほぼ全てを注いだらしい。混ぜた神の縁で、ドワーフに『寝所』を護る巣を造らせたんだっけ」

「へぇ、興味深い」


 そんな歴史的裏事情を聞きながら、先頭にルークとメルヴィン、カーターとコニー、最後尾にレオナルドとその少し手前を歩くルーナエレンを抱いたまま歩く、アレンハワードが続いている。


 距離を稼いだとはいえ、早朝から幼気な三歳児のペースで未知の場所の探索など、全員が過保護なので考えにも及ばない。

 この先にどんな状況が待っているのか判らないので、ルーナエレンも降ろして欲しいと言うことも無い。

 それに他の人には出来ない調査もあるので、そちらに意識を集中させるにはこうしているのが一番良いのだ。


 何より、大扉を潜ってから絶えず聴こえているあらゆる負の思念が、大好きな父にくっついていないと受け流すにも辛くなる。


「はやくいかないと‥‥」


 可愛らしい眉をキュッと寄せてハの字にし、紫水晶の大きな瞳を曇らせる。

 少し先を歩くコニーも、心なしか普段のキュルンとした紅玉の目をやや険しげにしている様に見える。


 そもそもコニーを構成する大半の成分は、ここから逃れたモノだ。

 それ故感情は無くとも、状況は理解しているのだろうと察する事が出来た。


 夥しい数の呪いで濁った声に、か細いそれが混じるのを感じとったルーナエレンは、少し身を乗り出してレオナルドへ声を掛ける。


「レオナ、あのね、エレンがおねがいするばしょまで、ぎゅってくっつけられる?」

「おお、どした?」

「きこえるの、でもすごいしたのほう」


 アレンハワードの首に回していた手を片方だけ外し、ゆらゆらと目の前で揺れるレオナルドの黒い尻尾に掌を差し出すと、獣姿のレオナルドはしゅるりと可愛い掌に尻尾を絡ませる。


「ふむ‥‥成程、ちょっと遠いし邪魔が多いな。メルヴィン!片割れの名を教えろ」

『メイヴィス‥‥それが姉の名です』


 片割れが少しでも助かる確率が上がるのならと、勝手に名前を差し出したメルヴィンだが、彼らに委ねるしか選択肢がないのは元より同じなのだ。

 そんな気持ちで素直に応じると、黒い獣は器用にもニヤリとその口を歪ませた。


「目標補足完了!一気に行く、各自浄化の護符を起動しとけよ!」

「分かった。ついでに繭の内と外、二重に隔離出来るならお願いするよ」

「それいいな、採用!」


 レオナルドは自身以外の若干緊張した顔を順に見回した後、心底楽しそうに返答する。


 そしてするりとルーナエレンの掌に絡ませていた尻尾を解くと、軽い足取りで洞窟の高さの中程まで跳び上がり、くるりと回転して反動を利用して、苔の絨毯が拡がる地面を着地とほぼ同時に尻尾で鞭を打つように打ち付けた。


 少し湿った柔らかい苔が緩衝材となっているのか、パシンとレオナルドの撓る尻尾が床を打った音が響いたと同時に、足元が急に揺らいで一瞬穴に落ちてしまったかのような浮遊感に包まれ、直ぐに重くドロリとした異質な魔力に満ちた、仄暗い空間に移動が完了していた。


「う‥‥」

「着いた」


 レオナルドの強引な空間操作に馴染みの無いのは元より、他者によってこんな風に自身の居る領域を大規模に改竄される経験などメルヴィンですら無い。

 急激な魔力の質や魔素濃度の変化した場に、無理矢理高速で突っ込まれて激突するように堕ちた為なのか、メルヴィンは全身の魔力を攪拌された様な状態で思わず呻き声を漏らす。


 もう其処は、メルヴィンがあの日逃げ帰った繭の中だった。










 


お読み頂き、有難うございます٩( 'ω' )و

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